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日本HPから初のIA-64対応システムが登場――「IA-64はサポートするが、Mercedの採用は未定」

1999年04月19日 00時00分更新

文● 風穴 江

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日本ヒューレット・パッカード(株)(日本HP)は、15日、HP-UXベースのエンタープライズサーバーの新製品『HP 9000エンタープライズ・サーバ Nクラス』を発表した。同製品は、HPがインテル(株)と共同で開発している“IA-64”プロセッサーに対応した最初のハードウェアシステムで、当初出荷時点ではMPUとしてPA-RISCアーキテクチャーのPA-8500プロセッサーを塔載するものの、将来的にはそれをIA-64プロセッサーにアップグレードすることが可能となっている。

インテルが描くMPUロードマップによると、同社は、現行のPentium II/III、Celereonに代表される32bitアーキテクチャー“IA-32”の開発を今後も継続するとともに、2000年半ば以降には、64bitの新アーキテクチャーIA-64ベースの最初の製品となる“Merced(開発コードネーム)”を投入する予定となっている。インテルはこれまで、PC向けMPUで圧倒的なシェアを誇ってきたが、このIA-64では、PCよりも上、現在はSPARCやPA-RISCなどのRISCプロセッサベースのシステムが圧倒的なシェアを誇っているエンタープライズサーバー分野への進出を狙っている。

IA-64の開発に関してインテルは、HP社と提携し、HPが同社のPA-RISCプロセッサの開発で培ってきたコンパイラー技術などを取り入れながら、共同開発を行なってきた。その共同開発の成果として、IA-64は、“IA:Intel Architecture”としてIA-32とのバイナリコンパチビリティを維持するとともに、HPのPA-RISCともバイナリコンパチビリティを保つと発表されている。具体的にどういう方法をもって、異なるプロッセサー向けのバイナリコードに互換性(コンパチビリティ)を持たせるのかは公表されていないが、このことは、将来的にPA-RISCに代わる選択肢を用意できることになるHPにとっては大きな意味を持つ。

というのも、MPUの開発、製造にかかる投資金額は年を追って上昇してきており、研究開発費のことも考えれば、これから先、常に最先端の性能を実現するMPUを1社で開発していくのは難しくなっていくと見られているからだ。つまり、PA-RISCシステムで稼働するUNIXベースのOS『HP-UX』を始め、現行の数々のアプリケーションをそのまま移行できるともに、マイクロソフト(株)のWindows 2000などにも対応できるようになるIA-64は、PA-RISCの将来的な“保険”として重要な意味を持っているのである。

今回、『HP 9000エンタープライズ・サーバ Nクラス』の発表会において、本邦初となる、IA-64対応システムボードが報道陣に公開された(写真)。発表の直前に米国から届いたばかりということで、実際にはあまり詳しい話を聞くことができなかったが、それでも、2000年後半の登場というIA-64のスケジュールを信じさせるという意味では、それなりの効果があったといえる。

初めて公開されたIA-64システムボード(写真)
初めて公開されたIA-64システムボード(写真)



関係者の説明によると、今回発表されたNクラスのシステムボードでは、すべてHPが自社開発したシステムチップセットが使われているという。しかし実際には、ほとんどのチップセットに巨大なヒートシンクがつけられており、チップのシルク印刷等を確認することはできなかった。写真の、ヒートシンクの間に8個並んでいる金属枠がMPUソケットで、ここに、当初はPA-RISCが、そして将来的にはIA-64プロセッサーが装着されることになる。ソケットといっても、金属の枠があるだけで、システムボード上に剥き出しになったパターンが接点として使われるようになっている。

MPUを装着するソケット部分。基板のMPUモジュールとのパターンが接点になっている
MPUを装着するソケット部分。基板のMPUモジュールとのパターンが接点になっている



説明によると、この約10cm弱の正方形の金属枠に“ビルのように”、MPUモジュールが“聳え立つように”装着されるという。なお、今回発表されたシステムでは、前述の通り、MPUとしてPA-8500が塔載されるが、これとIA-64バスとの間には“バスコンバータ”が置かれる構造になっている。もちろん、IA-64プロセッサーを塔載する際には、このバスコンバータはバイパスされることになる。

システム構成図からも分かる通り、システムバスである“IA-64システムバス”が、メモリーコントローラーを狭んで2つ対称に接続されている。1つのIA-64システムバスには、最大で4つのMPUを接続できるといい、その結果、システム全体では、最大8MPUのSMP構成が可能となっている(なお、説明によると、塔載するMPUの個数は奇数でも可だという)。


システム構成図(画面をクリックすると拡大します)

同社から提供された資料によると、このIA-64システムバスは、帯域幅が約1.9GB/secで、バス上を流れるデータに対してECC(Error-Correcting Code)を適用することで、データの信頼性を確保しているという。そして2つのIA-64システムバスが接続されるメモリーコントローラーは、最大で“512MB DIMM×32=16GB”をサポートし、そのときの理論帯域幅は7.68GB/sec(平均4.35GB/sec)となっている。なおメモリーモジュールとしてはSDRAMが採用されており、HPとしては、このHP9000シリーズのようなエンタープライズサーバー製品では、RDRAMやDirect RDRAMなどの採用は考えていないという。

PA-RISCとIA-64の両方をサポートする『Nクラス』の投入でHPは、将来に渡ってコンピューティング環境のスケーラビリティーを提供する基盤を着実に固めつつあると言える。しかし、一見、準備万端にも見えるIA-64サポートについては、不安材料がないわけではない。米国のマスメディアなどでは、IA-64の最初のプロセッサインプリメントとなるMercedが思ったほどのパフォーマンスを達成できないのではないか、という噂が報じられている。

実際、IA-64とPA-RISCがバイナリコンパチビリティがあるとはいえ、“最高のパフォーマンスを引き出すためには、IA-64向けに再コンパイルする必要がある”ということは同社でも認めている。また、採用するIA-64プロセッサにしても「IA-64プロセッサをサポートするとは言ったが、Mercedを採用するとは一言も言っていない」(同社幹部)と、同社での実際のIA-64の採用が、Mercedの次に控える“McKinley(開発コード名、リリースは2001年末と言われている)”からとなるようにもとれる含みのある発言をするなど、必ずしも青写真通りに事が進んでいるというわけでもなさそうだ。

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