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横浜デジタルアーツスクール、記念シンポジウムを開催

1998年12月01日 00時00分更新

文● 田原佳代子

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 11月29日、横浜デジタルアーツスクールのプレオープニングイベントである記念シンポジウムが横浜・相鉄岩崎学園ビルで開催された(開校は来年4月)。“マルチネットワーク社会のなかの個人、仕事、生活”をテーマに、各分野のエキスパートを迎え、プレゼンテーション、パネルディスカッションが行なわれた。

 プレゼンテーションでは、出版、ウェブ、DTP、マーケティング、情報デザイン、暮らし、医療、コミュニケーションをキーワードに8セッションが開催された。“さまざまな分野に広がりを見せるデジタル・コミュニケーションの可能性と問題点”や“暮らしやビジネスの新しいソリューション”について多角的に解き明かそうと試みている。以下、ビジネス関連のプレゼンテーションについて報告する。

「平凡社以外のコンテンツも扱いたい」--出版

 出版において電子メディアがもたらす変化と可能性については、(株)日立デジタル平凡社取締役、龍沢武氏が次のように報告した。龍沢氏は、デジタル世界大百科事典の制作に長年かかわってきた。

「デジタル化、データベース(以下DB)化を考える場合に、デジタルの2次利用という観点を一掃しなければならないでしょう。デジタル化とは何かを問わなくてはいけない。DTPは出版、印刷の方向の話です。そうではなくて編集そのものの中でデジタル化ということを問題にし、なおかつ、従来の編集のノウハウとデジタルをどのように結びつけるかということ考えないと駄目だと思います。」

「コンテンツの性格についても考えないといけない。データなのか、情報なのか、知識なのか。また、フローか、ストックかについても問わなければ。DBをどう構築するかは、技術論よりむしろ内容論ですね。内容に即したDBを作っていくことが重要です。そういう観点でコンテンツの中身、性格をきちんと押さえていかないとデジタルパブリッシングというものは展開していかない」

「日立デジタル平凡社のデジタルパブリッシング構想では、DBをコアとして、統合マルチメディアDBをいかに拡充していくのかが大事です。ここからさまざまな商品形態が生まれる。このDBは平凡社のコンテンツだけである必要はないんですね。出版界にはさまざまなコンテンツ、編集ノウハウがあります。ユーザーが1社のコンテンツだけを買うなんてことは有りえない。要するにコンテンツの連合をここで作り、DBを拡充していくということも可能です」

百科事典の電子化への取り組みを振り返りながら、こういう展開になるとは本当に予想もしなかった事態なんですと、龍沢武氏
百科事典の電子化への取り組みを振り返りながら、こういう展開になるとは本当に予想もしなかった事態なんですと、龍沢武氏



「印刷所に丸投げする体質では進まない」--DTP

 DTPの現状については、月刊アイピーネット編集長、柴田忠男氏が次のように報告した。

「DTP、CID、PDFへの対応について、現場やプロダクションのレベルでは、導入しようという気が起こらない、といっています。私は、ハード、ソフト関係で今、少し停滞しているのではないでしょうか。その間に、実際にお金の掛からないかたちのデジタル化が進んでいけばいいなと思います。それは、制作レベルにおけるワークフローの見直しとか、新たなワークフローの構築じゃないかと思います」

「出版界のDTP化が進まない理由は、編集者自身の問題です。今やほとんどの編集者が、次のような体質になりきっています。すなわち、自らはやらずに、とにかく難しい問題は、全部後送り、あるいは一括して、丸投げして、印刷会社に任せてしまおうというものです」

「この体質を変えないかぎり、DTPは導入できません。DTPでは完全なデータを作って、入稿した後はもう、一切手を加えなくてもいい。そこから後は印刷代だけでほとんどお金が掛からない。それができるようにならないかぎりDTPのメリットは得られないわけです」

自分のことをSOHO者(もの)、デジタル部活者(ぶかつもの)と呼ぶ、柴田忠男氏
自分のことをSOHO者(もの)、デジタル部活者(ぶかつもの)と呼ぶ、柴田忠男氏



「コミュニティーが本質」--マーケティング

 (株)電通テックの藤本孝氏は、マーケティングの観点からウェブコミュニケーションの将来性について、次のように報告した。

「インターネットの本質はコミュニティーにあると考えるべきでしょう。コミュニティーはトゥーウェー(双方向性)の要素を持っているからです。今まで、マスマーケティングの時代には、企業が発信した情報を顧客、生活者、消費者が受信するという一方的な関係が成り立っていました。従って、情報は企業側が多く持っていました。ところが、インターネットの出現で“情報の非対称性”が解消されつつある。生活者が勝手にコミュニティーを作って、どんどん情報交換をし、ネットサーフィンをし、製品のことをメーカーよりも詳しく知っていたりする」

「ウェブは今ではもうマーケティングのメディアになりつつあると思いますが、コミュニティーのメディアには、次の段階くらいでないとなっていけないのかなと。現状はまだ、マーケティングのメディアとして有効に機能するために、コミュニティーの要素を加えるレベルであるというのが率直な感想です」

藤本孝氏は、マーケティング概念の変化にも触れながら、ウェブがマーケティングのメディアとなるか展開藤本孝氏は、マーケティング概念の変化にも触れながら、ウェブがマーケティングのメディアとなるか展開



「迫り来る激変期」--パネルディスカッション

 パネルディスカッションでは、横浜デジタルアーツ専門学校教務部長の山田統氏をコーディネーター、神奈川インターパブリシング協会会長の高橋晃氏など8氏をパネリストとして迎えた。情報リテラシーの問題から、インフラ整備、インターネットによる通信販売などさまざまなテーマについて突っ込んだ議論が繰り広げられた。

プレゼンテーターの方々とは今日が初対面、メールでのやりとりがあってこそシンポジウムが実現したと、コーディネーターの山田統氏
プレゼンテーターの方々とは今日が初対面、メールでのやりとりがあってこそシンポジウムが実現したと、コーディネーターの山田統氏



パネルディスカッション風景
パネルディスカッション風景



 今回のシンポジウムでは、社会の枠組みそのものが大きく変わろうとしていることを実感した。世は、“多種のネットワークが複雑にリンクして活動するマルチネットワーク社会の時代”へと、動きつつある。激動期特有の過渡的現象として、私達が乗り越えなければならない課題が山積している。プレゼンテーターによる厳しい現状を踏まえたメッセージから、その事実が迫ってきた。

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