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イスラエル、ハイテク産業の強さの秘密を探る!

1998年09月16日 00時00分更新

文● ビデオジャーナリスト 神田敏晶

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 米国でのNASDAQ(米国株式店頭市場)上場では、米国、カナダに次いでもっとも多い国イスラエル。特にハイテクおよびIT(情報技術)産業における影響は世界的に見ても影響は多大である。今回、イスラエルのハイテク視察、およびインタビューの機会に恵まれたので、テルアビブ市内から数回に分けて報告してみたい。

テルアビブ市内のホテルから地中海沿岸を臨む
テルアビブ市内のホテルから地中海沿岸を臨む



聖書一冊持てば信仰が続けられる

 イスラエルは、西アジアに位置し、米国からも日本からも地理的に遠い国である。約1900年前にローマ帝国のコンチタンチヌス帝にユダヤの一族がイスラエルを追われて以来、自国を持たないまま、世界の各地に分かれて一族を維持してきた民族である。ユダヤ人の歴史は迫害の歴史そのものであり、ペストその他の伝染病、大火事まで、西洋の主権者の立場が悪くなると、常にスケープゴートとされてきている。その世相を利用したナチスのユダヤ人の殺戮では、1200万人いた世界のユダヤ人は半分の600万人になってしまったといわれる。1948年、イスラエル建国で、2000年もの間の流浪の民族が安住の地をついに手にした。そして今年はイスラエル建国から50周年にあたる。

 イスラエルのハイテク産業の強さを知る上において、彼らの歴史的な背景は非常に重要なポイントをしめている。ユダヤ人の国際ネットワークは、世界の有力企業と深くかかわり、情報、金融、経済に及ぼす影響も多大である。どんな時代においても抜群のビジネスセンスでユダヤ人は頭角をあらわしている。特に金融関係でのビジネスにおいては秀逸であった。

ダイヤモンドタワーのチェックポイント社から見下ろすテルアビブ市内
ダイヤモンドタワーのチェックポイント社から見下ろすテルアビブ市内


 彼等のビジネスの根底にあるのが、『聖書(旧約聖書)』と『タルムッド(ユダヤ教の聖典)』の精神であるように感じる。聖書からは神から選ばれた民としての誇り、タルムッドからは生活、ビジネスにわたるさまざまな処世術が、幼少の頃からユダヤ人のコモンセンスとして浸透している。教会をベースとした信仰ではなく、聖書一冊あればどこでも信仰できる彼等は、世界のどこでもいつの時代であっても希望を持って生き続けてきたようだ。

“キパ”という帽子を髪につけるユダヤ教の信者。町中でも多く見かける。イスラエルでは、ユダヤ教82パーセント、イスラム教14パーセント、キリスト教は2パーセント
“キパ”という帽子を髪につけるユダヤ教の信者。町中でも多く見かける。イスラエルでは、ユダヤ教82パーセント、イスラム教14パーセント、キリスト教は2パーセント



ユダヤ人のビジネス感覚

 “ユダヤ商法”と称されるほど、彼らのビジネスはタフであり、交渉上手であった。迫害されてきた民族が生き残るためには“金”という世界で共通な言語がいつも必要であったからだ。迫害されないためにも、ユダヤ人は各国で税金をきちんと納める。約束を絶対に厳守するなどのタルムッドの教えで民族の地位を守ってきた。逆にそのビジネスセンスを妬んでの迫害があったほどだ。

 『聖書』の教えはイスラエルの地を巡って、民族間の争いにも影響を与えた。イスラムの教えを重んじるイスラム教徒の多くがアラブ諸国にあり、お互いにジュリサレム(エルサレム)を聖地としていることから、中東戦争勃発に影響を与えている。西洋の烈国が産油国であるアラブを支援したことにより、イスラエルは武器類を海外から調達することができず、一から武器類を独自に研究開発したのである。

 現在でもイスラエルの国防費として、国家予算の3割以上が計上され、男子、女子ともに18才になるとイスラエル軍に所属することとなる。男子で3年間、女子で2年間である。また、その後も年に1ヵ月間程度は、イスラエル軍に従事することが定められており、軍事関係に深いネットワークが一般企業生活にも深く浸透している。

イスラエルの軍隊は、高校卒業後の最新技術収得のための機関とパートナーとの出会いの場
イスラエルの軍隊は、高校卒業後の最新技術収得のための機関とパートナーとの出会いの場


 軍事技術が、イスラエルのハイテク産業に大きな変化をもたらしたことも注目したい。独自で開発した数々の暗号技術や、データ圧縮技術、独特のアルゴリズムの発想などは、軍での経験が生んだといっても過言ではないだろう。男女共に国民全員が最新技術の訓練を高校卒業後3年間学んでいるのである。また、この時期に出会ったパートナーと起業する若者も多い。ファイヤーウオールで首位のチェックポイント社もそんな会社のひとつであった。

ダイヤモンド産業でさかんであった地区に新興のインターネットベンチャーが入居する。ダイヤモンドタワーのチェックポイント社。
ダイヤモンド産業でさかんであった地区に新興のインターネットベンチャーが入居する。ダイヤモンドタワーのチェックポイント社。


 「イスラエルの独特のアルゴリズムの発想は、タルムッドのいろんな角度、立場から考えるという教えによる影響かもしれない。ひとつのプログラミングを形成する段階において、どうすれば問題が解決できるかというソリューションに対して、子供の頃からいろんな方法を繰り返しているからかもしれない」と在日イスラエル大使館の経済公使のレビー・エラッド氏はいう。

小さな国から輩出する頭脳

 イスラエルは、2万700平方キロメートル(日本の1/18の国土)、人口590万人(日本の1/22)という世界でも小国に位置する国である。しかし、この国のハイテク産業をイメージする時にこれらの数字は時に大きな誤解を生み出す傾向がある。日本よりも小さく小国民でありながら、世界に与える影響は少なくないのである。彼らの“ビジネスに対する感覚”、“独自の技術力”、“世界に通じる国際感覚”は、日本とはかなり掛け離れている。

 米ソ冷戦以降、旧ソ連からの大量の科学者の移民などの頭脳の流入はすさまじい。それを証拠にIT産業の主要なR&D(研究開発)ディビジョンがほとんどイスラエルに集結してきている。たとえば、ハイファには、マイクロソフト、インテル、IBMが軒を連ね、ヘリツィスでは、サイテックスを古参として、インターネット、マルチメディア関連のスタートアップカンパニーが200社を越える勢いで生息している。あのWindowsNTやペンティアムがこのハイファでデザインされたことはあまり知られていない。

ハイファのマイクロソフトのR&Dディビジョン。この地区はハイテクインダストリーパークとして大企業のR&D部門が多く集まる
ハイファのマイクロソフトのR&Dディビジョン。この地区はハイテクインダストリーパークとして大企業のR&D部門が多く集まる



イスラエルの強さの秘密?

 またイスラエル政府が、ハイテク、IT産業を最も重要な輸出産業として捉え、政府みずからベンチャーキャピタル的な投資に積極的である点にも注目したい。事業プランを提出すれば、それをもとに企業をスタートアップさせるための“シーズマネー”という事業資金が投資される。融資ではなく、投資という点に注目したい。

 これにより、成功した事業会社は売り上げの3パーセントなどを政府に対して返却する。失敗した場合には返却の必要はない。また、事業アイデアはあるが、事業プランに落とし込むことができないほとんどのアントレプレナーのために、フォローがあるほどだ。事業プランを立案するための専門コンサルタントまで紹介してくれるのである。

 「イスラエル政府の事業投資の案件は、ふるいに掛けるのではない。小規模な金額でも多くのスタートアップカンパニーのシーズマネーにしたいと願っている点が日本のケースとは異なる点であろう。日本の政府の多くが大企業に公共投資しているが、イスラエルがそのほとんどが逆のスタートアップカンパニーに投資していることが大きなちがいだ」とイスラエル輸出研究所のダニエル・ブロシェ氏は語る。

 また、ホテルに滞在していて驚異に感じたのが、テルアビブの風光明媚な地中海海岸添いのホテルのコンファレンスルームで、連日のようにハイテク&IT産業のコンファレンスが開催されていることだ。それも1日単位で目紛しいほどのセッションが開催されている。マイクロソフト社などのセミナーから、投資家向けのコンファレンス、スタートアップカンパニーと投資家とのお見合いなど多岐に渡っている。これから、イスラエルのハイテクベンチャーの取材を交え、イスラエルのハイテク産業の強さの秘密を探っていきたい。

連日ホテルのカンファレンスルームではイベントが開催される。この日はプログラマー向けのセッション
連日ホテルのカンファレンスルームではイベントが開催される。この日はプログラマー向けのセッション

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