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【INTERVIEW】必然性のあるWebアートとは? 資生堂文化事業部の樋口昌樹氏に聞く

1998年09月16日 00時00分更新

文● 坂田恵 megus@tkc.att.ne.jp

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 (株)資生堂は、国内だけでなく海外でも幅広く事業を展開している化粧品メーカーである。しかし、それだけでなく、ギャラリー運営などの文化事業活動でも広く知られている。同社のホームページではその活動が紹介されている。今回、同社がホームページで“CyGnet(シグネット)”というアートスペースを開設した。その開設までの経緯やこれからの活動などについて、文化事業部の樋口昌樹氏にお話しをうかがった。

資生堂文化事業部の樋口昌樹氏。ギャラリーの企画などを担当、同サイトの運営も手掛けている 資生堂文化事業部の樋口昌樹氏。ギャラリーの企画などを担当、同サイトの運営も手掛けている



---- “CyGnet”を開設するまでの経緯を教えてください。

「1年半か2年くらい前に、銀座の資生堂パーラーを取り壊すことになりました。去年の5月でギャラリーをクローズするにあたり、クローズしている間にWeb上で何か活動ができないか、という話が、1年半前くらいからあったんです」

「ただ当時、正直言って私は反対していました。そんなことやってもしょうがないと言っていた……。というのも、当時はインターネットを使って何をやるかという具体的な話になると、誰もアイデアがなかった。わりと安直に“仮想のギャラリー空間をつくれば……”みたいな話しになっていたんですよ。それだったら、私はやる意味がないと思っていた、はっきり言って。今はいろいろな美術館やギャラリー、アーティスト個人がホームページを開設していますが、やはり情報を公開しているだけにとどまっているんですね。情報として見せるにしても、即時性であるとか、広範な世界からアクセスできるだとか、そういったメリットはありますけど……。情報としてではなく、作品を鑑賞するというレベルには達していないと思っていたんです」

「じゃあ、何ができるか。いろいろと、Webの作品を見て回ったりもしました。でも、それを見ても感動するものがあまりなかったんです。コンピューターを使って“あー、こんなことができるのか”というだけで、アートな感動はなかった。インターネットをメディアのツールとして使って、インターネットだからこそできることでなければ、やっぱりアートとは呼べないと思うんですよ」

アートスペース、CyGnetのトップページ。プリント基板の上の配線が文字を描いている。基板上の部品がクリックボタンになっていたりする
アートスペース、CyGnetのトップページ。プリント基板の上の配線が文字を描いている。基板上の部品がクリックボタンになっていたりする



----樋口さんの考えるWebアートとは、どのようなものですか。

「すべてのアートというものには、それなりの必然性があります。だから、油彩と水彩で描くのは互いに違うし、彫刻にしても、木彫と石彫とブロンズとは違うのです。その特性を生かして作家は作品を作るわけです。同じように、インターネットの特性を生かしきれていないと、アートとは呼べない。そういった中で、インターネット上で活動を開始することのジレンマはありました」

----実際に作家を選定するにあたっての御苦労をお聞かせください。

「自分が、インターネット系のアーティストに詳しくないものですから、誰かアドバイザー的な人を探そうということになったんです。結果的に四方幸子さんにお願いすることになったのです。四方さんはメディアアートに詳しいキュレーターです。四方さんにいろいろなアーティスト紹介してもらっているとき、四方さんがハンガリーのEast Edgeのグループが製作した作品『タイレル・ハンガリー(Tyrell Hungary)』を探してくれたんです」

タイレル・ハンガリー
タイレル・ハンガリー

』のタイトル画面

「East Edgeのみなさんは、ネットワーク上で仕事をしてますし、Web上ですでにコンセプチュアルな活動をしています。メンバーはみな若い人達で、彼らは4歳からコンピューターを使っているんですよ! 今回は5人の名前がメンバーとして書かれていますが、プロジェクトごとにメンバーは流動的に増えたり減ったりしているようです」

East Edgeの作品
East Edgeの作品



「もう一人のアーティスト、朝岡あかねさんは、Webで活動しているわけではありません。今回も最初は展覧会ができないか、という話だったのです。しかし、作品を見て、インターネットでも何かできるんじゃないか、と思い立ちました。そっちに興味はありますか、と言ったら、すでに個人でホームページを持っておられたのです。そのホームページは紹介だけにとどまっていたんですが、もっと、作り込んでみたらいいんじゃないか、ということになって始めたものです」

----今後日本国内の、アーティストの作品をとりあげることについて。

「実際に日本国内で活躍している、アーティストにも声をかけています。『タイレル・ハンガリー』のように、ネットワーク上での活動で作られたものもあります。自分たちである程度のコンピューターのノウハウを持っていて、自分たちで作品が作れる人もいます。こちらとしてもそのほうがよいのですが、なかなかまだいないです。また、そういった人たちの危険なところは、テクニックに引っぱられてしまう部分があるというところです。特にインターネットやメディアアートと呼ばれるものは。わりと技術寄りのものになってしまいがちなのです。朝岡さんなどは、本当にユーザーの立場でツールとして使っているだけですし、特に技術があるわけではないんです。これからは、ノウハウはないけどなにか面白いアイデアのある人を、資生堂のコンピューターデザイングループのWebデザイナーとコラボレーションするような形で、作っていく。その2通りを考えています」

----デジタルとアートのこれからについて。

「今はいろいろなデジタル機器がモバイルになってきていますよね。美術の世界でも印象派などの絵画が生まれたのは、技術的背景からなんです。チューブ入りの油絵の具が開発され、持ち運べる道具が生まれたことで、画家たちが外で絵を描くことができるようになってからなんですよ。いわば絵画のモバイル化なんですよね。もちろん技術を利用したことで、光を描きたいという人達が出てきたわけで、アイデアと技術があってはじめて実現したわけです。今の世の中も、新しい技術を使いこなす人が出てくれば、またアートも進化していくでしょう。発想の違う世代が出てくることで、新しいアートのスタイルがどんどん生まれてくると思っています」

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