7月21日までパシフィコ横浜を会場に開催されたインターネットの国際会議“INET2000”。本稿では“女性とインターネット”をテーマにした2つのシンポジウムを紹介する。1つ目は、本体のセッションプログラムとして開かれた“Women
and the Internet”。もうひとつはINET2000のサテライトイベントである“すべての人のためのインターネット展”のシンポジウム“女性とインターネット”である。
昨年のINET'99では、女性とインターネットをテーマにした集まりは、有志による朝食会というスタイルで開催され、インターナショナルな意見交換が行なわれた。今年は正式に本会議のプログラムとしてとりあげられ、よりつっこんだ意見が交わされた。
スポンサー探しが難しくなっている海外の女性向けサイト
まず、19日に行なわれたセッションでは、リン・クレメント氏から、オランダの女性を対象としたインターネットユーザーグループ“WEB GRRLS”が紹介された。活動が始まったのは5年前で、MLを使った情報交換が中心だが、他にもオフラインでの勉強会やさまざまな交流イベントで親睦を深めている。昨年の3月頃は2000人程度だった会員が、最近になって月100人ペースと急速に増えている。それに比例してメッセージも1日あたり100程度のポストがあり、うれしい悲鳴をあげているという。こうした現象は、世界におけるインターネットユーザーの増え方とも同じで、女性への普及が“ツールの一般化のバロメーター”になっているとも分析できる。
WEB GRRLSの活動を写真で報告したもの。勉強だけでなく、遊びやイベントへの参加も積極的だ |
だが、今後の課題としては、増えてきた会員へのケアをどうするかがあり、特にスポンサー探しは困難になってきているという。女性向けサイトというだけで、スポンサーが簡単につくのはコマーシャリズムと関連があるサイトの話で、“WEB
GRRLS”のような地道な活動に対しては、なかなかスポットがあたりにくくなってきているところもあるようだ。
“Women and the Internet”の会場より。右がクレメント氏で左が折田氏 |
ネットワークによって自分の“個”に気づきはじめた女性たち
次に日本の事例として、慶應義塾大学院政策・メディア科に所属する折田明子氏からの報告がなされた。折田氏はINET'99で行なわれた有志の会にも参加し、今回の地元横浜での開催を強く呼びかけた人物だ。折田氏はネット内での女性人口はまだ少ないが、テーマによっては女性中心のコミュニティーが育ちつつあるとし、その一例として“別姓系コミュニティー”を紹介した。折田氏が取り上げたテーマは“別姓コミュニティー” |
これは別姓をテーマにしたサイトの集まりを指すものだが、呼びかけでできたものではなく、サイトが増えていく中で自然と横つながりができ、双方向リンクやオープンな討論の場へと、その中身が拡がっていたそうだ。この中で折田氏は、インターネットでは“サイトを持つこと=ネットワークへの参加”のように思われてきたが、日本ではサイトを持たずとも、こうしたコミュニティーへの参加でインターネットの世界へ積極的に関わろうとする人たちが増えていること、また女性にこうした傾向が強いと分析している。
20日のサテライトイベントのセッションにも登場した折田氏は「女性はネットワークに参加することで初めて自分の個に気づいた。これまで全くの受け身だった女性が発言によって他者との違いを自覚し、そこから、女性独特の問題を前向きに検討できるようになった」とコメントした。
女性向けサイトが増えてるのはいいが、折田氏がそれらをチェックしたところ、コンテンツは買物かファッション、デザインはピンクやパステルトーンばかり、というあまりにもステレオタイプなものばかりにあぜんとしたという |
まだまだ男性の基準で考えられているインターネット
さらに折田氏は、インターネットの男性優位性にも着目。「女性はネットワークの中でも“女性”というステレオタイプに縛られている。匿名性の高さをネットワークの利点とし、もっと発言の機会を増やしてほしい」とまとめた。折田氏の発言を受けて、ISOCの副会長であるクリスティーナ・マクスウェル氏は、女性をとりまく社会的な問題は、地域によって異なるため、まずはそうした違いをどう理解するかも大切とした。
サテライトイベントではISOC副会長のクリスティーナ・マクスウェル氏と折田氏がシンポジウムに参加。ISOCでも女性理事の数は少なく、そうした現状の中でマクスウェル氏は、女性や弱者の発言権をもっと増やそうと精力的な活動を行っている。実際、氏の尽力がなければINETから女性というテーマはとりあげらえれなかったかもしれない |
「相手を理解するためにインターネットという情報ツールがあるのだが、実はまだ男性基準で考えられている。技術のデザインがそうで、とっつきにくいものが多すぎる。もちろん、新しい技術は必要だが、それらをリアリティーを感じさせるには、女性が得意とする革新的なアイデアとセンスをもっととりいれていくべきだ。男性はビジネスとオフを切り替えているが、女性はマルチタスク思考で切り替えがない。その分、ネットにリアリティーを持って取り組んでいるのだが、そうした部分が男性には理解されにくいようだ」
女性をはじめ、インターネットで弱者と位置づけられる人たちからの声を聞くことは、INETの大切な機能ではあるのだが、デジタルデバイドや教育といった大きな問題の影で、女性というテーマが注目されにくくなりつつあるのも事実である。もはやネット人口の半数を占める女性について、どのような視点で、何をとりあげていくのか。失われてはいけないテーマであるだけに、もっと多くの意見を聞かせてほしい、とマクスウェル氏らは呼びかけている。
会場からは「女性への教育そのものを考えるべきなのでは」という意見もあった |