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OLから新進CGデザイナーへの転身を語る“デジタル業界の女たち、THE LIVE”開催

2000年06月12日 00時00分更新

文● 船木万里

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11日、東京・お茶の水のデジタルハリウッドにおいて“デジタル業界の女たち、THE LIVE”と題し、デジタルハリウッドと週刊アスキーの合同開催によるセミナーが行なわれた。

週刊アスキーで人気連載中の“デジタル業界の女たち”を単行本にまとめた『わたしたちのデジタル業界』刊行を記念したイベントで、週刊アスキー編集長の福岡俊弘氏が司会を務め、コラムニストの神足裕司氏が進行。

ゲストにジェットグラフィックスデザイナー・取締役の中路真紀氏を迎え、中路氏の“OLからCGデザイナーへの転身”を中心としたトークを展開した。

華麗な女性たちに最も似合わないインタビュアー?

まず福岡氏がセミナーの内容などについて説明。週刊アスキーの連載“デジタル業界の女たち”の企画は「自分自身、仕事でIT業界で活躍する女性に会う機会が多く、肩肘張らずエレガントに仕事をこなす彼女たち自身をインタビューしてみたいと思ったのがきっかけ。インタビュアーとしては最も似合わないと思われる人に頼もうということで、神足さんにお願いしたところ、意外にも人気連載となり、もう70回を数えている」と話した。今回刊行された『わたしたちのデジタル業界』は、26回分の連載をまとめたもの。

このたび単行本となって発売された『わたしたちのデジタル業界』を手に語る、週刊アスキー編集長の福岡俊弘氏
このたび単行本となって発売された『わたしたちのデジタル業界』を手に語る、週刊アスキー編集長の福岡俊弘氏



福岡氏の呼び込みに応えて登場した、著者の神足裕司氏は「男性は組織から出ると無力になってしまう人が多いが、女性は自分が仕事で何をしたいかを明確に分かっていて、それに向かって邁進していく人が多い」と、取材で出会った女性たちのパワーを賞賛。次に連載の第2回に登場した中路真紀氏が紹介され、舞台に上がった。

『デジタル業界の女たち』インタビュアーとしては最も似合わない男? 神足裕司氏
『デジタル業界の女たち』インタビュアーとしては最も似合わない男? 神足裕司氏



雑誌でCGを見た瞬間「これしかない」

中路氏は、OL8年目のある日、本屋さんでCG雑誌を手に取り、美しい3DCGを見たとたんに「これがやりたい」と思い込み、その場でデジタルハリウッドに電話して入学を決めたという。会社も退職、すべてを捨ててCGにのめり込んだ。

ジェットグラフィックスのデザイナー・取締役の中路真紀氏
ジェットグラフィックスのデザイナー・取締役の中路真紀氏



  「3年前のデジタルハリウッドは、雑居ビルに間借りする、学習塾みたいなボロい教室でした。CGがメジャーでなかったというのもあり、ゲームで仕事がしたいとか、マックデザイナーとして新しいスキルを身に付けたいなど、目標をはっきり持っている生徒ばかりでした。教室はマシンの数が少なく、くじ引きで使う順番を決めたりしていました。みんな経済的にも苦しくて、教室に炊飯器を持ち込んでご飯を炊いたり、マシンの順番待ちの間、寝袋にくるまって寝たり、合宿生活のようでしたね」と当時の苦労を振り返った。

「一流企業のOLをいきなり辞めるのは、怖くなかった?」、「とにかくCGがやりたい、まるで取り付かれたみたいでした」と語る、神足氏と中路氏
「一流企業のOLをいきなり辞めるのは、怖くなかった?」、「とにかくCGがやりたい、まるで取り付かれたみたいでした」と語る、神足氏と中路氏



  女性ばかり5人で課題制作に取り組み、できたのが『雛』(ひな)という2分足らずの作品。「男の子たちは絶対に使わない素材として雛人形を選んだ」というこの作品が、ニコグラフとDEP(デジタル・エンターテインメント・プログラム)というコンテストで入賞を果たす。これがきっかけとなり、卒業と同時にSony Music Entertainmentに入社。そのころ発売に向けてラストスパートをかけていたゲーム『クーロンズ・ゲート』のチームに、デザイナーとして参加した。  

中路氏の学生時代の作品『雛』。女性ばかり5人のチームでつくりあげた
中路氏の学生時代の作品『雛』。女性ばかり5人のチームでつくりあげた



幻奇的な九龍城をモチーフにした近未来SFゲーム『クーロンズ・ゲート』は、中路氏がプロとして初めて参加した作品
幻奇的な九龍城をモチーフにした近未来SFゲーム『クーロンズ・ゲート』は、中路氏がプロとして初めて参加した作品



こってりした作品を少人数でつくりたい

その後、社内都合により部署が廃止されたのを機に、仕事仲間で新会社“是空”を設立。エニックスで、開発途中だったゲームを発売してもらえることになり、オフィスを間借りする形で仕事を続けた。少人数で制作するため、仕事は超ハード。10日ほど家に帰らず、会社のシャワーやカプセルベッドを使うなど、徹夜につぐ徹夜を重ねて作り上げたという。こうして完成したゲーム『プラネット・ライカ』は、映画的・絵画的手法をふんだんに使った芸術的な雰囲気。「映像のプロである20世紀FOXから誉められたことが、とてもうれしかった」という。

エニックスから発売された『プラネット・ライカ』は、宇宙を舞台にしたゲーム。映画的なカメラワークで見る者をひきつける
エニックスから発売された『プラネット・ライカ』は、宇宙を舞台にしたゲーム。映画的なカメラワークで見る者をひきつける



  プロジェクト終了後は“是空”を解散し、現在は“ジェットグラフィックス”という新会社で、TVCMなどのCG制作を中心に活動を続けている。会社という組織に特にこだわらず、必要に応じてメンバーが集まってプロジェクトに取り組み、終われば自然解散するという形態が、CG制作の仕事には合っているようだ。

「だからといって個人プレーだけでは仕事はできない。ゲームの場合、シナリオライターやキャラクターデザインなど、さまざまな役割の人が、共通の認識を持ってそれぞれの仕事をこなすため、膨大な資料を揃え、コミュニケーションをとりながら同じイメージづくりに取り組むことが必要」と、チームプレーの重要性を語った。

中路氏自身が作品づくりでこだわるのは「やはり自分のカラーをはっきり出すこと。CGでリアルさを追求することには、あまり興味がない。『本物』という正解があって、それにいかに近づけるかというテクニックは、結局CGの存在感を希薄にしていくような気がする。それよりも、ちょっと見ただけで誰がつくったのかが分かるような、こってりした個性的な作品を少人数でつくっていきたい」と語る。

CGについての中路氏の発言を受け、神足氏は「CGは、絵画の歴史を駆け足でたどっているように思える。絵画も最初は稚拙なものから始まり、次に超リアリスティックな表現を追求し、その後印象派や抽象絵画など、さまざまな表現が生まれてきた。CGも今後、抽象的なものなど芸術的な作品が出てくるのではないか」とCGの今後を予測。また、機能や効率だけを考えたものではなく、ポストペットのように「あたたかさ」、「表情」、「細やかさ」などを最重要視する女性の感性が、今後のIT業界に変革をもたらすのではないだろうかと語った。

理想は吉田兼好?

この先の展望は、と福岡氏に問われた中路氏は「今後はこつこつと自分の好きな作品をつくっていきたい。できれば吉田兼好のように、ひっそりした田舎にこもって、自分の作風を確立させていけたらいいですね。また、現場仕事には体力の限界も感じるので、仕事のタイプなどに合わせてスタッフをコーディネートする仕事などができれば。CGの場合、作品がクローズアップされることはあっても、作者であるデザイナーには光が当たらないことが多いので、個人が評価されるためのお手伝いをしたい」と、今後の抱負を語った。

最後に、福岡氏と神足氏は「『わたしたちのデジタル業界』に登場する女性たちは皆、天才ではなくごく普通の人だが、違うのは、とにかくやりたい仕事に前向きだという点。男女格差のないIT業界では、誰でも意気込みを持って、やりたいことに取り組めば実現できるはず。今、多くの女性の力を求めている業界です」と語り、女性来場者に向けてエールを送った。

「やりたいという気持ちさえあれば夢が叶う、それがデジタル業界」と福岡氏と神足氏
「やりたいという気持ちさえあれば夢が叶う、それがデジタル業界」と福岡氏と神足氏

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