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【INTERVIEW】撤退したx86事業から学んだことは大きかった──米IDT社副社長デーブ・コテ氏

2000年06月06日 00時00分更新

文● インタビュー/構成 編集部 小林久

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米IDT社は、米国カリフォルニア州サンタクララに本社を置く半導体メーカーである。同社は、CPUの2次キャッシュなどで用いられる高速SRAMを始めとした、各種メモリーチップの開発で知られるが、近年はその事業がハイエンドルーターやW-CDMA基地局など、大規模な通信機器向けのチップの開発にシフトしている。

また、'97年に『WinChip』のブランド名でx86市場に参入したことでも知られ、MIPSコアを採用した組み込み向けチップの開発にも精力的に取り組んでいる(x86事業からは'99年に撤退)。今回、同社のASSP(Application-Specific Standard Product)担当副社長で、ワールドワイドのマーケティングを担当するDave Cote氏が来日。ASCII24のインタビューに応えてくれた。

日本IDTのASSP担当副社長デーブ・コテ氏
日本IDTのASSP担当副社長デーブ・コテ氏



PC向けチップから通信向けチップへと転換

──通信事業者向け戦略が強調されていますが、もともと強みがあった高速SRAMの事業から事業の中心が転換した背景について教えてください。

「“低消費電力だが低速”という認識があったCMOSで高速なチップを作るというのが創業時のテーマでした。そこで開発したのが高速SRAMです。当初は他社と技術を競うための製品という意味合いもありましたが、それはやがてPCのチップのひとつとして用いられるようになり、我々がマス・プロダクトの会社へ転換する契機となりました」

「しかし、SRAMの市場は近年急速に狭まってきています。汎用性のあるチップを大量に作り、安く売る方法は時代にそぐわなくなってきました。現在は、我々が高速SRAMで培った技術を利用して、顧客の要求に合った製品を作っていくべきだと考えています」

──汎用品ではなく、特定用途向けのチップ生産に主力が移るということですか。

「今後は特定用途を視野に入れた製品の開発という方向に進み、資本投下もそちらがメインとなるでしょう。しかし、従来からある汎用品の市場を放棄することはありません。また、たとえ通信向けの特定の用途を想定するとしても、開発するチップは依然としてスタンダードなものであるという点は、お断りしておきたいと思います」

──事業展開という点では、昨年撤退したx86事業のことも思い浮かびます。WinChipを開発した意味についても聞かせてください。

「x86互換CPU『WinChip』の開発は'94年に開始しました。その目的は、PC市場で一定のシェアを持っていた高速SRAMの事業と並行して、ローコスト/ハイパフォーマンスなCPUを開発することでした。これは、今後SRAMのビジネスが低迷した際の保険という意味合いを持っていました。当時、我々は複数の社内ベンチャーを立て、さまざまな方向性を模索していましたが、その中で、世に出たのがWinChipというわけです」

「しかし、'97年にWinChipが市場投入された時、すでに我々は通信分野である一定の地位を確立していました。そして、我々はx86の道を捨て、より強みのあるこの分野に特化する方針を取ることにしたのです」

──率直に言って、x86事業への参入はプラスだったのでしょうか、それともマイナスだったのでしょうか。

「ひとつだけ言えるのは、WinChipによって数多くのことを学べたということです。それは、技術革新の速いx86の分野で、プロセス技術開発の重要性を再認識できたことであり、同時にインテルというタフな相手と競ったことで実感した、ビジネスの難しさです。WinChipの開発に対する技術的な負担はさして大きなものではありませんでしたが、マーケティングパワーの維持は困難でした」

「WinChipの開発によって、我々は二重の販売チャネルを持つことになりましたが、製品ラインを広げれば広げるほど、それは重くのしかかってくるものです。多角的にビジネスを広げれば、それだけ会社に体力が必要になり、その成功は難しくなります。今後は、方向性の異なる分野に高いプライオリティを割いていくのではなく、我々が得意としている通信分野に腰を据え、統合性を武器に、そこから新たな市場を拡大していく戦略を取っていきます」

──WinChipは製品の質ではなく、マーケティング力で敗れたという意味でしょうか。

「確かに、当初の設計は悪くなかったと思います。しかし、我々の技術者は約40人。インテルは1000人を数えます。始めは200MHz付近だったクロック戦争も、数の力ですぐに400MHz、500MHzと上がって行ってしまう。これに追従して高いパフォーマンスや新しい技術を投入していくのは非常に難しい問題でした」

通信事業を中心に市場を拡大

──MIPSコアを採用した組み込みチップ「Rシリーズ」についてお聞きしたいと思います。

「我々は3日に「RC32334」という周辺機能を統合したマイクロプロセッサーを発表しました。“IPBus”と呼ばれる内部バスを持っており、他の機能を容易に付加できるという特徴を持っています」

「今後は、EthernetやATMのインターフェース、TDM、TSIといったデジタルボイス向けの機能など、通信市場に特化した機能を積極的に取り組んでいきたいと考えています。“IP(Internet Protocol)”の機能をIPBusを使って、シンプルに追加できるというわけです」

──3日に行なわれた事業説明会では、通信のインフラ事業など、大規模な話が中心でしたが、家電機器などもっと小さなデバイスへの取り組みはいかがですか。

「先日のプレス発表会では、最も注力している、移動体基地局を始めとしたインフラの部分を強調しましたが、我々はコンシューマー市場にもビジネスチャンスがあると考えています。たとえば、“セットトップボックス(STB)”のようなコミュニケーション・ゲートウェイの分野です」

「これまでの家電はそれ1台で使う“閉じた装置”だったため、我々目指す方向性とは大きく異なっていましたが、今後、家電がネットワークにつながってくるようになると、インフラ向けの機器で使われているチップが家電の中でも用いられてくるようになるでしょう。そうなれば、話は違ってきます」

──最後に今後のポイントについて聞かせてください。

「高速SRAMやロジックドライバーを軸とした製品の開発に関して、我々は十分な力を持っています。x86市場とは逆に、他社がこの分野に新規参入してきても跳ね除けるだけの力があるのです。その中で重視したいのが、(1)デュアルポートメモリー、FIFOメモリー、高速SRAMなど、他社が手がけていないチップを通信分野中心に幅広く提供していくこと、(2)我々の顧客との関係を重視して、需要に応えられる製品を開発していくことです。特に後者は、従来から重視してきている分野であり、大口の顧客を中心にその要求に沿ったカスタムチップを積極的に開発していきたいと考えています」

「また、W-CDMA市場に関しては日本で来年からサービスが開始されることもあり、今年後半から早々に市場が立ち上がってきます。現在最もホットなビジネスのひとつであり、今後ヨーロッパやアメリカなどにその市場が広がっていく分野です。日本市場はその試金石として注目しています」

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