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“情報”をめぐる熱い早慶戦。情報教科の位置付けと再編は?――CIEC研究会より(前編)

2000年06月05日 00時00分更新

文● 船木万里

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CIEC(コンピュータ利用教育協議会)は、3日、早稲田大学高等学院会議室において小中校部会の第4回研究会を開催した。“小中高等学校での新しい学びの創造を支える学校像”をテーマに、―教科“情報”試行の中での教科書と教育現場の実際―と題し、セッションとディスカッションが行なわれた。

今回は文部省情報科教科書調査官の福士こうじ*氏が演壇に立ったほか、慶應・早稲田両付属校におけるカリキュラムの紹介と課題の洗い出し、都立高校の現状についての報告、早稲田大学教育研究プロジェクトからの提言などが発表され、今後の情報教育の課題点を活発に議論する場となった。

*福士こうじ氏の名前の“こう”の漢字は該当するコードがないため、ひらがな表記とさせていただきます

情報科の特性と教科書利用

まず最初に“情報教育が目指すもの”と題し、文部省初等中等教育局、情報科教科書調査官の福士氏が演壇に立った。

「現代のグローバル化時代における“読み書きそろばん”としてコンピューター教育は必須」と、小渕総理もケルン・サミットで発言したように、現在進められている“教育の情報化プロジェクト”は日本の教育の最重要課題となっている。具体的には、2005年度までに全ての教室に高速インターネットで接続されたコンピューターを設置するというハード面での整備を政府が進めている。またソフト面としては教員の研修、教員以外の人材活用、コンテンツの充実、ナショナルセンター設置など、さまざまな方向からの取り組みが始められている。

文部省初等中等教育局 情報科教科書調査官の福士氏。「情報科の教科書内容は、普遍的な情報活用法を中心に扱う予定」文部省初等中等教育局 情報科教科書調査官の福士氏。「情報科の教科書内容は、普遍的な情報活用法を中心に扱う予定」



地方自治体や学校現場に内容決定の権限を引き渡し、自己責任において教育するという、現在の教育規制緩和の流れの中において、高校普通科で“情報”という科目は、国の責任において新設される。この点でも、情報教育を重要視する政府の姿勢が確認できる。このような教科の新設、また中学校の技術家庭科の改定などにより、学校ではこれまでの情報教育の位置づけを整理し、再定義する必要性がある。

検定サイクルも短縮化が必要な“情報”教科

“情報”という教科の特性としては、教育の歴史の浅さ、学問分野の多様性、全教科との強い関連性などがあるが、これらの特性は裏返せば、学校教育の核となれる可能性を秘めていることにもなる。しかしまた、中学、高校、大学と進むにつれ、環境によって、前段階での学習成果に大きな個人差が生じてくる教科でもある。またインターネットでは、子どものため、教育のためだけのコンテンツはなく、全世代間で情報が共有される。教師と生徒が、同じ立場で情報に向かうというスタンスで教育を考えていかなくてはならない、などの特性もある。

今回実施される指導要領では、高校の『情報』はA、B、Cと3科目に分類される。Aは情報活用の実践力を中心とし、Bは情報の科学的な理解を主に指導し、 Cでは情報社会に参画する態度を重点的に指導するが、それぞれに共通なコアを持つものとして位置づける。学習指導要領の内容の中で“扱わない”としているものは“教えてはならない”という意味ではなく、“必要最低限”の内容を指示するものとして位置づけ、現場の指導に関しては教職員の裁量に任せられる。しかし教科書に入れない部分は、全体に関わる評価の対象とはしないものとする。

教科書の利用そのものが“情報”という科目の特性に合わないという指摘もある。普通、教科書は編集、検定、採択、使用し改定、と4年を1サイクルとしているが、情報の教科書に関してはこの周期を短縮することが検討されている。また内容的には、時代を超えた普遍的な内容を中心とし、日々更新されるソフトウェア操作などに関しては現場で対応し、判断するものとする。

今後、情報教育の課題としては、広い範囲の関係者への、情報教育への協力を仰ぎ、情報を核として学校教育を再編する努力が必要である。そして、今まで批判されてきた“記憶するだけ”という授業を改善するとともに、少ない授業時間数での情報教育に過度の期待を寄せず、現実を見つめながら児童生徒の主体性を高める指導を行なっていくべきである、と福士氏は結んだ。

慶應、早稲田に挑戦、中・高一貫教育の情報カリキュラム”

続いて、“中・高一貫教育の情報カリキュラム”と題し、慶應義塾湘南藤沢中高等部教員の田邊則彦氏が現場の報告をした。会場および次の発表者が早稲田高等学院であることから「ライバル校としては負けられない」と会場の笑いを誘い、和やかなムードとなった中で、田邊氏の教え子で現在、慶應義塾大学理工学部1年の松原正樹さんが、母校での情報の授業についてプレゼンテーションを行なった。

慶應義塾湘南藤沢中高等部教員の田邊則彦氏。「情報科の授業では、生徒に身近なテーマを扱うことが重要」慶應義塾湘南藤沢中高等部教員の田邊則彦氏。「情報科の授業では、生徒に身近なテーマを扱うことが重要」



松原さんは「慶應の授業では、ネット上での正しい情報の入手法や解析、情報発信などについて実践的に教わることができた」と述べ、授業で得た知識を基に自発的にプログラミングを学んだり、世界レベルでコンテストなどが催されているネットワークゲームに参加することによって、ゲームに必要な知識として経営の仕組みを調べたりと興味の幅が広がり、さまざまな分野における学習に役立つことになった」と語った。

田邊氏の教え子で現在、慶應義塾大学理工学部1年の松原正樹氏。「情報の授業で自分の興味の幅が広がった」田邊氏の教え子で現在、慶應義塾大学理工学部1年の松原正樹氏。「情報の授業で自分の興味の幅が広がった」



コンピューターの操作法を学ぶのではなく、情報の利用について学ぶことが重要であり、だからこそ『情報』という名前の科目になっているのだから、その点を講義する側も受ける側も認識すべきであると強調した。また、生徒の立場から言えば、コンピューターは一人1台を原則とするべきであり、ネットワークに接続してこそ意義のあるものとなるので、情報をいかに扱うかを熟知した教員による指導が鍵となるのではないかとも。

この松原さんの発表を受け、田邊氏は「当校の情報の授業を受ければ、このような意見を述べることのできる生徒が育っていくのです」と笑顔で語った。「情報の授業では、仲間同士でのコミュニケーションを通して学習を進め、コラボレーションしながら技術を身に付けるという新しい教育のスタイルを取っている。カリキュラム作りにおいては、身近なテーマ設定、チームティーチング、地域社会との連携などが重要だと考えるている。今年は、インターネットだけではなくネットワークを支える技術についても理解してもらいたいので、ネットワーク概論を1年生の授業に盛り込む。2年生では、データサイエンス入門としてクラスター分析まで入れていく」と、情報の授業における基本姿勢および内容の充実について語った。

この発表を受けて、次に早稲田高等学院の教員と、現役の2年・3年生による発表が行なわれた。今回の早慶戦、勝負の行方は後編に続く。

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