このページの本文へ

学校、子供、保護者、地域の人々との新しいつながりが生まれるスクールネット――“スクールネットEシンポジウム2000”より(後編)

2000年03月28日 00時00分更新

文● 船木万里

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

26日、東京国際フォーラムにおいて、学校・家庭インターネットコミュニケーション共同実験協議会の主催により、“スクールネットEシンポジウム2000”が開催された。今回の共同実験に参加するモデル校10校の関係者が出席し、機材目録が贈呈されたほか、基調講演、パネルディスカッションなどが行なわれた。本稿では後半のパネルディスカッション“学校と家庭をインターネットで結ぶ新しいコミュニケーションに向けて”の模様を報告する。

基調講演の後、協議会理事、事務局長の西和彦氏(アスキー取締役)をコーディネーターとして、パネルディスカッションが開かれた。アシスタントは、シンポジウムの総合司会を務める木場弘子氏。パネリストは、先に挨拶を述べた、協議会副会長の石川晋氏(国際武道大学教授、元文部省審議官)、基調講演を行なった同副会長の坂本昂氏(メディア教育開発センター所長、東京工業大学名誉教授)、英国のChristopher Woods氏(Assistant headteacher at Denbigh School)に加え、臼井和夫氏(委員、玉川学園チャットネットセンター長)、木村治美氏(共立女子大学教授)、樋口浩氏(理事、日本教職員組合副委員長)、吉田秀夫氏(日本PTA全国協議会常任幹事、新潟県PTA連合会会長)の7名を迎えて行なわれた。

パネルディスカッション風景
パネルディスカッション風景



司会を務める西和彦氏と、アシスタントの木場弘子氏
司会を務める西和彦氏と、アシスタントの木場弘子氏



“Real Time Real Place”から“Any Time Any Place”の教育へ

まず、臼井氏が玉川学園のコンピューターネットワークについて、スライドを利用しながら「子供、親、教師が三位一体となって、よりよい教育をつくりあげている」と紹介。今までは“Real Time Real Place”で行なわれてきた教育を、ネットの利用によって“Any Time Any Place”へと変えていく、教育改革を行ないたいと語った。「ネットでのコミュニケーションを取り入れることで、親が学校を身近に感じられるようになっている」など、ネット利用の利点を述べ、実験校へのエールとした。

木村氏は「情報化、国際化に伴い、これからは学校を卒業してからも常に学び続ける姿勢が大切。親たちもインターネットを学び、研鑽(けんさん)していかなくてはならない」と語った。しかし一方で、インターネットやパソコンなどにまったく興味のない人々の存在を挙げ、“親世代の落ちこぼれ”が今後出てくるのではないか、と問題を提起した。

共立女子大学教授の木村治美氏共立女子大学教授の木村治美氏



木村氏は文章教室なども主宰しているが、書くことに慣れていない人は、言いたい内容をうまく文章にすることができない。“親”という立場は、子供に関しては異常な心理状態といってもおかしくない状態。メールはニュアンスが伝わりにくいため、親同士などの軋轢(あつれき)も生まれやすい。正確な情報を伝達できる文章力が、身を守る手段の1つと言えるのではないか、と語った。また、メールなどの間接的なふれあいの機会が多ければ多いほど、直接ふれあう機会を確保すべきである、と述べた。

一方、吉田氏は今回参加校を募るに際しての、地元各学校のPTAや教育委員会の腰の重さを語り、「問題が起こったら誰が責任をとるのか」という言葉で終わってしまう体制を批判しつつ、今回の参加校10校に謝辞を述べた。また、実験内容に関しては「昔は居間に大きな百科事典があった。その代わりとして、端末となる“ドリームキャスト”は居間に置いてほしい。たいがいの家では電話が廊下にあるが、端末を廊下に置いてしまえば、誰も使わない」と、具体案を示した。

新潟県PTA連合会会長の吉田秀夫氏新潟県PTA連合会会長の吉田秀夫氏



スクールネットの実験を通じ、物理面・精神面での問題点と可能性を探る

樋口氏は、「情報収集能力は、これからはある種の識字能力とさえ呼べるようになるかも知れない。情報力の有無から所得格差が生まれる可能性もある。だからこそ子供たちには、平等に情報教育を施す必要性がある」と語った。しかし一方で、学校、子供に今必要なのは、向き合ってまっすぐに話すという、直接のふれあいであるとの認識を示し、コミュニケーション調整の難しさを挙げた。また、コンピューターの導入による、ハードウェアのトラブルなど、教員の負担増加に対する懸念を示し、今回の実験によって物質的に何が必要なのか、またどういう条件を整備しなければいけないのかを把握したい、と語った。

日本教職員組合副委員長の樋口浩氏日本教職員組合副委員長の樋口浩氏



坂元氏は、諸問題はあるものの、学校内の情報を地域に開いていける、また保護者自身が教材を提供できるなど、面白い可能性をさまざまに秘めたシステムであると述べ、今後の展開への期待を表明した。

石川氏は、今回の実験に関しては、やってみようと名乗りを上げてくれる学校があるかどうか不安だったと語り、今後はパソコン導入に際しても、学校ごとにさまざまな姿勢の違いも見られるようになる、と教育の多様化について指摘した。

木場氏は「制服の注文1つにも、先生との連絡がうまくいかず、手間が掛かってしまった。これがメールならもっと気軽に連絡を取ることができるのではないか」と自分自身の体験を語り、メール利用によって親と学校の連絡が密になることに期待を寄せた。

Woods氏は「コンピューター導入は、教員にメリットがあるからこそ価値がある。我が校でのめざましい教育成果などを参考に、積極的にチャレンジしていってほしい」と述べた。

パネルディスカッション風景
パネルディスカッション風景



サポーター必要論と不要論。時には子供が親の先生になることも

木村氏は、パソコンが苦手な人々への対策として、「“School Net Adviser”とでも呼ぶべき人材が必要なのでは」と、学校外のスタッフによる教育支援の必要性を挙げた。石川氏も「電源は入れましたか?と聞くところから始めるような、インストラクターを確保しなければならないのでは」と、保護者のハードウェア利用能力に不安を表明。これに対し、Woods氏は「保護者と子供、両方を学校に呼び、利用方法を教えるという方法を採れば、子供のほうが素早くマスターし、保護者に教えることができる」と、利用を通して親子のコミュニケーションが活発化することも利点の1つであると述べた。

臼井氏は「玉川学園では、基本的操作は講習会で教えるが、魅力的な情報をネットで提供することによって、とにかくアクセスしたいと保護者に思わせる。そうすれば使いながらだんだんスキルアップしていくもの。保護者の利用能力に関しては、大きな問題とは考えていない」と、コンテンツ内容の重要性を語った。

協議会委員を務める臼井和夫氏
協議会委員を務める臼井和夫氏



また坂元氏も「米国では、小学校の子供たちが先生のためにマルチメディア教材を自分でつくったりしていた。子供たちのほうが飲み込みは早いのだから、パソコンの操作法を“お子さま付き”で学べば、親子で助け合うことができる。またメール利用によって、親子のつながりが密になることもあるのでは」と述べた。

最後に、各パネリストから一言ずつ提言があった。総括すると「今回の実験には学校関連のさまざまな協議会が参加している。今回は、各団体とのコラボレーションによってお互いに学習しながら成果を挙げたい。また各校の教員の方々は、親からの反発やトラブルなど、負担が増えるとは思うが、前向きに取り組んでいってほしい」と参加校にエールを送り、「digital deviceによって情報貧者をつくりだしてはならない。情報教育の重要性は今後ますます高まっていく。子供たちと一緒に取り組むことで、子供が親の先生になるという状態も生まれ、親子の対話の機会も増える。また、学校側から魅力ある情報をどんどん提供していくことで、保護者や地域の人々と新しいつながりが生まれるはず。ネットを活用することで、地域に生きる新しい学校の姿を見せてほしい」と、今回の実験に期待を寄せた。

最後に西氏が「この続きはネットでどうぞ。また9月に、中間報告でお集まりいただく際には明るい顔でお越しいただきたい」と結んだ。

閉会式では、石田晴久氏(協議会副会長、東京大学名誉教授)が壇上に立ち、協議会参加団体や実験参加校に謝辞を述べ、実験の成果に期待を表明して閉会の辞とした。

閉会の辞を述べる、協議会副会長の石田晴久氏閉会の辞を述べる、協議会副会長の石田晴久氏

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン