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情報教育によって“生きる力”を育みたい――“教育とインターネット”情報教育シンポジウムより(前編)

2000年02月29日 00時00分更新

文● 船木万里

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27日、東京の千代田区公会堂で、『毎日教育メール』発刊を記念し、毎日新聞社の主催による“教育とインターネット”情報教育シンポジウムが開かれた。大学や特殊教育などの現場からの報告、出版社やソフトウェア企業の立場から見た情報教育など、多面的なセッションとなった。パネルディスカッションでは、情報教育のあり方やインターネットの導入策など、会場からの具体的な質問に各専門家が答えた。

まず主催者として、毎日新聞社の総合メディア事業局長、渡辺良行氏が挨拶を述べたあと、文部省のメディア教育開発センター所長、坂元昂氏による基調講演“教育とインターネット―今、何が課題か―”が行なわれた。

毎日新聞社総合メディア事業局長、渡辺良行氏毎日新聞社総合メディア事業局長、渡辺良行氏



世界の現状と日本での情報教育への取り組み

坂元氏は、最初に英国や米国、フランスなど海外の教育界の動向について、現在、教育の情報化は世界の趨勢(すうせい)となっていると、現状を述べた。日本もこうした流れに遅れを取らないよう、文部省が“高度情報通信社会推進に向けた基本方針”を打ち出している。

その中で21世紀の人間像としては“生きる力”を持った人材が必要であるとしている。“生きる力”とは、自ら課題を見つけ、学び、考えて自分で判断し、よりよく問題を解決する主体的行動力のこと。併せて、他人を思いやる協調性も必要である。こうした力を身に付けるには、まず情報活用能力が重要である、と坂元氏は説く。

文部省メディア教育開発センター所長、坂元昂氏文部省メディア教育開発センター所長、坂元昂氏



昨年の報告では、全国の小・中・高校で約30パーセント強の学校がインターネットを導入している。文部省、通産省など各省庁では、ここ数年の間にすべての教室にパソコンを設置し、すべての学校がインターネットに接続できる環境整備を急いでいる。

こうしたインフラ整備を前提として、新学習指導要領では“総合的な学習の時間”を設けることによって主体的な学習能力を高めたいとする。また中学では“情報とコンピューター”を必修、普通科高校での“情報”をも必修科目とし、各教科でのコンピューターや通信ネットワークの利用によって、情報活用能力の修得を目指している。

情報教育における課題――有害情報をどうするか?

こうした中、今何が大切なのかを把握しておかなくてはならない、と坂元氏は課題点を挙げた。

まず、インターネットを活用することによるプラス面としては、世界の英知に簡単にアクセスできる、ホームページなどの利用によって地域文化を見つめ直せる、広域交流で学校を開かれた場にできることなどが挙げられる。異文化との交流により、相互理解も生まれる。

しかし、こうしたよい面ばかりではない、と坂元氏は言う。受信に際しての有害情報をどのように防ぐか、ということに教育者は頭を悩ませている。できれば有益な情報を充実することで有害サイトを駆逐したい。一方では有害なものにも毒されない、タフな子供を育てるべきであると考えている。

発信に際しては、プライバシー保護、誤認情報、知的所有権などさまざまな問題がある。こうした情報に関する影の部分への対応として、最初は学校内LANを利用した発信を経験することで、生徒の情報倫理を育てていければ望ましい、と坂元氏。

「自分がされて嫌なことを人にするな、自分にしてほしいことを人にせよ、という基本倫理は、日常生活の中で育てていくべきものです。ネチケットなどという以前に、本当の心の教育を考えて、正しいこと悪いことを教えていかなくては」

今後は、世界において“デジタルデバイド”、情報を得られる者に富が集中するという、新たな階層差が生まれると予想される。日本の社会において情報の格差を解消し、誰もが情報を得る能力を身に着けるためにも、今後はますます学校教育が重要となる。情報教育の充実によって、21世紀に対応する“生きる力”を育て、世界に広がる“知”のネットワーク学習社会を創っていきたい、と坂元氏は結んだ。

家庭学習とインターネット。学研は“elgreen.com”を立ち上げる

次に、(株)学習研究社のマルチメディア編集部長、渡辺紳一氏により、家庭学習教材を開発している企業の立場から報告があった。

学習研究社マルチメディア編集部長、渡辺紳一氏学習研究社マルチメディア編集部長、渡辺紳一氏



最近、家庭で自主学習をしない子供たちが増えている。渡辺氏の資料によれば、小学生の半数近くが「宿題が出てもやらない」と答えている。その反面、塾に通っている子供は非常に多い。受け身の学習ばかりで、家庭学習の習慣が付いていないため、自ら進んで問題集や参考書に取り組むのは困難である。そこで、学研ではインターネットを利用した家庭学習教材の開発に取り組んでいる。

同社の月刊誌『学習』と『科学』の読者にアンケートを採ったところ、40パーセント近くが「家庭にパソコンがある」という結果が出た。一般家庭全体から見ればかなり高い数値だが、子供の教育のため購入したものが多いと考えられる。

しかし、家庭内でインターネットを利用した“調べ学習”などを行なうのは、誤認情報などの取捨選択をコントロールする先生がいないこと、親の技術的不安や有害情報への対応、また通信費の問題などもあり、現実的ではない。学研ではこうしたことから、企業の提供するシステムの中で学習することが望ましいと考え、インターネットで利用できる、総合的な家庭学習用の教育システム構築に取り組んでいる。

最終的には、学習コンテンツそのものをインターネットで配信することを目指しているが、現時点では回線の太さ、通信費などの点から実現は不可能である。現在は、CD-ROMによるマルチメディア学習教材を利用しながら、インターネット上で学習進度のチェックや成績保存、メールによる質問受け付けなどをしている。またウェブマガジンや保護者向けのメールマガジン、会員制の学習サイトなども提供。

今後は、インターネットで教育に特化したサービスの普及が見込まれる。学研では“elgreen.com”という教育のポータルサイトを立ち上げる予定で、「教育関係の企業、公共博物館や美術館などにもぜひご協力いただき、教育に役立つサイトとして内容を充実させていきたい」と語った。

“学校の情報化”は教師のインターネット利用から。MSの“教育専任部隊”とは?

マイクロソフト(株)の文教営業統括部長、岩田修氏は、学校の情報化には先生のインターネット利用が不可欠であるとし、同社の企業としての教育サポート体制について報告した。

マイクロソフト文教統括部長、岩田修氏マイクロソフト文教統括部長、岩田修氏



  岩田氏によれば、“学校の情報化”とは、十分なインフラ配備がなされ、生徒、教職員全員が情報受発信スキルを修得し、積極的に情報を取り入れている状態。こうした状態を実現させるためには、まず教師のスキルアップが最初の課題である。

マイクロソフトでは、学校の情報化のため'96年に“教育専任部隊”を発足させ、アカデミックパックや学校向けプログラムの取り扱い、マルチメディア百科事典『エンカルタ』寄贈など、さまざまな取り組みをしてきた。米国では、社会的貢献活動の一環として、のべ40万人の教職員に対し、スキルアップのトレーニングをする計画も始まっている。

学校などのイントラネット構築、運用管理には、先日発売されたWindows2000が最適であるとして、マイクロソフトは今後も学校向けライセンスプログラムを充実させる方針だという。校内だけではなく、教員個人の家庭内利用も認めるなど、教師1人ひとりのスキルアップ、情報化を考えている。

「教職員の方々は、ホームページからの最新情報入手、無料メールアドレス取得、また教員間での情報交換などによってインターネットをなるべく日常的に活用してもらいたい」と岩田氏は述べた。情報教育においてインターネットを活用した授業をするためには、まず教員自らのレベルアップが必要であると強調した。

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