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【年末特別対談Mac編Vol.2】MacOS 9以降は小規模ディベロッパー達の製品で活気づく献身的な時代になるか

1999年12月24日 00時00分更新

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引き続き、MACPOWER・MacPeople誌アドバイザーの林信行氏と、MDOnline編集長の新居雅行氏をお招きして、年末特別対談Mac編をお届する。

ストリーミングサーバーにもオープン化の動き

林「ソフトウェアのもう1つのトレンドっていうと、ダーウィンがありますよね。そろそろ成果が出てきてもよさそうなもんですよね」

新居「まあ、最近の話題で言うと非常に面白い話があって、FreeBSDグループカンファレンスでプレゼンしたらみんなが聞きに来たって言うんでしょう。BSDも数奇な運命をたどって、要は彼らにとってはアップルが参入したぐらいでは大した歴史の変化ではないと(笑)。FreeBSDの変形と言ったらおかしいけど、仲間みたいな見方されるっていうの、結局すごいプラスだったと思うんです」

林「ぼくもこのアップルとFreeBSDとの関係についてはちょっと前から内部リーク情報とかをもらっていたんだけれど、どうやらMacOS Xのネットワーク関連の機能はかなり多くの部分をFreeBSDから流用するらしい。まぁ、顔さえMacOSならば基盤はFreeBSDでもユーザーには問題ないですしね」

新居「そうですね。ただ、ダーウィンのレベルだと、インターフェースが付いてなかったりしますから。だけどダーウィンが生き残るには、ストリーミングサーバーの動きしだいですよね。ストリーミングサーバーは、もしストリーミングの世界でマイクロソフトだとかリアルメディアを押さえて、クイックタイムというか、クイックタイムストリーミングサーバーみたいな標準ベースのものがシェアを取るようになったときに、一番安くなるでしょう」

林「そうですね」


。むしろMacOS Xサーバーで、ダーウィンでシンプルにやっちゃう」

林「でもLinuxで動くストリーミングサーバーもあるんですよね」

新居「移植されたんですよね」

林「ダーウィンが、今後、組み込み用途なんかにも広がっていくとおもしろいんですけれどね……。完全な組み込み型製品じゃないにしても、例えばコバルト*みたいな感じで(笑)」

*
コバルト:米コバルト・ネットワークス社が開発したLinuxサーバー。Webサーバー、FTPサーバー、メールサーバー、DNSサーバーなどのサーバー用ソフトがプレインストールされており、運用までの設定に伴なう時間、費用が削減できる

新居「でも、長年やろうとしていることは、たしかにそういうこと。思いつきでやったかのかもしれないけど、そのわりにはまじめにやってる。ネットBSDの推進者の人が、いまアップルにいるんですよね。そういうことがあって、かなり盛り上がってるんだそうです。でも目が離せないとは言うものの、気楽に試せないっていうのはちょっと悲しいですね」

オープンソース化の意向は?

林「ダーウィンっていうと、OSのオープンソース化ばかりが有名になってしまっているけれど、アップルは実際には、ストリーミングサーバーや、MacとWindows両対応のネットワークゲームをつくるためのAPIなんかもオープンソース化している。ネットプレイっていう名前なんですけれど……」

新居「あ、ネットプレイですね」

林「僕はあれを出したとき、アップルは結構、オープンソース運動に本腰入れたような感じがしてきました」

新居「ネットプレイ、みんな注目してる面がありますよね。もうLinuxにも移植してるし、クライアントはWindowsでもあるし」

林「Macのゲームは残念ながらWindowsと比べると圧倒的に少ないけれど、それはそれでいいとして。せめてオープンプレイがWindowsのゲーム開発社の間に広まらないかなんて期待しているんですけれどね。せっかくいいものがただで公開されているんだから。それで、オープンプレイがネットワークゲームがスタンダードになれば、それはそれでおいしいっていうか」

新居「ただ変な言い方をすると、ダーウィンって、あまり一般化されなくても成功したと言えると思うんですよ。特にストリーミング中心でいくんだったら、それこそシグナスじゃないけど、うちに任せてくれればダーウィンでしっかりストリーミングサーバーは立てますよ、立て直し用ならPower Macが20台要りますね、みたいなサービスができるじゃないですか。そういうのをやる人間が出てきたら、もう大成功ですよね。それで上がるんですよね。ビジネス的にも、これからインターネット放送でいろいろ注目されるし」

「それを考えれば、そういう展開が起これば正解だろうと思う。ただ起こったとしても、来年以降か数年後でしょうね。逆にいまは虎視眈々としているおじさんたちがいっぱい(笑)。一応、MacOS Xも持ってきたんですよ」


【プロフィール】新居雅行(にい・まさゆき)氏。(株)ローカスの情報メディア出版局編集長。慶応義塾大学講師。テクニカルライターとして、MacintoshやWindows関連の書籍や雑誌記事等を手掛ける100冊を超えてからは、著書の数は数えていない。Macintosh分野の開発情報やシステム管理情報などを日刊のニュースレターで届けるMacintosh Developer Online(http://cserver.locus.co.jp/mdo.html)を'99年9月に創刊した

無視できないWebObjectsの存在

林「MacOS Xサーバーは値段を見て驚かされましたよね。これでけっこうマニアックなユーザーたちがMacOS Xサーバーに手を出すかとをちょっと期待していたんですけど……」

新居「今年前半に出たじゃないですか? 米国では。そこから夏ぐらいまではすごく盛り上がってたんだけど」

林「日本で出るころまでには、っていうかね」

新居「ちょっとね、沈みかけた。ぼくも一時期Xサーバーを立ち上げていて、いろいろ遊んでたんだけど、ちょっと飽きた感じって言ったら怒られるけど、非常に状況も変わってきたんで。うちでサーバー立てることができなくなったんで、MacOS Xサーバーで遊ぶのはやめたんですけどね」

林「でもWebObjectsも付いていて、あの値段はすごいことだと思いますけどね。実際、WebObjectsというか、その開発環境、ひらたくいえばOPENSTEPの開発環境ほぼそのままなんですが、奥が深くて面白い。これぞまさにオブジェクト指向、万歳!って思わされた」

新居「そうですね。すごいです。ここまで作ってたんだ、みたいな。あれにノメっている人を知ってたんだけど、これでやっと使えるようになったわけじゃないですか(笑)。まだNeXTとか個人で買えないような世代でしょう。それがまがりなりにも使えるようになったんで、おおっと思ってたんですけど。だけどちょっと、本当にXのクライアントが出たときの開発環境はもっと変わってないと、逆にまずいかなと思います。なんで、BOOTP*なの? ってちょっと思った」

*DHCPの下位互換の規格がBOOTP。BOOTPをサポートしていればクライアントごとの設定は省略できたが、IPアドレスとホスト名はそれぞれ設定する必要があった。サーバー側では、クライアント側のネットワークカードのMACアドレスを管理するだけでよい。ただし、Mac OS X ServerのNetBootではMACアドレスの管理まではしなくても利用できる

林「確かにそれはありますね。でも、アップルもいうようにMacOS Xサーバーは本当にこれから成長していくOSなんでしょう。コンシューマー用Mac OSと違ってあまり今後の開発方針が発表されないけれど……」

新居「でしょう。会社でネットワークのエンジニアなんかしてるやつらでも、BOOTPって、いったい何なんだとか、おれはその時代は知らないんだ、とかね(笑)。みんなDHCP*だからなーって。WebObjectsこそ、もしかしたらいろんな収益の柱になっている可能性ありますよね。受託開発レベルでいくと、あのレベルのものを受託で受けると1000万円や2000万円でしょう。開発の会社が、たとえば3000万円ぐらいで受けたシステムの1、2割はアップルに流れるっていう仕組みになっているわけだから。非常に利益率はいいですよね」

*DHCP:各クライアントに、起動時に動的にIPアドレスを割り当て、終了時にIPアドレスを回収するためのプロトコル。サーバー側では、IPアドレスをDHCPクライアント用にいくつかまとめて用意しておくだけでよい。同時にゲートウェイアドレスやドメイン名、サブネットマスクその他の情報をクライアントに通知できる

「ただ競合が、競合というか敵が手ごわくて、IBM、Sunほかね、日本の名だたる家電メーカーのシステム部門を敵に回さなきゃいけない。珍しく競争に入ってるじゃないですか、いろんな意味で。なんかWindowsの世界では、iMacがあれだけ売れていてもあんまり相手にされないみたいなところがあるけれど、ことWebObjectsに関しては、ウェブ開発の世界ではちょっと無視できない。うれしいですね」

林「WebObjectsはOPENSTEPやMacOS Xサーバー以外にもWindows NT版やその他のUNIX版もあるけれど、Windows NTのカーネル上ではぜんぜんマルチタスクで動かなくって、結局、OPENSTEPをインストールしていたという人が多いみたい。これは別にWebObjectsのNT版のできが悪かったからではなく、NTのカーネルそのものに問題があったみたい。残念ながら今はOPENSTEPもOPENSTEP版WebObjectsもなくなってしまったので、きっとこれまでOPENSTEPを使っていた人たちはMacOS Xサーバーに乗り換えてくれるでしょうね」

新居「でもね、そういう発想から言ったら、たぶんSunを買いますよ」

林「フリーになっちゃいましたもんね。買われたんですか?」

新居「いや、買ってないけど、とうとうやるかみたいな。Sunもすごい会社なんだけど、露骨な商売やるよね。うちはサーバー売ってれば儲かるから、ほかはタダでいいんだっていう商売やってるじゃないですか。ちょっと、言っちゃ申し訳ないけど、やりすぎかなみたいな。なりふりかまわずっていったら悪い言い方かもしれないけど怖いですよね。Solarisまでやるか、みたいな。Solarisって値段をつけて売れるものだと思うんですよ。サーバーを買ったらSolaris買うしかないから。それでもタダにするっていうんだから、すごいなと思いました」

林「そうですね」

【プロフィール】林信行(はやし・のぶゆき)氏。フリーランスコンピュータージャーナリストで、MACPOWER・MacPeople誌アドバイザー。両誌では海外ニュースのセレクションなども手がけ、過去9年間米国で開催したすべてのMacWorld EXPOに参加。アップルの20年の歴史がすべて分かる『アップルコンフィデンシャル』(著者:オーウェン・リンツメイヤー、翻訳:林信行、柴田文彦)を12月24日に発売したばかり 【プロフィール】林信行(はやし・のぶゆき)氏。フリーランスコンピュータージャーナリストで、MACPOWER・MacPeople誌アドバイザー。両誌では海外ニュースのセレクションなども手がけ、過去9年間米国で開催したすべてのMacWorld EXPOに参加。アップルの20年の歴史がすべて分かる『アップルコンフィデンシャル』(著者:オーウェン・リンツメイヤー、翻訳:林信行、柴田文彦)を12月24日に発売したばかり



G4に関してアップルは焦りすぎた

林 「新しいテクノロジーに移行していくときって、用意周到でやるところがあるけんだれど、アップルもいままで用意周到にやってきたのに、ことG4に関しては全然用意周到じゃなかったですよね」

新居「どう見ても慌てて出した。Xサーバーのこともそうだけど、例のCPUのことだってモトローラがどう話をしたか知らないけど、モトローラの言うことを一番いいように解釈してフライングしたんじゃないかな? 大丈夫ですよ来年は、みたいな話の“来年は”が切れてしまって(笑)」

林「僕もモトローラは取材してきたけれど、確かに'99年の秋には絶対に出すといっていた。でも、供給量はあまり出せないかも知れないと明言していた。アップルは、Power MacG4を年内に出せないのは、モトローラの供給が年内に対応できないからだと、モトローラのせいにしてきた」

「でも実はモトローラはできたんですよ。ホライゾンというイベントなんですけど、そこで正式にPowerPC G4を発表する予定はもともとあった。アップルが製品を出さないなら、ほかのワークステーションベンダーと一緒に発表を行なうとしていたんです。そうしたら、“ちょっと待て!”みたいな感じで、アップルが先にね、9月30日にシーボルトでPower Mac G4を発表して。製品の出荷ができないのはCPUの供給不足のせいだって大々的に発表した」

「でも、実はアップルが9月30日に発表した最上位モデルが搭載する予定だったPowerPC G4/500MHz版は、モトローラのウェブページにも紹介されていなかったし(350~450MHz版の情報しか書かれていなかった)、実際、完成まではしていなかったんですよ。モトローラがあわてて完成させようとしたら500MHz版だけ2次キャッシュで問題が起きることが発覚した。ちょっと、アップルがモトローラを悪者にしてるっていう感じがしましたよね(笑)」

新居「まあ発表があったときにね、米国のシーボルトだからかなって、最初は思ったんですね。でもフタ開けてみると違うなみたいな。デスクトップ利用の人はいいにしても、DTPの人なら8.1で動かすために新しいマシンを買えない世界が展開されているのに、なんで改良しなかったのかなと。まあ新マシンを出したからといって、すぐDTPで使えるわけじゃないですけど(笑)」

林「それは日本の状況であって、USのアップルは日本の細かな状況のために仕様を後退させるようなことはしないでしょうからね。まあ、その分、日本のアップルとかも頑張ってMacOS 9ではDTP利用で生じる一部の問題を解決しているみたいですが。でも、このDTP問題のせいでハイエンド機は売れ行き不振なんじゃないかな。実は日本だけでなく、世界的に見て、青白G3は売れなかったっていう情報をよく耳にする。台数的には出ているんだけれど、アップルの目標と比べると全然たりないみたい」

新居「自分が買うのはあり得るような気がしますけど、みんな買ってないですもんね。今回iMacがああいう仕様になったのは、たぶん次に買うときはもうiMacは買わない、みたいな気がしますしね」

林「スーパーコンピューター級のCPUをね、早くから見せつけてくれるキラーアプリが出てくるといいんですけれどね。Photoshopはたしかに必要かもしれないけど、Photoshopだけじゃ足りないですよね」

新居「まあ、でも本当にセグメント化しちゃったから、フラグシップだけを売って、本当に儲けるのはiMacで儲けようとしているという見方もできなくはない。MacOS 8.1をガンガンに使っているDTP関係のユーザーがいて、なんか過去に例を見ないようなシステムもバラけちゃった。ユーザーの間で」

新居氏が話のタネに持参したソフトの数々
新居氏が話のタネに持参したソフトの数々



じわじわと良さが分かってくるOS

林「MacOSに関して1つ思うのは、これまでは会社の存続そのものが危うかったっていうこともあって、とにかくWindows95、Windows98に負けてはいけないみたいな感じで、業界のスタンダードな技術を取り入れるのに忙しかったという感じがしていた」

新居「はいはい」

林「標準を取り入れるのはいいけれど、その取り入れ方のスタンスがけっこう、取り残されないように必死でしがみつくという感じだった。新しいOSがリリースされると、確かに新機能も搭載されているんだけれど、どれも表面的な機能ばかりで、本質的な進歩っていうのが感じられなかった」

「でも、'99年秋にリリースされたMacOS 9はちょっと違う。個人のユーザーがちょっと触っただけだと、シャーロックが重くなっただけで、何も変わっていないと思うかも知れないけれど、実はその根底にはアップルがしばらくしていなかったような冒険や、2年前のアップルだったら出し控えていたような野心的な新技術がギッシリ詰まっている。日本のDTPユーザーが不安を抱くフォント関係のアーキテクチャーもさらに一歩前進している」

新居「また新しいものね」

林「実はMacOS 9は、これまでのMacOSと違って、時間がたってサードパーティーとかのサポートがしっかりなされたところで、じわじわとその真新しさとか良さが分かってくるOSだと信じている。実際、MacOS Xの機能もいくつか先取りしている。例えば先ほど話しに出たXMLパーシング機能とかを含むコアファウンデーションAPIやカーボン、そして新しいパッケージ型アプリケーションのサポートとかね。そういう意味でMacOS 9は久々のすごい意欲作だと思っています」

新居「そうですね」

林「サードパーティーにはぜひ、このアップルの意欲にこたえてほしいですね」

新居「コアファウンデーションって、かなりアプリの作り方、変わりますね、あれ見てると。しかも、MacOS 9でもう、Xのクライアントでも、ほぼXサーバーでも動くんで。ほかはそんなに問題ないし、カーボンより先に立ち上がるんじゃないかな。でも、変な言い方をするとライターとして、オペラシティーにあるメーカーの立場で書かなきゃいけないって、はっきり言ってあるじゃないですか。ズバリ言っちゃうと、ある意味ですごい苦しいんですよね。ascii24の読者の方も、もし業界に寄っていたら、やっていたら苦しい思いして書いたんだなっていうのはピンときてもらえると思うんだけど(笑)」

新居氏(正面奥)と林氏(手前横)
新居氏(正面奥)と林氏(手前横)



林氏。「Macコミュニティーが再び革新的で挑戦的な小規模開発者達の製品で活気づくように」林氏。「Macコミュニティーが再び革新的で挑戦的な小規模開発者達の製品で活気づくように」



「やはり、こういったアップル独自の最新技術をまっさきに使うのは、これまでMacコミュニティーを支え続けてきた、献身的で比較的小規模な開発者だと思う。彼らはアップルの最新APIを使うことでより少ない手間で、いきなりビルの20階から高層ビル的な多機能で高機能なアプリケーションを作ることができるという特権が与えられる。製品の質次第では、十分大手の製品に対抗できると思う。ユーザーやプレスが大手開発者のブランドとかそういったものに変にへつらうことをしなければ、ですけれどね。そこで、開発者向けに情報を提供する新居さんには、ぜひともこうした献身的で小規模な開発者達に有益な情報をたくさん提供してもらって、Macコミュニティーが再び革新的で挑戦的な小規模開発者達の製品で活気づくように頑張って欲しい」

(Vol.3に続く)

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