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デジタル化で物理的制約から解き放たれても、センスや本質の見極めは重要――デジタル映像セミナー“映像業界でのデジタル化によるマーケティング戦略”より

1999年12月07日 00時00分更新

文● 正月孝広

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12月3日、(財)阪神・淡路産業復興推進機構主催による“デジタル映像セミナー”が神戸市産業振興センターにおいて開催された。映像業界のデジタル化の実情と、今後の展望に関する講演という形で行なわれ、会場には映像制作を志す若者をはじめ多くの人々が詰めかけた。その中で大森一樹氏と河原敏文氏の講演をお届けする。

神戸ハーバータウンにある神戸市産業振興センター。セミナーは3Fにある講演会場で開催神戸ハーバータウンにある神戸市産業振興センター。セミナーは3Fにある講演会場で開催



撮影、編集、上映のフルデジタルのシステム構築がもう目前

最初に映画監督、大森一樹氏の講演が行なわれた。兵庫県芦屋市在住の大森氏は多くの作品の監督、脚本を手掛け、現在最新作“明るくなるまでこの恋を”を宝塚市にオープンしたシネ・ピピアで上映中である。

フィルムの1コマ1コマをコンピューター上で置き換え、デジタル処理をほどこし、再びフィルムに戻して上映するという手法は既に確立されており、これらを支える技術革新のスピードは非常に早い。この'90年代はアナログからデジタルへの大変換期にあたるという。

映画監督、大森一樹氏映画監督、大森一樹氏



また今後の映画制作の方向性としてアメリカの実情を紹介。大作になると同時上映数が7000スクリーンにもなるアメリカは、多くても250スクリーンという日本とは根本的にマーケットが異なる。そんな中フィルムの現像時に使用する銀の環境問題、配付するパッケージの問題も含め、上映方法もデジタルになっていくという。同時に撮影方法もデジタルカメラが採用され、撮影、編集、上映のフルデジタルのシステム構築がもう目前に迫っている。

最後に大森氏は、アナログとデジタルを意識するポイントを3つ示唆した。

第1に、人物の肌の表現処理をする場合、アナログでもデジタルでもどちらでも可能な方法があるという。このような場合、アナログでの処理を知っていると表現の幅が広がる事になるので、デジタルだけに捕われないこと。

第2に、制作はコスト意識も非常に大切だが、CGを使うとお金がかかるというのは偽りであり、実際にはコスト削減になる。このことは物理的に組めないセットをCGを使って表現するなどの意味であり、何を表現したいのか本質を見極める力も必要とする。

第3に、アメリカと日本ではデジタル技術において、明らかに格差があるということ。監督もしくはCG制作を司るスーパーバイザー固有の問題として捉えるのではなく、総合的に研究、挑戦していく姿勢が求められるとして、講演を締めくくった。

アート、デザインから、エンターテインメント、テクノロジーというキーワードへ

次に(株)ポリゴン・ピクチュアズ代表取締役会長、河原敏文氏の講演に移った。ポリゴン・ピクチュアズはイワトビペンギンのバーチャルキャラクター、“Rocky&Hopper”を展開していることで有名な企業である。

ポリゴン・ピクチュアズ代表取締役会長、河原敏文氏ポリゴン・ピクチュアズ代表取締役会長、河原敏文氏



河原氏は近年を次のように分析している。20世紀、'80年代までは全ての映像に物理的被写体が存在していた。記録的意味合いも強く、被写体を撮影するという行為で作品が成り立っていた。しかし'90年代以降21世紀は、物理的制約から解き放たれていく。想像する映像の始まりである。実在しないバーチャルなキャラクター、バーチャルな風景、物理的に撮影不可能なカメラアングルなど、これまでにない映像制作が可能になる。20世紀のアート、デザインというキーワードから、21世紀はエンターテインメント、テクノロジーというキーワードへと視点が変わっていく。

しかし、そのような移り変わりの中、センスはとても大切で、制作者の資質が問われるという根本は変わらないとした。ツールが発達してもそれは手段に過ぎず、きちんと見極める厳しさも必要であると指摘した。

最後に映像制作に関わる人へ、「インターネットの発達により、世界のどこにいようと情報を発信することが可能になった。だからこそ、自分の技に磨きをかけることを怠ってはいけない」とのメッセージを送った。

ハードの発達により数年前では考えられなかったような機能が個人でも扱えるようになった。今後多くの映像作家が生まれる土壌は整いつつある。厳しさも大きくなったが、チャンスもまた大きい。映像業界はいまからが本当に面白い時かもしれない。

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