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「早くインターネットにシフトすれば、成功のチャンスは大きい」--C&Cユーザーフォーラム1999基調講演、西垣浩司日本電気社長

1999年12月01日 00時00分更新

文● 編集部 鹿毛正之

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東京お台場の東京ビッグサイトにおいて、“C&Cユーザーフォーラム 1999”が1日から3日まで開催されている。主催はNEC C&Cシステムユーザー会(NUA)と日本電気(株)。同フォーラムは日本電気の企業顧客を主な対象としており、3日間に渡って200近くのワークショップが開催される。また同会場では、日本電気と協力企業が出展を行なう展示会の“NEC ExpressWorld '99”も開催されている。

1日には、日本電気の西垣浩司社長が“明日の企業経営に向けて”と題した基調講演を行なった。本稿ではこの講演の模様をお伝えする。

「iモードは便利だと思っています」

今回の基調講演は、“日本電気がどのように組織を変え、どのように運営を変えたのか?”をテーマとして、インターネットを取り巻く現状の紹介と、日本電気における経営戦略の紹介を主な話題として進められた。

日本電気では、インターネットへの全社的なシフトを宣言している。それを踏まえ西垣氏は、前半では“インターネット社会の到来”を、後半では“NECの変革”についてフォーカスをあて、講演を行なった。

C&Cユーザーフォーラム 1999にて基調講演を行なう、日本電気社長の西垣浩司氏
C&Cユーザーフォーラム 1999にて基調講演を行なう、日本電気社長の西垣浩司氏



西垣氏はまず、インターネットが爆発的に普及している状況を、統計データを示しながら説明。日本では'99年中にインターネット人口が2000万人に達し、6人に1人はインターネットを利用しているという数字を披露した。これは普及率15~17パーセントに相当し、商品やサービスが一般に普及する段階に至ったことを示す“クリティカルマス”に達したことを指摘した。

この状況に関して西垣氏は、「かねてから'99年が日本のインターネット元年になると見ていたら、本当にそのようになった」とし、“インターネット社会の到来”が現実のものになっているという見方を示した。

また、爆発的普及を見せているもうひとつのネットワークである携帯電話にも触れ、「インターネットの普及をプッシュしているのは、携帯電話の躍進」にあると指摘。インターネットに接続することができるiモードについても言及し、「私自身もiモードを利用しており、大変便利に思っております」と、自らがiモードユーザーであるというエピソードを披露した。

ここで西垣氏は、現在のインターネットを昭和30年代の自動車シーンになぞらえ、「当時はモータリゼーションに対し批判的な見方もありましたが、それと似た批判がインターネットに対してもあります」と、現状を分析。その批判に対する答えとして、「携帯電話を含めて、インターネットなしでは仕事ができない時代になった」と強調した。講演の聴衆はほとんどが日本電気のユーザー企業であり、西垣氏の言葉は、インターネットへの進出を躊躇している企業に対しての強烈なメッセージだったようだ。

インターネットはIT分野における人類最大の発明

IT(情報技術)の発展については、西垣氏は「これまでのITにおける最大の発明は、グーテンベルグの印刷機でした」と指摘。その理由として、「情報コスト」の削減を挙げた。それまでは一部に独占されていた聖書が普及するようになり、それがひいては宗教革命や産業革命に発展したという見方を示した。

その上で、「インターネットは双方向性とデジタルを兼ね備えている」と、従来の通信手段とは異なった特質を備えていることを指摘。それらの特質により「会社同士、人間同士の関わり合いを定義しなおすことになる」とし、「インターネットはIT分野における人類最大の発明」だという考え方を示した。

この後西垣氏は、インターネットの普及により米国では書店や自動車ディーラーの数が激減しているという数字を挙げ、インターネットが企業に変革をもたらしていることを示した。その上で、日本企業にも変革が迫られていると強調。日本企業にグローバリゼーションが迫られ、規制緩和が広まっている現在において、インターネットを活用していくことで、企業の在り方自体に大きな変革をもたらす必要性をアピールした。

“あなたのためにできること”というC&Cユーザーフォーラム1999のキャッチコピーを前に、西垣氏はインターネットへの移行に大きなメリットがあることをアピールしていた
“あなたのためにできること”というC&Cユーザーフォーラム1999のキャッチコピーを前に、西垣氏はインターネットへの移行に大きなメリットがあることをアピールしていた



このアピールは、11月8日に“iBestSolutions”を発表したばかりの日本電気にとって、ユーザー企業への強いメッセージだったようだ。iBestSolutionsは、インターネットを利用したビジネスを総合的に支援するという、企業向けのプログラム。インターネットを利用したりLANを構築するという段階を超え、ビジネスの中核にインターネットを据えるという1段階上の戦略を推進するものだ。

ユーザー企業からの参加者が会場のほとんどを埋めるなか、西垣氏は“iBestSolutionsを導入してもらいたい”という日本電気からのメッセージを、講演の端々に織り込んでいた。

「IBMや富士通に負けてはいけない!」

講演の後半は“NECの変革”と題し、日本電気が経営資源をインターネットに集中しているという現状の紹介が行なわれた。

西垣氏は同社の変革を紹介するにあたり、4つのステージに分けて説明を行なった。それらは(1)インターネット領域への事業集中、(2)社内カンパニー制の導入、(3)各カンパニーのソリューション、(4)NEC自らのネット活用、というもの。

1つ目の“インターネット領域への事業集中”では、日本電気が昨今内外にアピールしている“インターネット・ソリューション・プロバイダーへの発展”を中心に、現在の経営方針が紹介された。

同社では“3つのコンピテンス”として、通信、コンピューター、デバイス(半導体)という3分野において、これまで築き上げてきた強みがあるとしている。西垣氏はその3分野のターゲットをそれぞれ企業・個人・官公庁向け、ネットワークオペレーター向け、デバイスユーザー向けと分類。各領域を統合するドライビングフォースとして同社のBIGLOBEを挙げ、「3つの領域を整備しなおしていく」という姿勢を明らかにした。

BIGLOBEについて西垣氏は、講演の全般を通して「非常に大切な事業」であることを強調。前半でも話題にしたiモードを引き合いに出し、「(BIGLOBEへの)iモードからのアクセスが増えると、飛躍的に(アクセス)数も上がっていくでしょう」と語った。また、「BIGLOBEはできるだけオープンにしたい」と語り、「みなさんが新しいビジネスを作る場にしたい」「BIGLOBEで儲けようとは思っていない」などと、BIGLOBEをインターネットビジネスを推進する上でのインフラとして位置付けたいという姿勢を示した。

西垣氏は講演の様々な場面で、BIGLOBEの重要性を強調していた
西垣氏は講演の様々な場面で、BIGLOBEの重要性を強調していた



2つ目の“社内カンパニー制の導入”では、通信/コンピューター/デバイス(半導体)の各分野に応じて、NECネットワークス/NECソリューションズ/NECエレクトロンデバイスという3つの社内カンパニーを設立したことを紹介。「各マーケットは特性が違う」としながらも、経営分野を明確化したことで「ユーザー会でも指摘されているチャンネル問題(チャンネルの異なる複数の部署が別々に動いているため、ユーザー企業に対する窓口が一定しない問題)も解決できます」と、ユーザー企業に対してもメリットが大きいことをアピールした。

また、「日本電気に対しては、“総合メーカーだが、何をやっているのかがよくわからない”と言われる」と、総合メーカーならではの問題を指摘。これに対しては、社内カンパニーが各分野に特化した経営を行なうことにより、専業メーカーに匹敵する競争力を持つことを強調した。さらに西垣氏は、米ルーセント・テクノロジーや米モトローラ、IBMや富士通といった企業の名を挙げ、「これらの企業に負けてはいけない!」と、ユーザー企業に対する決意表明とも受け取れるアピールを行なった。

2006年には音声とデータの割合は4:96に

3つ目の“各カンパニーのソリューション”では、最初に通信分野を担当するNECネットワークスについて触れ、“プログレッシブユニティー(ProgressiveUnity)”というキーワードを紹介した。これは、“進化しながら新しい時代に向かって統一していく”という意味合いだという。

日本電気は元々、電電公社(現NTT)向けに通信関連機器を納入することで発展してきたという歴史を持つ。それが、NTTの分割民営化を経て、それまでは唯一の通信事業者であったNTT主導で進んできた技術開発が、メーカーの手に移っている状況だという。

ここで西垣氏は、通信回線上を流れる情報量において、2000年3月には音声とデータが1:1になるという予測を披露。それが2006年には、音声が占める割合はわずか4パーセントにまで下がると予測されているという。西垣氏は「この変化に対応しながら発展していくのが、プログレッシブユニティーなのです」と語り、次世代携帯電話のW-CDMAなどを紹介しながら、通信分野のビジネスモデルが大転換期にあることを示した。

NECエレクトロンデバイスについては、最近のトレンドとして、デバイスがシステム・オン・チップ化していると指摘。その状況ではSE・SIの力が重要になってきていると語った。

NECソリューションズに関しては、「2~3年前に、“すべてがウェブコンピューティング化する”と言っていたが、本当にそうなってきた」と語り、インターネットとコンピューターが融合している現状について言及。その上で、前述のiBestSolutiionsについて触れ、「NEC自らがプレーヤーとなり、ユーザー企業に対して“NECが片棒を担いで”、ソリューションを提供する」という方針を示した。

また、ベンチャー企業の発展についても触れ、日本電気がASPやホスティングサービスなどのアウトソーシングを提供することで、「ベンチャーを中心とした新しいビジネスの立ち上げ」が求められているという期待感を表明した。

アウトソーシングの提供については、「オープンシステムのミッションクリティカルの部分では、NECは世界一と自負しています」と語り、自信のほどを覗かせた。

インターネットは、一番安い価格がすぐに世界中に広まる完全マーケット

講演の最後には、インターネットがもたらす変革について改めて言及した。同社では“あなたのためにできること”をスローガンに、「皆様にいろいろなソリューションを提供していきたい」としており、ユーザー企業のインターネット進出を推進している。

西垣氏はインターネットの特質として、一番安い価格が世界中に広まる“完全マーケット”であることを挙げ、従来の“情報を制限することで利益を得られた”モデルとはまったく異なった性質を持っていることを強調。このほかにも、顧客本位、ビジネスプロセスの改善、トレーサビリティー、情報通信コストの低減という特質を挙げ、聴衆のユーザー企業に対して、インターネットへの転換を促す発言を繰り返した。

最後に西垣氏は、“唯一ハッキリしていること”として、「早くインターネットにシフトすれば、成功のチャンスは大きい」と語り、「私たちと一緒に、新しい社会にチャレンジしていただきたい」と聴衆に呼びかけた。そして、今回のC&Cユーザーフォーラム1999のテーマである“Invitation to the Internet”(インターネットへのいざない)という言葉をあらためて紹介し、講演を締めくくった。

ユーザーフォーラムというイベントの性格上、西垣氏の基調講演は一般聴衆を対象としたものではなく、企業ユーザーを念頭に据えていることは明らかだ。講演のタイトルが“明日の企業経営に向けて”であることからも読み取れるように、今回の講演では端々に、ユーザー企業を啓蒙するような強いアピールを垣間見ることができた。

11月30日には、日本電気はダイキン工業と情報システム会社を合弁で設立することを発表したばかり。これはiBestSolutionsの発表後としては初めての合弁案件でもあり、今回の基調講演は、聴衆のユーザー企業に対して「日本電気と組みましょう」という呼びかけを行なう意味合いが強かったようだ。

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