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【'99プライバシー・シンポジウムレポート Vol.2】ネット社会のプライバシー──ネット上の発言、“実名派”“匿名派”議論白熱

1999年10月06日 00時00分更新

文● 小谷洋之

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池袋サンシャインシティ コンベンションセンターにおいて開催された“'99プライバシー・シンポジウム”(主催:インターネット弁護士協議会)。引き続き、午後の第2セッションは“ネットワーク”“報道”“教育”の3分科会が開催された。筆者は、ネットワークにおけるプライバシー問題を考える“ネットワーク”セッションに参加した。

左から、崎山伸夫氏(民間研究所勤務)、高島章弁護士、丸橋透氏(ニフティ法務部)、町村秦貴氏(亜細亜大学助教授)
左から、崎山伸夫氏(民間研究所勤務)、高島章弁護士、丸橋透氏(ニフティ法務部)、町村秦貴氏(亜細亜大学助教授)



コーディネーターの町村秦貴氏(亜細亜大学助教授)は
「匿名によるプライバシー侵害をどう防ぐのか? 掲示板には・誰々をレイプせよ・といった“攻撃型”と、アメリカの“ゼラン事件”に代表される“なりすまし型”による被害がある」と解説した。

コーディネーターの町村秦貴氏(亜細亜大学助教授)
コーディネーターの町村秦貴氏(亜細亜大学助教授)



「ゼラン事件は、AOLの掲示板において、オクラホマシティーの連邦ビル爆破テロ事件に関して記念Tシャツなどグッズ販売注文の告知がなされ、受付窓口としてシアトルのゼラン氏の自宅電話番号が掲載されたのである。ゼラン氏宅にはこれを非難する電話等が殺到したというもの。日本でも、神戸の診療所の電話番号を掲示板に公開され、営業妨害と損害賠償を求める訴訟がおき、神戸地裁で原告の訴えを認める判決がでた」と、具体例を挙げて問題提起とした。

パネラーの崎山伸夫氏(民間研究所勤務)は
「仮名・実名はある程度共通性がある。それと匿名はハッキリと区別しなくてはならない。例えば、本名と戸籍名が異なる場合や、芸名・筆名などの生活名と本名が異なるケースは、社会生活上は芸名が主となるだろう。ネット上の名も、生活におけるネットのウェイトが大半を占めれば占めるほど価値があり、実名と仮名は別けられない。

パネラーの崎山伸夫氏(民間研究所勤務)
パネラーの崎山伸夫氏(民間研究所勤務)



「フィンランドのある匿名リメ-ラ-・サービスがなくなった。利用者がカルト教団の情報を、このリメ-ラ-を通じて流していたが、情報を流されたカルト教団側はトレード・シークレットを主張、フィンランドの裁判所は教団の主張を受け入れた」

「しかし、例えば、暴力団などと対抗している場合や、巨大組織の内部告発をしようという場合、匿名性が担保されないと、言論の自由が侵されることになる。また一方で匿名リメ-ラ-に対して司法が開示しろといっても、実効性はなくなってきている。gooやexiteなどのポータルサイトが、詳細な個人情報をださずともe-mailアドレスを提供しているからだ」と匿名性の価値を指摘した。

続いてパネラーの高島弁護士氏(ニフティ現代思想フォーラム“法と思想”会議室前議長)は
「ニフティの書き込みには、プライバシー問題のクレームが常にある。おのずとプライバシー問題を考えるようになった。消極的側面としては住所を公開することによって、イタズラ電話や生寿司が届くといった問題があり、積極的側面として、どの人が語っているのかよりも何を語るか…つまり中味のみの議論が可能になるということが指摘できる」と言い、さらに続けた。

「神戸地裁の判決は支持する。プライバシー権は場面場面によって異なると考えられるが、個人情報を公開することでいやがらせが予想されるBBSに関して、プライバシー侵害というのはわかりやすい」」と指摘した。

丸橋透氏(ニフティー法務部)は
「ニフティのBBSでは実名主義をとっており、クレジットカードの名義が実名となります。というのもBBSは事故が多く、ある時期から実名表記のみにした。神戸の件は、プライバシー侵害という意味では確かにそうだろうけが、個人情報の自己コントロール権、すなわち公開した情報に対して、絶対的なコントロール権が認められると何も出来なくなってしまう恐れがある」

丸橋透氏(ニフティー法務部)
丸橋透氏(ニフティー法務部)



「表札は、知り合いと郵便配達にだけ出しているわけではないでしょう。神戸地裁の判決は、あらかじめ公開されている電話番号の自己コントロール権に関するものであり、その理屈づけを一歩踏み出してしまった感がある」

「なお、NIFTYのBBSでの取り扱いは、特に電話番号がBBSに掲載されると事故に発展しやすいこともあり、個人の住所・電話番号が掲載されているのを発見ししだい削除している。法人の場合は業務妨害を自己防衛できるとの判断から削除していない」

「またホームページサービスではIDを必ず表示しろと指導している。ネット上で商売する場合には訪問販売法にしたがい住所・氏名・連絡先を表示せよ…としている」

この発言に対して、高島弁護士が
「BBSを実名にしても、確信的な民族差別などが書き込まれ、実名だから上品で秩序があると限らない。むしろ匿名のほうが、レベルの高い議論ができる」と主張。

高島章弁護士
高島章弁護士



丸橋氏は
「ネット上には色々な人がいるのでトラブルが起こるが、大切なのは、被害を受けた人を救済できるかどうか。当事者主義のルールの確立が必要でしょう」と答える。

ここで会場から「発信者情報はどういった状況になれば開示する?」との質問がでた。

丸橋氏は
「任意捜査や弁護士の照会には応じていない。これは電気通信事業法の守秘義務による。では、発信者情報ではなく『契約者情報を開示せよ』とこられても、ニフティに問い合わせてくるということは発信者情報とイコールであり開示できない。裁判所の令状がないかぎりダメです」

「民事上の争いということであれば、なお不可能ですね。どうしてもということならば、ニフティを・開示しないのはけしからん・と訴えるしかない。ただしこれは未知数であり、やってみなくてはどうなるか結果がわかりませんが」

最後に町村氏が
「やはりプロバイダ-が公的責任を負うよりも、発信者情報を公開するルールをつくることが急務でしょう」と指摘した。

例えば、改正風営法において、ポルノ画像をホームページ上に設置する者を風俗業者とし、業者のみならずプロバイダ-にも責任を負わせることとなった。しかし、安易にプロバイダ-の責任を増やすよりも、ネットユーザー個々の間で問題を解決できるような、自浄をうながす仕組みづくりが必要だと感じた。

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