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「皆がきちんと責任を取る資本主義へ」--“第18回 流通金融ターミナル研究協議会”勉強会から

1999年09月14日 00時00分更新

文● 編集部 高柳政弘

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「安易な債権放棄は資本主義の原則に反する」

天野氏は冒頭に「日本は“Too Big to fail-大企業中心の社会概念”を崩さなければならない」と述べ、そうすればバブル経済崩壊以降の復興も早かったであろうと述べた。

次に、「借り手責任と貸し手責任を明確にしなければならない」と強調した。「返済能力以上の過剰債務を負った企業が取る手段として、債権者の権利行使を一時期猶予してもらう会社更生法の適用申請が多く使われる」と述べ、これは、関係者の利害を重要視した方策だと批判。「企業は会社更生法の適用申請をした時点で“倒産”したとされるが、その企業は再建できるとは限らず、結果として債権放棄(借金棒引き)となるケースも多い」と実情を報告した。

そして、日本の銀行は大企業の存続のため債権を放棄することが多かったことに言及。これは、経営効率の優れた企業のみが生き残り、非効率な企業が淘汰されていく資本主義の経済原則に反すると力説した。一方、「海外の銀行は、ビタ一文借金をまけない」と述べ、天野氏は日本の銀行との違いを強調した。

続いて、天野氏は、海外で債務過剰に陥った企業を救済するために取られている方法はデット・リスケジュール(債務返済期間の延長)やデット・リストラクチャー(金利減免や債務の株式化など)で、両者を総称して債務調整と呼んでいると説明した。また、海外の債務調整は必ずしも法的手続きにはよらないという。「銀行は企業の再建の可能性があれば、会社整理に持ち込まず、債務調整で企業を存続させ、回収を図るのは貸し手の責任を果たすことでもある」とインドネシアや日本の企業例を交えて説明した。

天野氏は、債務調整で最も有効なものは債務を株式に交換する方法だという。債務の株式化のリスクはローンによる返済と変わらないが、債務の株式化はリターンがローンより桁違いに大きいと力説した。

最後に「日本は大企業中心の社会概念を崩し、安易に債権放棄しない米国的な透明度の高い債務調整が将来あるべき姿ではないか。そうすれば日本経済の復興も早いであろう」と締めくくった。

 タンデム事務所 企業金融アドバイザー 天野太球磨氏
タンデム事務所 企業金融アドバイザー 天野太球磨氏



タンデム事務所
 http://www2.gol.com/users/yoron/

「ナスダックがベンチャー振興の鍵」

続いて、ディー・ブレイン証券の出縄会長が講演した。最初に「ベンチャー企業の成長において、大きな壁となるのが資金問題で、創業期の企業ほど資金が調達しにくい」と述べ、米国の証券市場を次のように説明した。

米国では、エンジェルと呼ばれる個人投資家やベンチャーキャピタルが積極的に創業期のベンチャー企業に投資し、IT(情報技術)企業を中心とするベンチャー企業を支えてきた。証券市場および証券会社のビジネス構造が原因で、米国では、中小企業の株式公開のハードルが低い。このため、未公開株式の流動性を高めることが容易で、未公開企業に対する投資がしやすい。投資がしやすい理由の1つが、ナスダック(NASDAQ)の存在だという。

ナスダックは、米証券業協会(NASD)が'71年に開設したオンラインによる電子証券取引市場である。IT、ハイテク関連企業を中心に、約5000社の企業が株式を公開している。物理的な取引の場を持たずに、コンピューターネットワークを用いて株式を売買する。現在、ナスダックは、売買高や売買株数において、米ニューヨーク株式市場(NYSE)を上回っている。おもな登録企業として、米マイクロソフト社、米インテル社、米デルコンピュータ社などがある。

出縄氏は、ナスダックの特徴として、「株式公開の低いハードル、徹底したディスクロージャー(情報開示)、自己責任投資の大人の市場、ハイリスクハイリターン、高い資金の流動性を保つマーケットメーカー制度がある」を列挙した。なお、米証券業協会(NASD)とソフトバンク(株)が提携し、日本版“ナスダック・ジャパン”を2000年末までに設立すると発表している。

「日本には株式会社が約130万社あるが、外部株主から資金調達できるのは3200社しかない」と日本での株式公開の難しさを強調した。出縄氏は「日本にも米国のナスダックのような市場が存在すれば、もっと多くの中小ベンチャー企業に投資しやすくなるはずだ」という思いから、ディー・ブレイン証券のVIMEX(ヴァイメックス)というシステムを創設した。これは、インターネットでの未公開株式発行と未公開株式を流通させる仕組みである。

実は、ディー・ブレイン証券は、このシステム運営のために設立されている。'97年7月に設立されたもので、金融系以外の民間企業が証券会社を設立したのは、証券免許制が始まって以来30年ぶりだった。VIMEXには、ディー・ブレイン証券のほか、泉証券、一吉証券、コスモ証券の3社が取り扱い証券会社として参加している。ディー・ブレイン証券が発行市場機能においてホールセーラーの役割を担い、ほか3社の証券会社がリテーラーとして各社の得意先である投資家に販売している。

出縄氏は、ベンチャー企業の事業成長の可能性を拡げるために直接金融の活用を勧誘し、さらに専門的に人材とM&Aの支援を行なうことによって事業の成長を図り、投資の価値を高めていくことが重要だという。

最後に、出縄氏は「ナスダック・ジャパンや未公開株式市場が活性化すれば、ベンチャー企業の資金調達も容易になるため、日本でもベンチャー企業が米国のように育っていくだろう」と講演を締めくくった。

ディー・ブレイン証券(株) 代表取締役会長 出縄良人氏
ディー・ブレイン証券(株) 代表取締役会長 出縄良人氏


・ディー・ブレイン証券
 http://www.vimex.co.jp/

「2001年4月に民間と政府間の公開鍵暗号インフラが確立」

エントラストジャパンの浦山部長は講演の冒頭、「金融業界や証券業界においてPKI(公開鍵暗号インフラ:Public-Key Infrastructure)や電子認証が脚光を浴びている」と語った。インターネットでショッピングやバンキングが普及しつつある背景には、PKIや電子認証の実用化による安全な取り引きが可能となっている点があると解説した。

続いて、浦山氏は「PKIは公開鍵暗号技術を用いたセキュリティー基盤である」と述べ、PKIが、公開鍵証明書やCRL(証明書取り消しリスト)を発行する認証機関(CA:Certification Authority)、ユーザーの登録を行なう登録機関(RA:Registration Authority)、公開鍵証明書やCRLを格納するリポジトリー(Directory)で構成されると説明した。

電子認証の暗号アルゴリズムには、公開鍵(非対称鍵)方式を採用している。浦山氏は、公開鍵方式とは「1 door 2 key(ワン・ドア・ツー・キー)」であると説明する。1つの入口に対して、鍵の方は2つある。公開鍵(暗号をかける専用の鍵)と秘密鍵(復号する専用の鍵)の2つである。

送受信の手順についても説明した。データを送ってもらう相手に、自分の公開鍵を渡して鍵を掛けてもらい、データが相手から送られてきたら、自分だけが持っている秘密鍵で復号する。この公開鍵方式は'76年に発明されたアルゴリズムであるが、いまだに解読されていないため安全だと強調した。

浦山氏によると、“電子署名法・電子認証法の法案”が、本年度中の国会に提出され、本年度中に通過する見込みだという。また、「2001年4月に、民間と政府間の電子署名をベースとしたPKI・電子認証が開始される予定で、ガバメントPKI(電子政府)が誕生する。これにより安全なPKIシステムと電子認証が普及し、EC関連のビジネスや産業全体が活性化するであろう」と締めくくり、すべての講演を終了した。

エントラストジャパン(株) 営業・マーケティング本部長 浦山清治氏
エントラストジャパン(株) 営業・マーケティング本部長 浦山清治氏

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