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【INTERVIEW】アドビのインターネット戦略 vol.1--Photoshopがウェブコンテンツのイメージ制作ツールに方向転換!--アドビシステムズ(株)中村真理子氏

1999年08月25日 00時00分更新

文● 千葉英寿

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アドビシステムズ(株)は、イメージ編集ソフト『Adobe Photoshop 5.5日本語版』の販売を9月17日から開始する。Adobe Photoshop(以下、Photoshop)はこれまで、印刷およびデザインプロフェッショナルのためのフォトレタッチソフトとして、その位置を不動のものとしてきた。

本バージョンからはAdobe ImageReady 2.0を同梱する形で統合し、さらに高品質なウェブ用グラフィックスをデザインするツールへと方向性を大きく転換している。このPhotoshop 5.5日本語版のマーケティングはどのように展開されるのか。アドビシステムズ(株)でプロダクト・マーケティング・マネージャーを務める中村真理子氏にお話を伺った。

Photoshopマーケティング担当の中村真理子氏
Photoshopマーケティング担当の中村真理子氏



印刷で得たノウハウをウェブにも

--米国ではPhotoshop 5.5のターゲットをウェブにフォーカスしているとのことですが、日本でもそれは同じですか?

「ターゲットは確かにウェブのユーザーにフォーカスしています。しかし、米国とはターゲットの分け方が違っていまして、日本では“ウェブ画像制作に興味のあるユーザー”“既にウェブ画像を作成しているユーザー”、そして“従来からのユーザー(印刷、画像編集)”と分けています(*)」

「これは日本と米国ではインターネット事情が微妙に異なっているからでして、まだ米国に比べて日本の方が“若い”というか、ブレイクしていない、という感じがあるからです。ウェブクリエイターと言われる職業に就いている人も、日本ではまだ少ないということもあります。将来的にはある時点で同じになることがあるとは思いますが」

(*)米国での分類は、米アドビシステムズ社のKevin Connor氏によると、プリントだけのユーザー、ウェブだけのユーザー、両方を扱うユーザーの3者に分けているとのこと。

--確かに米国に比べるとウェブクリエイターは一般的ではないと思いますが、それでもウェブにフォーカスする理由は?

「これまで、ウェブの画像は印刷に比べて質が低いという認識がありました。ですが昨今、インフラが整いつつあることで、ウェブにおいても高品質な画像を提供できるようなウェブグラフィックス用のソフトウェアが出せるようになってきました。日本もやっとそういう状況になってきたということだと思います。そういう意味で、印刷で育てたノウハウを活かして、アドビが強味を発揮できるのではないかと考えています」

--その印刷で得たノウハウとは何でしょう?

「プロフェッショナルな品質で“出力”できるノウハウですね。その点において、安定していますし、色などの面で同じものを出せることや、複数のアプリケーションを使って出版を行なうという考えにおいて、印刷分野で培ったものをウェブやダイナミックメディアに適用できるのが、アドビの強味であると考えています」

「印刷用とウェブ用で同じものが出せるということはとても大事なことです。特にコーポレートイメージ(CI)を確立する上で、印刷物とウェブの両方を用意することが多くなっています。その時にどちらか一方のイメージが違っていたら、チグハグですし、かえってマイナスになってしまいます。また、他のアドビ製品との共通性やトータルなソリューションを提供できるということは、他社ではできないことだと思います」

--出力に関して、具体的にはどんな機能が盛り込まれていますか?

「出力の項目に、“Web用に保存”というメニューが加わりました。これを選びますと、オリジナル画像と最適化した画像を比較しながら選択することができます」

“Web用に保存”のメニューでは、色数やディザのあり/なしなどを最適化した画像を、オリジナル画像と比較することができる
“Web用に保存”のメニューでは、色数やディザのあり/なしなどを最適化した画像を、オリジナル画像と比較することができる



--ウェブにフォーカスしていくことはわかりましたが、今後はPhotoshopの位置づけ自体も変わってしまうのでしょうか?

「いままでPhotoshopは“フォトレタッチソフト”と呼ばれ、狭い解釈をされてきました。今回、これを機会に“イメージ編集ソフト”ということで、その解釈を正していければと考えています。フォトレタッチだけではないイメージエディティングのソフトとして位置付けたいと考えています。ウェブも含めたトータルなグラフィックソリューションという位置付けにしていきたいと思います」

「Photoshopと一緒にウェブに行きましょう」

--印刷・製版・デザインの分野でPhotoshopを使っているユーザーが数多くいますが、ウェブにフォーカスすることによって、プリント分野がおろそかになるようなことはないのでしょうか?

「今回、バージョンを6.0ではなく5.5とした理由は、決して機能が十分ではないということではありませんが、マスキングなど印刷分野での機能追加を別として、まんべんない機能追加をしなかったという点が挙げられます。今回は、ウェブにフォーカスするという目的がありましたので、全体的な機能拡張は次期バージョンにご期待いただきたいと思っています」

強力なマスキングツールは5.5における目玉のひとつ
強力なマスキングツールは5.5における目玉のひとつ



--プリントユーザーの中には、まだインターネットを利用していない人も多いと聞きます。これからはそうしたユーザーもインターネットを使うべきだと考えるのですが、その点はどのように考えていますか?

「製版などをやってらっしゃる方にとっては、確かにインターネットは使いにくいかもしれません。しかし、インターネットは社会現象とか、何らかの分野ではなく、もはや社会のインフラになってきています。ですから、インターネットでもご活躍いただけるように、ぜひ“Photoshopと一緒にウェブに行きましょう”と申し上げたいですね」

--Windowsユーザーに対してPhotoshopを売っていくのはなかなか難しいと思うのですが。

「これまではデザインといえばMacintoshでしたが、Windowsでも環境が整ってきています。また、企業によってはWindowsしか導入を認めないというところもありますので、そうした企業にもPhotoshopを数多く導入いただいています。ですので、今ではそうした心配はなくなっています」

--米国では『Photoshop LE』の単体販売が始まりましたが、日本ではどうなりますか?

「日本のユーザーは、少ない機能だけを持つバージョンよりも、良い機能ならすべて入っているバージョンを望む人が多いことが、アドビのこれまでの調査でわかっています。とは言っても、Photoshop LEを日本でリリースする可能性がまったくない、ということではありません。最近は、デジタルカメラの画素数が上がりましたので、これまで画像編集とは縁のなかった方がPhotoshopをお使いいただくことも考えられますので」

ImageReadyのユーザーにはアップグレード価格で提供

--価格面はどうなりますか? また、アップグレード価格はどういう設定でしょうか?

「今回から、オープンプライスの設定になっています。アドビが予想している店頭価格は10万円前後です。アップグレードは、Photoshop 5.0ユーザーが2万円(アドビ直販価格)で、店頭および直販で提供いたします。またPhotoshop 4.0以前のユーザーに対しては2万5000円(直販のみ)で提供いたします」

「このほか、学生向けの料金設定については、これまで通りアカデミックパックを設定しています。こちらもオープンプライスでして、以前がほぼ半額の設定でしたので、今回も同じ扱いになります。なお、アカデミックパックは通常の店頭販売ではなく、学校生協やアドビの正規代理店を通じて、学生証明のできる方に販売させていただくことになります」

--これまでのAdobe ImageReadyのユーザーにとっては、Adobe ImageReady自体のバージョンアップを望む声も出てくると思うのですが、これについてはどのようにお考えですか?

「Adobe ImageReadyの登録ユーザーに対して、特別価格(2万5000円)でPhotoshop 5.5へのアップグレードをご提供する予定です。この件については公にはアナウンスしておりませんが、Adobe ImageReadyの登録ユーザーに対して直接ご案内を差し上げる予定です」

同梱のAdobe ImageReadyを使えば、Gifアニメを簡単に作成できる
同梱のAdobe ImageReadyを使えば、Gifアニメを簡単に作成できる



 満を持してのウェブ制作分野進出となるPhotoshopだが、まだまだPhotoshop自体が持つ市場にうまみがある以上、ウェブ分野まっしぐら、というわけにもいかないようだ。インタビュアーのイメージとしては、ウェブに興味があればアップグレードは必須である。しかし、あくまでプリントに固執するユーザーには意味のないアップグレードになりそうだ。ただし、マスキング機能は強力である。そこひとつとっても価値あるバージョンアップには違いない。

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