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【Interactive Education'99 Vol.3】基調講演“インターネット教育からInteractive Educationへ”

1999年08月23日 00時00分更新

文● 狭間太一郎

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19日、20日の2日間にわたり、大手町の日経ホールにおいて“Interactive Education'99”と題した、ネットワークやパソコンにより新しい教育の形を考えるイベントが行なわれた。本稿では、初日の午前中のプログラムを中心に紹介する。
 

他者の身になる“YOU的学習共同体”の必要性

初日の基調講演では、東京大学大学院教育学研究科教授佐伯胖(さえき・ゆたか)氏が登壇した。佐伯氏はまず、学級崩壊や学力低下について、大学生でも引っ掛かる障壁の具体例をあげた。現代は子供たちが学習そのものを否定する、“学びからの逃走”の時代であると定義し、その原因が、環境破壊や金融破綻、国際紛争などからくる無力感、虚無主義にあるとしている。

また現状を打開する試みとして、面白い実験をしたり“学ぶことを面白くする”試みが用いられているが、子どもたちをお客(消費者)として買わせている(消費させている)にすぎないと指摘。慣れてしまえば、より強い刺激を要求するようになり、根本的な解決にはならないと言及した。
 
そして子供たちには、他者の身になる“YOU的学習共同体”が必要であると訴えた。“学びのドーナツ”から自分だけの秘密の世界やYOUの世界が失われていること、単なる身内やウチワだけの論理で結ばれる“同質者集団”が信頼を破壊していると指摘し、開かれた共同体の必要性を説いた。その要件として、他者が見知らぬ人(縁のない人)ではなく関わりのある潜在的なあなた(YOU)であると認識すること、管理と支配からの独立、自分史を語り合うことなどを挙げた。
 

東京大学大学院教育学研究科教授の佐伯氏東京大学大学院教育学研究科教授の佐伯氏



自律共倫的学習ウェブと全人格性による“案外”の教育学

伯胖氏はこのような文化生成の学びを作るネットワークとして、Convivial Learning Web(自律共倫的学習ウェブ)、Whole Person性(全人格性)による“案外”の教育学を提案した。崩壊学級を前提に、ともに“善さ”(一貫性、最適性、開放性)を探し求めること、ユーモアと即興で“適応的な抵抗”をできるようにしようという提言を行なって講演を締めくくった。
 
その後の質疑応答では、調べ学習の現状について「問いがないことが問題。自分の中から湧いてくる問いこそ大切。インターネットを利用すると、人の疑問にそのまま乗ってしまう危険性がある」と注意を促していたのが印象的だった。
 

学校教育におけるインターネット接続の現状

続いての講演は、慶応義塾大学環境情報学部助教授の鈴木寛氏による“産官の情報教育への取り組み――そのインフラ整備と期待”。氏は“新100校プロジェクト”などに従事してきた立場から、情報教育推進事業についてこれまでの実績と今後の展開を報告した。
 

慶応義塾大学環境情報学部助教授の鈴木氏慶応義塾大学環境情報学部助教授の鈴木氏



鈴木氏は、日本での取り組みを3つのフェーズに分けて分析した。第1フェーズは、'96(平成6)年度からのパイロットプロジェクト期。インターネットの接続環境を整備した、文部・通産両省による“100校プロジェクトと新100校プロジェクト”、文部省・NTTによる“こねっとプラン”が紹介された。
 
第2フェーズは'98(平成10年)年度からの、現場への本格導入が進む時期とした。'98年3月末時点での平均設置台数は、小学校10.4台、中学校28.1台、高等学校71.1台とのこと。インターネット接続率は、'99年3月末で小学校30.9パーセント、中学校28.5パーセント、高等学校35.3パーセントとなっている。
 

新学習指導要領の実施前に、学校のインターネット接続率を100パーセントに

そして第3フェーズは、2000(平成12)年度から現場で活用・運用する時期と考えている。新学習指導要領が実施され“情報”が必修化される前年の2001(平成13)年度までに100パーセントの学校でインターネットに接続、すべての教員がコンピューター操作等を習得するという目標が提示された。
 
さらに、バーチャルエージェンシー報告では、2005年にすべての教室にコンピューターを配備し、1.5Mbpsの動画を見られるようなネット環境の整備を目指す、としている。
 
また、これらの技術支援・教育実践支援のために早稲田大学が中心となり、慶応大学や民間企業と連携しながら展開しているJERICプロジェクトも紹介した。

ERICプロジェクト
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