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ネットワーク出版研究セミナー「21世紀の出版と出版社」開催

1999年08月06日 00時00分更新

文● 編集部 堀田ハルナ

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日本電子出版協会(JEPA)主催によるネットワーク出版研究セミナー第5回が、5日に開催された。今回の講師は、主に言語学関連の学術書を出版しているひつじ書房代表取締役社長松本功氏。テーマは“21世紀の出版と出版社 ルネッサンスパブリッシャー宣言”。

ひつじ書房代表取締役社長松本功氏
ひつじ書房代表取締役社長松本功氏



21世紀への提案

松本氏はまず、日本の出版業界が衰退傾向にあるとして、出版と出版社の再生のために、“書評ホームページ”と、“投げ銭システム”を提案する。

“書評ホームページ”(http://www.shohyo.co.jp/)は、日本のネット上に書評ページがないことに気づき愕然とした松本氏が、欧米に比して量質共に低い日本の書評をなんとかしようと'97年に立ち上げたもの。米国では書籍の販売が前年度比数パーセント拡大しているが、その背景には充実したブック・レビューの存在があると指摘。

対する日本では、書評誌が少ない上に、様々な分野のトピックに関する、専門家による専門的な書評もほとんどない。このため、このページでは学術情報の充実にも力を入れている。また、このページには誰でも参加して書評を書くことができる。その他、松本氏がフリー編集者の仲俣暁生氏を口説き落として開いた“書評PUNCH”のコーナーがある。

書評ホームページの画面
書評ホームページの画面



“投げ銭システム”とは、大道芸人の帽子や空き缶に小銭を投げ入れるように、ユーザーが、気に入ったホームページや優れたネット上のテキストにいくらかのお金を支払うというもの。インターネットの普及で個人による情報発信が可能になったといわれるが、個人では口座が開設できないなど様々な問題が生じて、まだまだ経済のインフラは整備されていない状況という。現在良質なホームページを経済的にバックアップするのはバナー広告だけだが、少額でもお金を払える“投げ銭システム”によって、ユーザー自身がホームページを支えていく態勢が実現できる。

具体的にはホームページ上に50円、100円、500円といったボタンを配置し、それをクリックすることでホームページにお金が支払われる。この“投げ銭システム”は現在休止中だが、九月からビットキャッシュを利用してスパイスシステム上で試験的な運用が再開される。

新しい知のコミュニティを作る

松本氏は、本に特別な権威を見出し価値を置いていた、いわゆるインテリやインテリ予備軍の読者(氏は近代的読者と命名)は減少しているという。これに対してかつて本が知識の王様であったことを知らない、もしくは意識しないが本は好き、という読者を“新読書人類”と名づけて、この新読書人類のコミュニティの創造を提案している。読者層や読者と本の結び付きの変化を嘆くばかりでなく、新読書人類と本の再興を考えたいというのが松本氏の考えだ。

そこでこの新コミュニティを支えるインフラ整備の1つとして提案されたのが、“書評ホームページ”と“投げ銭システム”である。松本氏は「新読書人類は、最終的に消費する人ではなく、優れたものを支援し、悪貨を駆逐する人であってほしい」と述べる。こうした新読書人類がインフラの整備に伴って知のコミュニティを形成していけば、出版及び出版社、ひいては本というもの自体の新しい存在形態が生まれるのではないか、と松本氏はセミナーを結んだ。

なお、松本氏は5月に今回のセミナーの底本となった『ルネッサンスパブリッシャー宣言』を出版。

『ルネッサンスパブリッシャー宣言』ひつじ書房 定価2200円『ルネッサンスパブリッシャー宣言』ひつじ書房 定価2200円



また、9月29日(予定)に、松本氏が参加する、私設電子図書館の活動の支援に関するワークショップが開かれる。場所は飯田橋シニアワーク東京。
次回のネットワーク出版研究セミナーは8月27日(金)午後3時~開催され、テーマは“Cyber Cash と Media Galaxy”。詳細はhttp://www.jepa.or.jp/に。

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