音楽家の坂本龍一氏とメディア・アーティストの岩井俊雄氏によるジョイントコンサート“MPI×IPM”(http://www.mpixipm.org/)が今日まで恵比寿のザ・ガーデンホールで行なわれているが、23日のマチネーの部をネットライブで視聴したので、その模様をリポートしよう。
23日のマチネーは“ファミリー・スペシャル”で、子供がどんなに会場で騒いでもオーケーということになっていて、実際、客席には子供連れが多かった。
既報のとおり、112Kbpsストリームでの配信サービスも用意されているのだが、今回はISDNシングルを使って56Kbpsストリームで視聴した。このネットライブは有料なので、まずBitCashカード(http://www.bitcash.co.jp/)を買う。BitCashのWebサイトで、会社の隣のオペラシティビルにある某大型書店で売っているという情報を得たのでさっそく買いに行く。1000円、2000円、5000円のがあるということなので1000円のカードを買う。数種類のデザインがあり、「どれがいいですか」と店員さんに訊かれる。どれもアニメものだったが、『エヴァンゲリオン』のやつを選ぶ(特に意味はない)。大きさはテレホンカードと同じ。それはいいのだが、店員さんがBitCashカードの販売に慣れていなかったらしく、えらく待たされた。
次にユーザー認証機能をサポートしたRealPlayerの最新版(Ver.5.0)をダウンロードし(http://www.real.com/products/player/index.html)、MPI×IPMのホームページにリンクしているBitCashのページへ行く。ここで、買ってきたBitCashカードの裏側のスクラッチ部分をこする。決済用のひらがな16文字の情報が現われるので、それをBitCashのページに出てきたフォームに入力する。56kbpsストリームの場合、330円なので、残高が670円となっていることを確認してOKボタンをクリック。するとMPI×IPMからIDとパスワードがWeb上で発行される。これは一度しか表示されないのでメモしておく。
あとはダイヤルアップでインターネットに接続し、MPI×IPMサイトの56KのエントリーポイントをクリックするとRealPlayerが起動するのでIDとパスワードを入力すればいい。開演前の客席とステージが映し出され、キョージュがこのコンサートのために書き下ろし、ヤマハが来年2月に発売するという新型シンセサイザーによって演奏されるBGMが聞こえる。まったく問題ない。
午後2時30分に開演。ステージの左右にMIDIピアノが配置され、キョージュは左側で演奏する(写真1)。中央に大きなスクリーンがあり、そこにキュージュの弾くピアノの音階、アタックの強さ、音の長さなどに応じてリアルタイムに変化するグラフィックが表示される。これはもちろん岩井俊雄氏によるもので、ピアノから送られる信号を岩井氏のデスクトップにあるコンピューターが受けてジェネレートするもので、あるときは左のピアノから音が光になって飛んで行き、あるときはスクリーンの中央から渦巻き状に広がり……というように岩井氏のオペレーションによって変化する。
曲は『Rain』、『M.A.Y. in The Backyard』、『The Sheltering Sky』など、キョージュのファンにはおなじみのものだが、岩井氏のグラフィックがあることによって何かとても新鮮な視聴体験に感じられる。
ひととおり演奏が終わると、坂本氏と岩井氏から今回使っているシステムの簡単な説明があり、弾いてみたいという子供をステージに上げてMIDIピアノを体験してもらったり(写真2)、岩井氏によるCGのロボットがピアノの上を歩くことによって音が出て、反対側のピアノにジャンプもできるというゲーム(?)が披露されたり(これも客席の子供たちに大人気。スーパーファミコンのコントローラーで操作する)、ファミリー・スペシャルならではの趣向がたくさん(写真3)。
インターネット経由で送られてくる視聴者が作った音のパターンと坂本氏がセッションするRemotePiano、左側のピアノから立ち上った光の粒子(?)が右側のピアノに落ちてきて鍵盤をたたいて音を出す(すべてCGだが、客席からはそう見える)モードを使ってのインプロビゼーション的なパフォーマンスもあり、通常のコンサートでは体験できない不思議な感動を観客に与えた(写真4)。
56Kストリームによる映像は平均すると16~24フレーム/秒程度、音はステレオでFM放送レベルのクオリティーだった(使用したマシンはPentium-90MHz、40MBメモリーのDynaBook)。「音楽は、Hi-Fiじゃない」というのはキョージュの言葉だが、観て聴いて心を動かされるには十分な画質であり、音質だった(もっとハイクオリティーなほうがいいのはもちろんだが)。ちなみに112Kbpsで視聴した人に訊くと、「十分おカネを取れるクオリティー」だったとのこと。
客席からのリクエストで2回のアンコールがあり、たくさんの子供たちから坂本・岩井両氏に花束が手渡され、MPI×IPMは終わった。
これはどう考えても良質な“マルチメディア”コンテンツだ。が、必ずしも既存のマス媒体とマッチングがいいとも思えない。そういう場合、ネットライブはとても有効なメディアだと思った。(報道局 河村康文)
(写真1) (写真2)
Copyright Kab Inc. 1997 Copyright Kab Inc. 1997 |
(写真3) (写真4)
Copyright Kab Inc. 1997 Copyright Kab Inc. 1997 |
(写真1) MIDIピアノを弾く坂本龍一氏。
(写真2) 客席から上がってきた女の子が弾くのを見守るキョージュ。
(写真3) ピアノの上にCGのロボットが現われ、スーファミのコントローラの十字キーを押すとロボットが歩いて音が出る。赤ボタンを押すとロボットがジャンプして反対側のピアノに飛び移れる。タイミングが悪いと落っこちてゲームオーバー(?)。
(写真4) 坂本氏の弾くピアノから立ち上った光の粒子が放物線を描いて右側のピアノに落ちて鍵盤を叩(いているように見える)き、ディレイがかかって音が鳴る。音がイメージをつくり,イメージが音をつくる。