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『瀬名秀明 ロボット学論集』上梓「これは僕の自伝です」

作家・瀬名秀明とロボット ~攻殻機動隊の世界は実現するか~

2009年01月13日 22時34分更新

文● 矢島詩子、企画報道編集部

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ネット社会の今、作り手が攻殻機動隊にこめたもの

瀬名 なるほど。攻殻機動隊(の映像作品)は、95年から06年まで、つまり11年間かけて作られているわけですけれども、その間かなりネット環境も変わりましたし、攻殻のアニメを作っていらっしゃる方の考え方も変わってきたりとか、いろいろな変化もあったんじゃないかと。

 攻殻機動隊で有名な台詞として、素子の「ネットは広大だわ」があります。「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」はその台詞で終わります。SSSも、実は同じ言葉で終わるのですが、僕は、ニュアンスがかなり違うような気がして。同じ「ネットは広大だわ」と言うにしてもね。その辺のニュアンスの変化っていうんですかね。作り手のほうはどのような意味を込めたのかを聞きたいんですけれども。

櫻井 はい。やはり、最初に士郎さんが原作を描かれたのが89年、映画になったのが95年、インターネットが出てきた……学生のレベルに浸透したのが96、7年くらいだったと思います。僕が大学に入ったときは、「情報処理」という授業があって、メールの書き方を教えていましたからね。そういう時代です。「拝啓というコトバはいらない」とかね(笑)。たった10年前にそんな授業があったんですよ。

 「ネットは広大」っていうポジティブなこと――それがポジティブっていうかどうかは分からないのですが――そういう、ある種オプティミスティックな感じが原作には感じられますが、SACをつくっている頃は、この先はもうちょっとスタンドアローンになっていくんじゃないかという発想が根底にはあったんです。もうちょっと個別になっていく。

瀬名 90年代中盤っていうことですかね?

櫻井 2000年ちょうどくらいだと思うんですけれども。やっぱりもうちょっと“村”化するんじゃないかとか。そんなことは予言されているかもしれないけれども、もうちょっと個別的なものになってくるんじゃないかなーっていう。みんなが世界で繋がるって感じじゃないんじゃないかっていうね。

 離脱する人たちも当然出てくるし、そういう人たちはそういう人たちで、独自の複合体というか、連合=コンプレックスを作っていくっていう発想だったんですよね。

 だから、95年の「GHOST IN THE SHELL」に出てきた人形遣いというハッカーは、ハッキングして操るっていう犯罪者だったんだけれども、SACのほう(笑い男)は、ハッキングではないんですよね。みんな自主的に劇場型犯罪に参加してしまっているっていう犯罪のスタイルです。一番大きな犯罪としてはそれを想定していて、やっぱりそういう風な変換というかが、あった時期だと思うんですね。

瀬名 それがSACが始まった頃の“なんとなく”なニュアンスだったと思うんですけれども。06年まで来て、そのニュアンスというのはまだ引き続いているっていう感じはありましたか? というのは、士郎さんのマンガから全て見ていると、確かに個々それぞれがネットに分散していくという感覚が、06年くらいがピークで、そのあとちょっと方向性が、まだよく分からない状況なのかなという気もしているんですよ。

 明らかに個がそれぞれ個になってしまって、それはなかなかしんどいよって言うのがあって。もうひとつが、攻殻機動隊の公安9課の面々が、テレビシリーズでは年をとっていきますよね? で、トグサくんという、最初は若くて張り切ってフレッシュな感じで出てくる人が、最後の方になってくると統括責任者になって……

櫻井 SSSはそうですね、草薙がいなくなっちゃって公安9課のリーダーになってますね。

瀬名 バトーなんかはほとんど引退しかかっているっていうか。

櫻井 そうですね。バトーはもう、ふてくされているんですね。

瀬名 2nd GIGまでは出てこなかった新人たちが出てきているし、それから、狙撃のサイトウも義体化が進んだりとか、それぞれの人生に合わせて、変わってきているわけですよね。組織に対する考え方も変わってきている。こういう感覚が、電脳社会みたいなものと、今後どういう風に、からみあいながら進んでいくのか。

櫻井 難しいですね。組織というのは本当に。1つの事件を10の力で解決するという時代から、3つの事件、あるいはそれ以上の事件を6とか7の力で解決していく組織、そういうあり方もあるんじゃないかという考え方に、組織自体がなってきている。そういう事に対する、ジレンマを日々抱えているという。

次ページ「ネット社会と攻殻機動隊」に続く

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