今すぐに商品化できないけど、とても“クレイジー”で魅力的なアイデア。お金にならないけど、誰もが触って「おっ」と驚く面白いプロトタイプ──。そうした先進的な開発を行なうために、企業の中には優秀な人材を集めた研究所(ラボ)を設けているところがある。
ここでは米アドビ システムズ社のラボで研究されている“未来の画像処理”の研究成果を紹介しよう。
今回披露してもらった研究成果は大きく分けて下記の3点だ。
- ピント位置を修正できるフォーカスブラシ
- 画像の不正改ざんを見破るフィルター
- 超高解像度な“ギガピクセル”画像を高速に処理する技術
――それぞれ見ていこう。
アドビは“20眼”レンズまで作っていた
まずは撮影後、パソコンに画像を取り込んでからピントの調整ができるという“フォーカスブラシ”を紹介しよう。
現在の常識では、ピントがぼけた写真を補正するのは至難の業だ。例えば、手前に人物、背景に木という構図を考えてみる。「背景をぼかして撮影したが、イメージ通りではなかった。やはり背景の木にもピントを合わせたい」。そんな風に考えたとしても、フォトレタッチでピントを背景の木に合わせ直すというのはまずできない。
背景のぼけ具合にもよるが、一度ぼけた写真にいくら“シャープネスフィルター”をかけても、ピントがピッタリとあったシャキッとした編集結果を得ることはできないだろう。
そこでアドビが考えたのが、不可能を可能にするフォーカスブラシである。このブラシで画像の上をなぞれば、たちまちピントが合わせ直される。逆に自然にぼかすことも可能だ。
なぜこのようなことができるのかというと、修正前の画像に秘密がある。実は、フォーカス位置や被写界深度(ピントの合う範囲)を変えた“複数枚のカット”をひとつにまとめた画像を使用しているのである。
では、このピントの異なるカットを一度にどうやって撮影するのか? この撮影方法が非常にユニークだ。何と複眼レンズを使い一発で撮っているのである。聞けばこのレンズはアドビが独自に開発したもので、1本のレンズでハニカム配列で19個レンズを並べたプロトタイプのほか、格子状に20個のレンズ(5×4個)を並べたものもあるという。
この20眼レンズで撮った画像は、フォーカスブラシ以外の用途にも使える。フォーカスだけでなく撮影角度も微妙に異なるカットが得られるため、例えば撮影後、頭から電柱が伸びているように見える変な構図だったことに気がついても、それを横に少しずらすことが可能になる。
また、画像からムービーを合成して、ピントや角度が移り変わる様子を動きで楽しむことも可能だ。
デジタル写真の“ウソ発見器”フィルター
暗すぎる写真の露出補正や、誤って写り込んだレンズのゴミの影を除去など、今やPhotoshopのレタッチ機能はイマジネーション通りの完璧な“絵”に仕上げるために欠かせないものとなっている。
しかしPhotoshopも単なる道具で、もちろん悪用されることもある。最近ではロイターに掲載されたレバノン空襲の写真について、実はその写真を撮ったカメラマンがPhotoshopを使って煙を足していたということが発覚した。
アドビはこうした写真の改ざんを防ぐために、ダーツマス大学と共同で“ウソ発見器”フィルターを研究しているという。
画像の一部を範囲指定してこのフィルターを適用すると、何もレタッチしていない場合は、黒い背景の上に“トゥルースドット”と呼ばれる4つの白いドットが浮き上がる。一方、レタッチした部分にフィルターをかけると、このドットが現れない。
“ギガピクセル”でもスムーズ動作
最後はギガピクセル画像の扱いだ。ギガピクセル画像は、“ギガピクセルプロジェクト”(http://www.gigapxl.org/)と呼ばれるチームが作ったカメラで撮影したもので、その画素数は4000メガピクセル(40億画素)にものぼる。
アドビはそんなギガピクセルカメラの写真を扱うためのソフトも研究しているそうだ。実際に見せてもらったデモでは、スクロールや拡大/縮小もスムーズに行なえていた。
1ギガピクセルともなれば、画像1枚当たりのデータ量も飛躍的に増える。当然、従来と同じアルゴリズムで、同等のレスポンスを維持するのは至難の業だ。そこでアドビでは、ユーザーが画像をスクロールする際に、データを先読みしたり、拡大/縮小に高速に対応するために、複数枚のサムネイル画像を用意するといった“いくつかのノウハウ”を盛り込んでいるという。
詳しい内容は秘密ということだが、近い将来にやってくるかもしれない“超高画素時代”に対応できるだけのソフトウェア技術を、すでに先行して開発しているのだ。
アドビがちらりと見せてくれた遠くて、近い将来のフォトレタッチ像。Photoshopの魔法はこれからも続くのか?
