「僕がやんないで誰がやるの?」
―― 今日久しぶりにお会いして、佐久間さんも僕らと似た考えなんだと知って、ちょっと驚きでした。
佐久間 いや、でも最近はみんな思いはじめているんじゃないかな。どこかで変だとずっと思ってきたことが、ネット社会になって気づかされる感じはあるよ。
―― でも佐久間さんはプロデューサーとして仕事してきたわけじゃないですか。いくつやったか覚えてます?
佐久間 憶えてないけど、うーん、140回くらい?
―― その立場で言って、今の状況はどうなんですか? 制作から配信まで何でも一人でやれると、プロデューサーは要らない、なんて方向に行きかねない。
佐久間 ううん、別にいいよ。
―― あら、あっさり。
佐久間 プロデューサーなんていないに越したことないよ。いなくてできるんだったら、より自分たちの好きなことをやりたいようにできるじゃない。ミュージシャンが伸びていく過程で、その方法論が分からないから、プロデューサーみたいな人が必要なだけで。
―― 逆にボカロの世界って作詞、作曲、演奏、動画やマスタリングに到るまで分業化が進んでいるんです。そこに專門のプロデューサーがいても面白い状況かな、と。
佐久間 それ面白いね。
―― もし頼まれたらやります?
佐久間 うん。理解できるものならやるよ。
―― またそんな安請け合いして。
佐久間 ま、面白いことってお金にならないよね。僕だって、毎晩音楽を上げてるけど。でも少なくとも、自分のためにはいいよ。あれを聴いて、いい曲だと思ってくれた人がいたら、その人のためにいいだろうし。それに、この先の予感みたいなものもある。
―― 予感って?
佐久間 自分の周りの動きを見ていても、なにか流れが急激に変わっているように感じるね。転機がやってきてる気がする。そういうのって一度に来るじゃん?
―― その辺り、昔から敏感ですよね。
佐久間 新しいもの好きだからね。だって四人囃子なんかやってるのに、プラスチックスやっちゃうんだよ。普通やんないよね。
―― 四人囃子みたいにテクニカルなバンドをやっておきながら、そこはバッサリ捨てちゃって。
佐久間 あんな下手な人たちとねえ。「ドラマーなんて要らないから、リズムボックスにしちゃえ」って僕が言ったんだけど。それがテクノの時代の先駆けになるわけだけど。そういう人だから、そりゃやるよ、ボーカロイドも。
―― 「ボカロなんか使って」って、周囲から言われてないですか?
佐久間 いや、知らない。でも言われたとしたって、僕、テクノの人だし。僕がやんないで誰がやるの?
著者紹介――四本淑三
1963年生まれ。高校時代にロッキング・オンで音楽ライターとしてデビューするも、音楽業界に疑問を感じてすぐ引退。現在はインターネット時代ならではの音楽シーンのあり方に興味を持ち、ガジェット音楽やボーカロイドシーンをフォローするフリーライター。
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