今年2016年10月25日に日本でのサービスが開始されたApple Payだが、日本在住者にとっては既存のiD/QUICPayのほか、公共交通での利用が可能なSuicaのインフラが利用できるということで便利な反面、「海外からの旅行者がiPhone片手に日本のインフラを利用して観光を楽しむ」という目標から遠のいてしまったという残念な面がある。これは日本在住者が海外に行った場合にも同様のことがいえるが、技術方式やサービスの違いの壁はまだまだ大きいと実感した。今回はこの「インバウンド対応」の部分から日本国内のインフラ事情について少し考えてみよう。
訪日外国人の視点からみた日本国内のインフラ
「爆買い」というキーワードに踊らされた過去3~4年ほどだったが、その主力だった中国での規制や訪日外国人の目的意識の変化により、一時期ほどの勢いはみられず収束へと向かっている。現在政府が設定している「2020年までに年間訪問客4000万人」という目標が達成できるのかは不明だが、「爆買い」という一時的なブームから「本当の意味で訪日観光を楽しんでもらう」という本質への転換へと向かう良いきっかけだったのだとは思う。日本にやってくる外国人観光客が何を求めているのかは人それぞれだが、それを楽しむ過程にあたって「困っていること」「改善してほしいこと」というのは共通点がある。観光庁が2010年以降にまとめた複数の資料では、こうした訪日外国人への聞き取り調査で浮かび上がってきたいくつかのポイントがある。
意外でもない結果だが、まず筆頭として挙がっているのが「インターネットの接続環境」で、次点が「公共交通の利用方法や料金」「クレジットカードの利用」と続く。日本にやってくる観光客は、比較的よく事前に目的地の情報を調べていたりするのだが、いざ現地に到着すると地図やWebサイトのブックマークが開けずに困ることがあるようだ。また日本のWi-Fiインターネット接続サービスは商用系で運用されている場合が多く、まず接続方法がわからないという点も考えられる。ただ、この調査報告自体は2011年のもので、最近では無料開放を始めたスターバックスなど、少しずつ利用可能な箇所が増えている。この接続可能な場所を事前に情報として共有できればだいぶ違ってくるだろう。
むしろ問題は公共交通とカード利用の部分にあると筆者は考える。訪日外国人は欧州を鉄道で安価に周遊できるEurail Passのように、日本でもJapan Rail Passのような割り引きチケットでまわろうとする。一方で都市部の交通は私鉄各社が入り乱れており、切符購入の手間を考えれば交通系ICカードを購入するのが一番の近道だろう。ただ、交通系ICカードは購入やチャージが現金利用前提であり、さらに標準のデポジット料金の返金には再び窓口の行列に並ばねばならず、帰国時に最後に利用するのが空港の鉄道駅の窓口に限定されるため、諦めてしまう外国人も少なくない。JR東日本などでは、この対策としてデポジットなしで代わりに利用期限を設けた交通系ICカードの発行なども検討しているようだ。また前述のインターネット接続の部分にも関わるが、Google MapsやApple Maps等で外国語での移動ルート検索も簡単にできるようになっているものの、そもそも携帯電話がインターネット接続できる状態である必要がある。この問題はオフライン地図では対応できず、インターネット接続環境の提供または案内をさらに追加するといった施策が必要なのかもしれない。
そして根深い問題なのがクレジットカードだ。旅慣れた人ほど現金を旅先に持ち込まず、現地のATMでキャッシングで引き出す傾向が強いように思う。ただ日本の場合、銀行系のATMを中心に海外発行のクレジットカードに対応していないというケースが多く、ATM前でカードの取り扱いを拒否されて原因が分からず困惑している外国人によく遭遇する。
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