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「田んぼの真ん中に不快で巨大な灰色の箱」を唐突に建てることは絶対にしない

AIは「チップ」から「物理限界」の戦いへ――エクイニクスが語るインフラ分散と液冷・地域共生の工学

2026年09月08日 12時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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都心の限界と郊外進出 「社会的受容性」のリアルとは?

 推論主導の分散型AIへと舵を切る上で、避けて通れないのが「立地」の問題である。現在、エクイニクスは日本国内では東京に14拠点、大阪に5拠点のデータセンターを展開し、さらなる新設を進めているが、大手町や品川といった都心部では土地と電力の供給が限界に達しつつある。

グローバルで統一されたデザインのエクイニクスのデータセンター

「あらゆる顧客が品川のような都心部を望むのは当然だが、土地にしても電力にしても、それを配備するのが難しくなっている。今後5年、10年を見据えた時、大手町や品川で用地を調達し続けることは現実的ではない。必然的に郊外キャンパスという選択肢が浮上する」とアダグラ氏は認める。

 同社の構想は、郊外に二次的なキャンパスを新設し、都心のハブ(TY4など)とダークファイバーで超低遅延接続することで、論理的に「1つのデータセンター」として機能させるアプローチである。

 だが、ここで日本のインフラ取材を続けてきた筆者が強く懸念するのは、郊外進出に伴う地域社会との摩擦である。首都圏近郊の千葉や神奈川、あるいは北関東の田園地帯に突如として現れる4階建ての巨大なデータセンターは、地域住民から見れば「突如出現した謎の要塞」に映りかねない。かつての工場や病院であれば地元雇用が生まれるが、高度に自動化されたデータセンターは人の出入りが少なく、大型トラックがたまに出入りするだけの不気味な存在として拒絶反応を引き起こすリスクがある。

 この懸念をぶつけると、アダグラ氏は深く頷き、データセンター事業者が持つべき「社会的責任」について熱を込めて語り始めた。

「まさにきわめて重要な指摘だ。地方や郊外で開発を進めるにあたり、業界には『操業するための社会的受容性(Social License to Operate)』が不可欠となる。われわれは地域社会、自治体、電力会社と密接に連携し、データセンターがなぜそこに必要なのかを住民に説明する責任がある」

 実際、アダグラ氏自身、APACのプレジデントとして自ら新規開発の候補地へ足を運ぶが、現地で最初に確認するのは「近隣に住宅地がどれだけあるか、地域住民にどのような影響を与えるか」だという。

「もし業界が地域住民への配慮を怠れば、当然ながら強い不信感を招く。エクイニクスでは海外でも日本でも専任のコミュニティ担当チームを配置し、住民説明会を重ねている。データセンターがもたらす地域経済への貢献や雇用の創出、再エネ利用の方針、学校や地域コミュニティへの支援プログラムを丁寧に説明し、信頼を築く努力を続けている」

 さらに同社が設計思想として掲げているのが「Responsible by Design(設計段階からの社会的責任)」である。法規制や自治体のガイドラインを形式的にクリアするだけにとどまらず、景観への配慮や植樹活動に積極的な投資を行なっている。

「田んぼの真ん中に不快で巨大な灰色の箱(big ugly grey box)を唐突に建てるようなことは絶対にしない。周囲の景観に溶け込むランドスケープデザインと緑化に投資し、地域と共生する。それが正しい責任の果たし方だと確信している」

 競合である大手データセンター事業者の中には「地方展開は自らの役割ではない」と割り切るスタンスも見られるが、エクイニクスは顧客の低遅延アクセスとネットワークの選択肢を担保しながら、慎重に郊外展開と地域融和のバランスを図っていく構えだ。

アジアの結節点から見る現実—シンガポールの電力規制と香港の底力

 地域社会との共生や電力の物理限界という課題は、アジアの先進ハブ都市においてより先鋭化した形で現れている。

 その典型がシンガポールである。小国ゆえに土地と電力が逼迫する同国では、国家的なサステナビリティ目標との兼ね合いから、データセンターの新設を一時禁止する「モラトリアム(凍結措置)」が敷かれていた。その厳格な環境下において、エクイニクスはリテールデータセンター事業者として唯一、特例で電力供給の枠を認められた事業者となった。

シンガポールにあるエクイニクスのデータセンター「SG5」の外観

 なぜ、同社だけが選ばれたのか。アダグラ氏はその背景にある国家インフラとしての圧倒的な存在感を明かす。

「シンガポール政府がわれわれに電力を認めた理由は、エクイニクスがシンガポール国家にとっての価値を明確に理解しているからだ。現在、シンガポールの国内総生産(GDP)の実に8%が、われわれのデータセンターを経由するデジタルフローによってもたらされている。さらに、シンガポールに陸揚げされる海底ケーブルの約2/3が、われわれの施設に引き込まれている」

 国家全体の電力枠には厳格な限界があるものの、経済活動の生命線としてのエコシステム価値が証明されているからこそ、事業継続と拡張が許容されているのである。

 一方、もう1つのAPACの主要ハブである香港の状況は対照的だ。中国本土の国家送電網に支えられているため電力供給の懸念はそもそも存在せず、国際金融ハブとしての需要は依然として強固だという。

「地政学的な変化やコロナ禍を経て、多国籍企業の動向に変化はあったものの、足元では地元の金融機関やAIサービスプロバイダーからの需要が急速に跳ね上がっている。今年初めにも6番目となる新施設を開設したが、引き合いは非常に強い」とアダグラ氏は手応えを語る。

 シンガポールの厳格な環境規制と、香港の旺盛な金融・AI需要。アジア各都市が直面する事情は異なるが、共通しているのは「信頼された相互接続プラットフォーム」に対する依存度がかつてなく高まっている点である。

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