このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

業務を変えるkintoneユーザー事例 第313回

アイシン・ソフトウェアが「人」と「プロセス」で育てた市民開発者

kintoneを“一度封印”して再出発 DXの逆襲はトヨタ生産方式による業務整理から

2026年06月19日 09時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

アイシン・ソフトウェア DX推進部 ITインフラ改革室 齊藤行貴さん

 Excelが支配していたアイシン・ソフトウェアのバックオフィス部門。市民開発を1年間推進するも結果は振るわず、kintoneを一度封印した。逆襲の狼煙となったのは“人”と“業務プロセス”の整備だった。

 サイボウズは、kintoneユーザーの事例イベントである「kintone hive 2026 nagoya」を開催。4番手で登壇したアイシン・ソフトウェアの齊藤行貴さんが共有したのは、失敗から学んだDXの本質だ。

手痛い「失敗」から始まった市民開発者の推進

 世界有数の自動車部品メーカー「アイシン」グループにおいて、唯一のソフトウェア専門会社であるアイシン・ソフトウェア。車のゴムとガラス以外の制御を手掛ける同社は、従業員数約950名と、kintone hiveの舞台では珍しい大企業である。

 同社で情シス部門のマネージャーを務める齊藤さんは、「バックオフィスのDX推進」というミッションを抱えていた。

 バックオフィスには約140名の非IT人材が所属しており、業務データの約8割をExcelが占める「Excelが支配する職場」だった。さらに、そのデータの約3割は重複しており、データ活用できる環境ではなかったという。そこで、齊藤さんが目指したのが「市民開発」による現場主体の業務改善だった。

Excelが支配してDXを推進できる環境ではなかった

 この市民開発の基盤に選んだのは、アイシングループの標準ツールであるマイクロソフトの「Power Platform」ではなく、kintoneだった。要件面ではPower Platformに分があったが、決め手となったのは、アプリ作成のスピードと非IT人材への「優しさ」だったという。

 「kintoneは、全国に活発なコミュニティがあり、豊富な教育コンテンツがあります。機能ではなく『人が育つ土壌』を選びました」(齊藤さん)

Power Platformとkintoneの比較検証

 ただ、kintoneによる市民開発は、手痛い「失敗」から始まった。利用者の希望を募り、110名にアカウントを発行。活用を促す説明会も10回以上重ねた。期待感が最高潮に達する中でスタートを切るも、1年後、現場で生まれた市民開発者は「0人」という非常な結果だった。

 なぜ、kintoneアプリが作られなかったのか。ヒアリングをすると「イメージが湧かない」という声は完全に想定外だった。さらには、kintone導入の目的や必要性も伝わっておらず、そもそも自分たちの業務プロセスがどうつながっているかも理解されていない。齊藤さんは「これでは市民開発などできるはずがない」と腑に落ちた。

kintoneを“一度封印” 人と業務プロセスの整備から再出発

 この失敗を受け、齊藤さんらは経営層も巻き込んで議論を重ねた。その結果、「目の前の業務を整理する」ことから再出発をすることを決めた。

 「加えて、やるからには部分最適ではなく『全体最適』で整理しようと考えました。 部分最適ではExcelがアプリになるだけで、データはバラバラなまま。それではkintoneの効果が出にくいです」(齊藤さん)

 そして、チームはあえて、kintoneという言葉を封印。それは、現場に、業務を見直すことだけに集中してもらうためだった。

システムから人に集中すべく「禁tone」を発令

 最初に行ったのは「人材育成」である。これは、現場に業務の整理という“スタート位置”に立ってもらうための施策で、DXの目的を学んでもらう意識改革のプログラムを展開した。

 そして、本命となる業務の整備では、成功事例の創出のために、インパクトが最も大きい「人事の業務プロセス」にターゲットを絞り、現場と2人3脚で取り組んだ。入社から異動、退社までの人事の上流プロセスをkintone化できれば、後続のアプリでもデータ連携しやすくなるという狙いからだ。

 新たな業務フローの構築には、トヨタ生産方式で用いられる「Value Stream Mapping(VSM)」を採用した。「モノと情報の流れ」を1枚の図に落とし込む手法で、現状のプロセスを可視化すると共に、価値のない工程を特定できるのが特徴だ。

VSMに落とし込まれた人事の業務プロセス

 しかし、いざ実際の作業をVSMに落とし込むと、図が複雑になりすぎて誰も理解できない。そこで、「作業を目的単位でブロック化する」新たなレイヤーを追加し、全体を俯瞰できるよう工夫を凝らした。さらに、減らす・結合する・入れ替える・簡単化するという4つの視点で業務を見直すフレームワーク「ECRS(イクルス)」も活用して、業務フローを再構築していった。

レイヤー構造化+ブロック化で業務フローを整備

 そして、いよいよ封印していたkintoneの登場だ。整備した採用、人事、総務の業務フローを標準機能である「プロセス管理」でつなぎ、データはすべてkintoneに集約。プラグインである「krewData」でデータを自動連携させつつ、標準機能の「レコード条件通知」でその連携を自動通知する仕組みも実装した。

 こうして全体最適されたkintoneによる人事データベースが出来上がった。

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事