業務を変えるkintoneユーザー事例 第313回
メール・電話・FAXからkintoneへ移行するも利用は一部だけ
「kintoneならできるかな」が合言葉に 「改善提案コンテスト」で116件の改善提案、3494時間削減
2026年06月24日 10時00分更新
メールと電話とFAXがコミュニケーションの主体で、年間休日も少ない環境を改善しようとkintoneを導入したものの数人が使うだけ。通常の情報システム業務をこなしながら全社員に活用を拡大する体力がなかった係長は、社長肝いりのコンテストにその活路を見出した。
kintone hive 2026 sapporoのトップバッターとして登壇したのは、住まいに関わる幅広い事業を手がけるクロスティホールディングス デジタル推進部の大村優輝さん。「現場の全員が何かを作れるところにkintoneの魅力がある」と語る柳井さんは、改善提案コンテストをきっかけにkintoneを全社員に広げた方法を語った。
年間休日96日の建設会社で進めたIT化、kintone全社展開には「体力」が足りなかった
クロスティホールディングスは、電気・空調・水道・ボイラーのメンテナンスから不動産まで、住まいに関わる幅広い事業を手がけるグループ。1979年に東弘産業として創業し、2021年にホールディングス体制へ移行した。大村さんは札幌のIT企業を経て、「DXで建設業界を変えてみないか」という誘いを受けて入社。情報システムからアプリ導入、社内イベントの運営まで担う、デジタル推進部のなんでも屋として業務改善に取り組んでいる。
2021年までは、メールと電話とFAXが主なコミュニケーション手段だったそう。年間休日も96日と、土曜日が休みなのは月に2回という働き方だった。そんな中、大村さんが入社し、立ち上がったばかりのデジタル推進部に配属された。まずは、LINE WORKSの導入やPC環境の整備から着手していった。中小企業ゆえに予算をかけてシステム開発を委託するのは難しく、PowerAppsなどのローコードツールを使い、コストをかけずに内製開発を進めた。ただ、このままでは保守が不安だという思いは消えなかった。
そこで見つけたのが、現場主体の市民開発ができ、カスタマイズの自由度も高いkintoneだった。国内にコミュニティが多く、フリーランスを含め開発できる人材が市場に数多くいる点も、安心材料になったという。工事の進捗管理アプリや案件管理アプリを少しずつ作っていったが、利用は6名ほどにとどまっていた。全員が現場で何かを作れる市民開発こそkintoneの魅力だと感じていた大村さんには、まだまだ物足りなかった。
「現場の全員が何かを作れるところにkintoneの魅力があるので、本当は全社員に使ってもらいたい。ただ、情シス業務や内製アプリの保守をしながら全員に広げる体力は、なかなかありませんでした」(大村さん)
社長肝いりの「改善提案コンテスト」を、kintone全社展開の追い風に
転機は社長の一言だった。方針発表の場で、社長が「改善提案コンテストを開催する」と宣言したのだ。コンテストであれば、デジタル推進部がヒアリングして回らなくても、グループ全社からアイデアが集まってくる。それに便乗してkintoneアプリを量産すれば、一気に全社展開できるのではないかと考えた大村さんは社長に「一緒にやらせてください」と直談判。快諾を得て、2025年2月にプロジェクトがスタートした。
翌3月にはサイボウズへ相談。改善提案コンテストというわかりやすいきっかけを得たことで、社長を交えたウェブ会議や、サイボウズが掲げるチームワーク強化の理念の共有まで、踏み込んだ連携が一気に動き出した。
「コンテストが開催されるのは4月から10月までの半年間でした。この半年間の勝負で大事にしたのは、改善提案コンテストをkintoneの力で成功に導くこと、もうひとつがコンテストが終了する前に費用対効果を作り出すことです」(大村さん)
まずはコンテストの「会場」としてkintoneを使うことにし、最初に改善自己診断アプリを用意した。アンケート形式で、まずは全員に一度ログインしてもらう状況を作り、「ログインしたことがある」という経験をしてもらうことが、最初の壁を越える鍵だと考えたからだ。新しいものへの抵抗感を意識させないよう、入り口は使い慣れた社内ポータルサイトに置き、シングルサインオンを設定して、ポータルから自然にkintoneへ入れるようにした。
非エンジニアがChatGPTで磨いた材料発注アプリ、年間3494時間を削減
費用対効果づくりで最も効いたのが、材料の発注アプリだった。以前は、材料の発注を紙で運用しており、連番を紙に書き、発注書として作成して綴っていた。そのため、1年も経たないうちに段ボールがいっぱいになり、倉庫に積み上がっていたそう。
これがkintoneでレコードに置き変わった。発注後の検索も、紙をめくる作業からボタン一つに置き換わり、発注側はもちろん、受注するグループ内の材料商社も同じデータを確認し、材料手配を進められるようになった。複数の拠点をまたいで使うだけでなく、グループ内の材料商社にも使ってもらい、会社と拠点を横断するアプリとなったのだ。
当初は現場から、もっと使いやすくしてほしい、との声も上がったが、非エンジニア社員がAIを活用してカスタマイズした。ちょうど生成AIが台頭し始めた時期で、主に使ったのはChatGPTだった。
「AIに渡す情報は、フィールドの内容と、この画面でこうしたいという程度でかまいません。最初はそのくらいシンプルに考えたほうが、うまくいきます」(大村さん)
効果は利用者91名で、一人あたり月3.2時間の削減、年間にすると3494時間にのぼり、これまで作ったアプリのなかで最大の成果となった。
「kintoneならできるかな」が合言葉に、半年で根づいた改善の文化
コンテストでアイデアを出し続けるために開いたのが「もやもや共有ワークショップ」だ。日々の業務で感じたもやもやを持ち寄って共有し、アイデアへと昇華させ、提案コンテストにつなげていく流れを作った。サイボウズの社員も参加し、グループ各社から人を集めて部署を越えて交流したのだ。
社長に参加してもらったのも功を奏した。終了後のアンケートには「社長に聞いてもらえたのが嬉しかった」という声が多く寄せられたという。
提案の入力もkintoneのアプリで行い、パネル状の表示にカスタマイズした。最終的に集まった提案は116件。社長賞を21件用意し、商品券やカタログギフトを贈った。もちろん、出てきたアイデアはそのままにせず、形にしていった。社員食堂がないという課題には、冷蔵庫を設置して100円のおかずを販売する運用を始め、社員自らがデザインしたリサイクルボックスも作った。
現在、全社員270名に対して、ライセンス数は140にまで増えている。年間休日も96日だったところから、120日まで増えた。大村さんが手応えを感じているのは、数字よりも空気の変化だという。
「「kintoneならできるかな」という相談が、本当に増えました。出しても実現しないという空気から、アイデアを出せば何か動くかもしれないという空気へ、少しずつ変わってきた手応えがあります」(大村さん)
もちろん、もっと市民開発を進めたいという思いもあるし、サポートしきれなかった社員もいたそう。それでも、kintoneを活用し、相談できる基盤を整え、アイデアが形になり始めたのは大きな導入効果と言える。
質疑応答
サイボウズ山本さん:いきなり紙の業務からkintoneへの入力に変わったわけですが、現場に戸惑いはありませんでしたか。戸惑いがないように工夫された点があれば教えてください。
大村さん:このアプリは内勤メンバーが中心になって担当してくれました。毎週のように打ち合わせを重ね、足りないところはないかという聞き取りを繰り返し、効果の測定も少しずつ進めてくれたんです。身近なところから緻密に進めてくれたことが、障壁を小さくできた一因だと思っています。
サイボウズ山本さん:もやもや共有ワークショップを実施したことで、社員の意識に変化はありましたか。
大村さん:部署をまたいで実施したので、もやもやしていたのは自分の部署だけではなかったと気づいたり、部署同士をつなげれば解決できるという提案が出たりと、変化が表れてきました。kintoneが課題解決の最初の引き出しに入った感覚があるのが、私自身、いちばん大きいです。
サイボウズ山本さん:ワークショップには社長も参加されたとのことですが、社長からはどのようなコメントがありましたか。
大村さん:社員の話を聞いて、「そんなところに悩んでいたんだね」「もっと言ったほうがいいよ」と声をかけてくれました。私自身も、デジタル推進部としてウェブ会議の準備などを陰で担っているというもやもやを話したところ、「それなら、みんなができるようにしようよ」と言ってもらえたんです。社長に気づいてもらえたことは、一社員としてもすごく嬉しかったですね。
サイボウズ山本さん:ユーザー数が過半数を超え、270人を目指す土台ができました。今後構想されている「全社員で使いたいkintone」とは、どんな姿でしょうか。
大村さん:これまではデジタル推進部が作って使ってもらうことが多く、グループ各社にまで手が回っていませんでした。今期からは、デジタル推進部のメンバーが一社一社ヒアリングをして、一緒にアプリを作っていきます。最終的には、必要なマスターをグループ全体で共有し、シナジーを生むアプリケーションを作ることを目指しています。
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