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データセンターの見えるまちで

2026年08月15日 10時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII イラスト●まふにゃん

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騒音も、煙突もない でもなんとなく不気味なデータセンター

 またトラックが入ってきた。今日は特別な機材の設置でもあるのだろうか。校門のような大きな門がガラガラと開き、トラックは建物の中に入っていく。

 私が住んでいるのは、データセンターのあるまちだ。ベランダから外を眺めると、戸建てやマンションの合間から巨大なデータセンターが見え隠れする。夜になると家々の明かりの合間からブラックホールのように漆黒に包まれた一角が現れる。あれがデータセンターだ。よそのまちからうちに来る友人たちは「ここの風景、ちょっと不思議よね」と口を揃える。

 データセンターとは不思議な建物だ。窓のない工場のような建物にヘビのようにダクトが巻き付いている。周囲は高い壁に囲まれ、商業ビルでしか見ないような大きな空調機が屋上や敷地に所狭しと並んでいる。建物の高さも5〜6階くらいで、近くから見ると、正直かなり威圧感がある。

 ただ、工場と違って、データセンターは静かだ。煙を吹き上げる煙突もなければ、騒音で悩まされることもない。一方で、人の出入りがないので、なんとなく不気味ではある。データセンターで働いている人が知り合いにいないので、なにをやっているのかもわからない。近所の住民にとって、よくわからない巨大な建物。それがデータセンターだ。

まちなかの空き地に建てられる巨大な建物が地元を潤している

 このまちは首都圏のベッドタウンとして大規模な造成が行なわれた、いわゆるニュータウンである。「子育て世代でも一戸建てが買える」「自然豊かな環境で子育てができる」「都内直結の電車も新設され、通勤も意外と楽」。そんな謳い文句に誘われて、今から10年前、長男の出産を機に都内からこのまちに引っ越してきた。

 ニュータウンというだけあって、きれいなまちだった。自然も多く、周りも同じような家族ばかりだったので、子育てに向いているまちだと思った。都内の会社に勤務する夫は「電車の運賃がやたら高い」と語っていたが、基本的には朝のラッシュにもまれることもなく通勤していた。引っ越して3年後、駅前に待望のショッピングモールができて、「自動車でいろいろな店に行かないと、欲しいものがそろわない」という買い物の不満も解消された。

 一方で、まちなかの空き地に大きな建物がポコポコ建つのには違和感を感じていた。これがデータセンターという建物であることは、市の広報誌で知った。AIを動かしているコンピューターが常時稼働しているという。ITに詳しくない夫は「昔、計算機センターって言ってたやつじゃないかな」と適当なコメントしていたが、なぜそんな施設が必要なのかは正直よくわからなかった。

 ただ、データセンターのおかげで市の財政が豊かであることはわかった。どうやらデータセンターに設置された機材は高価なものばかりで、固定資産税が市の財政を潤しているらしい。実際、市の施設はかなり新しいし、子育て支援でいろいろな補助金も出る。友人に聞くと、「そんな補助金が出るんだ」と驚かれる。

駅前のデータセンターに、まちはザワザワし始める

 最近、問題になっているのは、駅前のデータセンター計画だ。駅からほど近いショッピングモールとマンションの間にある敷地で、長らく駐車場になっていた。ある日、フェンスが建てられ、データセンターになることがわかった。

 マンションの管理組合長は、「あんな駅前にデータセンターが建つなんて、おかしいだろう!」と先日の総会でかなり怒っていたらしい。確かにこれまで市内のデータセンターは駅からやや離れたところに群生するように建てられていたので、まちの風景ではあったが、迷惑な施設という印象はなかった。しかし、今度できるデータセンターは、生活圏のど真ん中にできる。住民としてはかなり違和感がある。

 建設反対を掲げる人たちは駅前でビラ配りをしている。マンション内で反対運動に参加する人もいる。ただ、個人的にはかなり微妙な気持ちだ。確かに「イカつい建物」ではあるが、迷惑な施設かというとそういうわけではない。駅前の空き地がずっと駐車場として使われているのもどうかと思うが、新たにショッピングモールを建てても、混むとは思えない。しかも、データセンターのおかげで、子育て支援が実現されているのであれば、その恩恵は子育て世代のわれわれも受けている。

 そんな私は、お母さん同士が駅前のデータセンターの話をするたびに、なんとなく会話を避けてしまう。最近、建設反対運動の人たちは許可を出した市を提訴したそうだ。穏やかだったまちは、にわかにザワザワしつつある。あの巨大な建物とわれわれはうまく共生していけるのだろうか? ベランダに出るたびにため息が出る。

※すべてフィクションです。

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