業務を変えるkintoneユーザー事例 第311回
愚痴って、プロに相談して、泥臭く議論 そして全員で育てるシステムに
岸和田のおかんが語るkintoneの育て方 大事なのは「忍耐と根気」「現場の声」、そして「母心」
2026年06月04日 07時00分更新
ボスとの二人三脚で生まれた「管理番号」
kintone導入・運用が2人になった高洋商会。2人は業務を棲み分けることにする。芳井さんは高洋kintoneのボスとして、システム全体の設計と構築の責任者となり、天堀さんは現場の相談窓口となる。何気ない会話や相談から現場のニーズを吸い上げ、アプリの改善課題を見つけるのが役割だ。
とはいえ、高洋商会の営業マンは多忙を極める。「図面は書かないといけない。見積りも作らないといけない。営業や打ち合わせも多いし、資料も作らなきゃいけない。『これ以上、なにもさせんといて』と言われてしまったんです」と稲田さんは愚痴る。
とはいえ、会社の将来を考えると、データの蓄積や活用は絶対に必要。そこで芳井さんは「登録してもらう」のではなく、「登録せざるを得ない」という仕組みを構築していく。具体的には、「kintone上に管理番号がなければ製造しない」という体制の導入だ。「管理番号は案件管理によって初めてできます。そこで営業が製造を依頼するときに、管理番号がなければ作りませんというルールにしました」(天堀さん)。
社長の鶴の一声でルールが徹底され、高洋商会ではすべての製造品で番号による管理が可能になった。その結果、稲田さんの所属する営業部では「ここになに入れたらいいの?」といった質問が出るようになった。営業部以外の製造部でもkintoneへの興味が湧き出してきた。「こんな感じで見える」「全体見えるってこんな感じなんや」といった声が少しずつ出るようになったのだ。
調子に乗って作ったのは、kintoneによる「出荷カレンダー」だ。「今まで全体の出荷カレンダーがなかった。製造現場で管理できてなかったところを少しずつ管理するようになった」と天堀さんは説明する。こうした施策の結果、社内に「kintone、使えるんちゃうか?」という雰囲気が出てきたという。
ユーザーにお願いしない 自分の言葉で使えるように
こうした雰囲気の中、2024年3月に社内業務を一気通貫する「ONE高洋システム計画」が2024年3月に立ち上がり、kintoneアプリを大幅にリニューアルするにした。社内の業務の全体像を把握すべく、天堀さんはヒアリングに明け暮れる。そして、聞き込んだ内容は付箋に書き込み、カレンダーの裏に貼り付ける。
「主婦はなにも無駄にしません。SDGsです(笑)」(稲田さん)
「もちろんです。システム、システム言うてますけど、考えるときはカレンダーの裏が一番です(笑)」(天堀さん)
「昭和大好き。紙大好きです」(稲田さん)
こうした努力と試行錯誤の結果、社員みんながkintoneにログインするようになった。しかし、問題が次々起こるのが、高洋商会。第3の壁として「品目名バラバラ問題」が発生する。
これまで高洋商会には、社内では統一した品目名がなかった。たとえば、ベニア板を曲げて製造する製品には「曲げベニヤ」「ベンド単体」「Rベニヤ」「アールベニヤ」などのさまざまな呼称があったという。
しかし、仕組みを重んじるボスの芳井さんは「品目名を統一してほしい」というお願いはしなかった。「統一品目名」を導入しつつ、それぞれが普段使用している呼び名を「通称名」としてkintoneにまとめて登録し、これらをキーとして、品目番号と統一品目名を取得できるように検索システムを構築したのだ。
稲田さんは、「南大阪のあくの強い人間、ここにこの名前入れてくださいと言っても、絶対入れてくれません。でも、自分の使ってる言葉を入れることで、ストレスフリーになりましたよね」と振り返る。その代償として「どれほど、あんねん。ありすぎ」(天堀さん)というくらい通称名集めは難航したが、普段自分が使用している呼び名を変更しないで済み、kintone活用は加速したという。
システム主導から現場主導へ 現場の声を聞いて泥臭く議論する
kintone活用は加速したが、活用が進んだが故に、課題も続出した。しかし、これはいわば成長痛。そこで、課題を解決すべく、今まで企画部主導でやってきたkintone活用を現場主導に大きく変換し、kintone活用の「自分ごと化」を促すようにした。具体的には各部門長に高洋kintoneの活用促進、要件・業務運用の方法の決定を任せ、企画部は全体構想とサポート・開発に徹するようにしたのだ。
両者で議論してまず作ったのが、品目管理アプリだ。以降は、企画部と現場部門で何度も議論を重ね、基幹アプリを構築していく。2025年9月には仕入れ、10月には受注、12月には製造・配送、2026年5月には請求・入出金などのアプリが構築され、今までExcelでやっていた作業がクリックだけで済むようになった。
現在、高洋kintoneには数多くのアプリがあるが、社員の声からできたアプリも多いという。「kintoneをよくしたいと思うようになったのは成長です。kintoneへの愛が大きくなっている。これは強い推進力になっている」と天堀さん。「今では全員でkintoneを育てています」と稲田さんもコメントする。今後は生産管理や原価管理にも着手していくという。
kintone導入の定量成果は、年間300万円の経費削減、資料作成時間の90%削減、そして52業務のアプリ化となった。定性成果も大きかった。kintone活用の要望が自然と出て、周囲にチャレンジを促す存在に成長したり、前向きな風土が根付いたり、kintoneが部門を超えた組織の共通の言語になったりした。組織自体がチャレンジと議論をしやすい環境に変化したのだ。
「現場の声は本当に大事です!」と天堀さん。現場は自分ごととして泥臭く考えることで、定着が進み、自走へと結びつく。一方、システム部門は全体設計を進めると、共に、現場に寄り添いながら、伴走する。そして両者は現場とシステムの落とし所を妥協せず考え抜く。これが高洋商会kintone導入、成功の方程式だという。
「これからも高洋商会は現場の声がカタチになり、カタチが組織を強くする世界を目指して、従業員も成長していきたいと思います」とまとめた2人。kintoneの導入・運用を子育てに例える稲田さんは、「大事なのは『忍耐と根気』」と答える。情報の入れ物に過ぎなかったkintoneを、会社のシステムにまで育て上げた岸和田のおかんたちのしゃべくりに、会場全体が魅了されていた。
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