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遠藤諭のプログラミング+日記 第204回

ソフトウェア開発・言語の1年にわたるベストセラーの著者はいまなにを考えているか?

Geminiにタイ移住を命じられた――100日チャレンジからAI駆動生活へ、大塚あみさんインタビュー

2026年02月03日 09時00分更新

文● 遠藤諭

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大塚あみさん。前回の取材から1年、彼女の実験は「プログラム」から「人生」にスケールした。

AIの進化の予測は40年の誤差で現実のものとなった

 1960年代、最初にAIが注目された《第一次AIブーム》と呼ばれた時代、研究者のAIの進化に関する見方には楽観的なものがあった。「20年以内に人間ができるあらゆる仕事を機械ができるようになるだろう」(1965年:ノーベル賞・チューリング受賞者のハーバート・サイモン)、「1世代以内に『人工知能』の作成の問題は実質的に解決されるだろう」(1967年:人工知能の父ことマービン・ミンスキー)などだ。

 それらの推測は大きく外れたと言われてきたが、40年ほどの誤差はあったものの2026年のいまリアリティを持ち始めている。1月にダボス会議でイーロン・マスク氏らが「今年末から来年(2026年末~2027年)にかけてAIが個々の人間より賢くなる」といった発言をしたが、的外れだと言う人も少ない。AIは、この1年の間で大幅に進化したという印象ではなかろうか。

 1年前、『# 100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった』の著者である大塚あみさんにインタビューさせてもらった(「女子大生が100日連続で生成AIで100本のプログラムを書いたらどうなったか?」)。

 彼女の本は、刊行されて1年を経過した現在もアマゾンで検索すると《ベストセラー》のタグがついている。この記事を書いている2026年1月時点でも、「ソフトウェア開発・言語」で1位、「開発技法」2位、「プログラミング (Kindleストア)」2位だ。この1年で最も売れたIT関連本の1冊なのは間違いない。

 この本の企画がスタートしたときの発行元である日経BPの担当者Tさんの言葉が記憶に残っている。「この本は、後年、生成AIがきたいまのタイミングで人々が何をやったかの“記録”になるんじゃないか」というのだった。

 それでは、本を書いた後の大塚さんはAIをどう捉え、どのように活用しているのか。AIが人間と同等の知的作業をこなすAGI(汎用人工知能)がカウントダウンの段階に入ったとする意見もあるいま。人生を変えるほどAIを使い込んだ彼女は、こんどはどんな“記録”を残してくれそうなのか――その答えを聞くべく、インタビューさせてもらった。

「Woman in Tech 30」に選ばれた理由

―― 『Forbes Japan』で「Woman in Tech 30」に選ばれて掲載されていますね。おめでとうございます(『Forbes Japan』2026年3月号掲載:テクノロジー分野で活躍あるいは活躍が期待される女性30人を選出したもの)。

「ありがとうございます」

―― なかなかテクノロジー領域でこういう企画はないから貴重なものですね。どういう趣旨で、どういう内容なんですか?

「ちょっと調べますね」

―― 調べる(笑)。

「いきなりメールが来て、選んだ方がかなり偉い人がたくさん載ってたんですよ。本が出たとき見ればわかるかなと思いました」

―― 記事を見ると、「現在は、AIを自分の意思決定のプロセスに組み込む実験的ライフスタイルをSNSで発信中。技術を単なるツールではなく、人間の生き方をアップデートするパートナーとしてとらえ直す、次世代のクリエイター像を体現している」とありますね。今日、お聞きしたいと思っていたことかもしれません。若い人がもらう賞ではないんですかね。

「そうですね、周りは30代とか40代の人ばかりみたいです」

―― それで、この1年間はどうされていたということですか?

「本を出したあとは、ハッカソンで勝ったりとか、いろんなことがあったんですけど、まあでも『Forbes』で評価されたのは技術力や何かの業績といったことではなくて、テクノロジーを使って既成概念をどれだけ破壊したかっていう、態度とか、そういうものかなと思ってます」

―― 既成概念を変えた態度。

「はい」

―― 既成概念を変えた。このあとうかがっていきましょう。

AIとソフトウェア開発、そしていまの取り組み。大塚さんのこの1年の取り組みを中心にお話を聞いた(左は筆者)。

2025年にいちばん売れたと思われるIT本への2種類の反応とは

―― 『# 100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった』という本は、あらためていうとどういう本ですか?

「まあ、私は、落ちこぼれの大学生だったんですけど、授業で生成AIに出会った。それで、生成AIを使って宿題をサボろうとしたところ、先生に認められたり、毎日1本ずつ100日間続けてプログラムを書くことになったり。最終的に、文系大卒なのにエンジニアになった。スペインの学会に連れて行かれて発表したりとか、そんな感じのストーリーです」

―― すがやみつるさんが「『成瀬は天下を取りにいく』にも似て、実に爽快な一冊だった」と書かれていたのが印象的です。一般の読者の反応はどうだったのですか?

「同世代の賢い子たちからは“チートコード”というか、なんか攻略本みたいな扱いをしてくれましたね」

―― “チートコード”! 大塚さんはゲームを結構やっていたんでしたね。AIの使い方ってことですか? それとも、生き方みたいな?

「どっちもですね。プログラミングの勉強の仕方としても新しかったし、一方で、学会で評価されるとかにしても、どれにしても通常の評価のされ方とはちょっと違ったわけです」

―― AIを使った新しい生き方を示した。

「一方で、上の世代の方々からは、“このぐらいちゃんと努力したほうがいい”という反応もありました。プログラミングの学習をするにあたり、始めた動機が大学の課題をサボるためとはいえ、膨大な時間を捧げて勉強したことですね。“今の時代の若者は、このぐらい勉強しないとダメだ”みたいな反応もたくさんありました」

―― 100日間のチャレンジの努力が素晴らしいと。

「そうです」

―― それはそれでいいんじゃないですかね。AIが引っ張ってくれてそれができたという点では、新しいメソッドを提供したわけです。

「ですかね」

―― 特にこんなことが起きたとかありませんか?

「100日間何かにチャレンジして、続けている様子を私と同じようにXなどに投稿する人が見られるようになりました。1年を通じて誰かしらやってますね」

―― どんな感じですか?

「いつも5人ぐらいがその様子をポストしていて、そのうち2から3人ぐらいは挫折してますけど。これが、内容によらず挫折するんですね。noteを書くとか、プログラムを書くとか、いろんなことやってる方がいますけど、《100日チャレンジ》の挫折率は、基本的に内容によらないに思います」

―― 1時間ぐらいでできることでも、10時間かかることでも、挫折率は大体一緒ぐらい。

「あっ、かける時間が長いほうが挫折率が低い傾向にある気がします。どちらかというと、1日あたり時間をかけてる人のほうが挫折率が低いですね」

―― なんとそうなんだ。継続するのが大変なチャレンジほど継続する。

「ChatGPTに任せてサボるのは自由だが、成果に責任を持て」と大塚さんはnoteで書いている。AIの出力そのままではうまくいかないが、自分が関わることでそれ以上の答えになることも多い。こう考えるだけでAIの見え方は変わってくる。(イラスト:ChatGPT+nano banana+Lanczos補間+手加工)

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