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プラットフォーム学~先端事例から学ぶ、社会実装の現在点

ウェルビーイング時代の経営デザイン 時代の変遷と知財がもたらすこれからの戦略

2026年03月02日 17時00分更新

文● ASCII

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昭和~令和、社会課題と知財の役割の変化

 続いて小林氏から語られたのは、知財と社会課題の変化を結びつけ、昭和から平成、令和へと時代が移り変わる中で変遷してきた企業活動と知財の役割の変化だ。そこで重要になるのはバックキャストの発想だという。バックキャストと対になる概念がフォアキャストであり、どちらも将来を予測し、その将来に向けた戦略を決めていく際の考え方や姿勢と言える。

 フォアキャストは一般的な企業でこれまで多く用いられてきた方法で、過去のデータや現在の市場動向を分析し、将来の計画を立てていくアプローチである。一方、バックキャスト型は企業や組織における将来のあるべき姿やありたい姿、社会に対して提供する価値をゴールとして最初に設定し、そのゴールから逆算する形で、何に投資し、どのような知財や技術を蓄積していくかなど、いますべきことを決定していくアプローチだ。中長期の戦略など比較的足の長いスパンで戦略を策定する場合や、変化が激しく不透明性が強い市場において企業や組織のあるべき姿を考える際には、従来のやり方が正解であるかはわからない。そのため、従来の延長線で物事を考えるフォアキャスト型の戦略では不十分なケースもあり、中長期の視点に立ったバックキャスト型の戦略設計の重要性が高まるということだ。

 中長期的な視点に立った際、知財も単なる権利取得の話ではなく、将来の事業やビジネスモデルを支える基盤であり、競争力の源泉として捉える必要が出てくる。バックキャストの視点では特許などの知財を取ることが目的なのではなく、その知財がどのような役割を果たし、どのように事業や社会実装につながっていくのかを、あらかじめ描いておくことが求められるということだ。知財は守りの道具ではなく、将来像を実現するための戦略的な資産として、ビジネスモデルの中に組み込まれる必要があると小林氏はコメントしていた。

 こうした考え方は「昭和の知財の基本は守るためのものでした。平成になると競争に勝つための道具になって、令和の今は社会をどう設計するかの話になってきている」「特許を取ったらビジネスが守れる魔法の盾みたいに思われがちですが、それは幻想です。数件の特許でビジネスを独占できるなんて、現実的にはありえない」といった言葉からもうかがい知ることができる。

昭和~令和の社会課題と知財の遷移

 同時に小林氏が指摘したのは、昭和・平成・令和と時代が進む中で、企業や組織が取り組むべきものはより複雑になってきているということだ。昭和の時代は、社会全体が比較的シンプルな課題構造を持っていた。市場は拡大局面にあり、「どう規模を拡大するか」「どれだけ多くの量を作れるか」「どうすれば効率的なオペレーションになるか」など、比較的わかりやすい課題を解決すればよかった。つまり、一定の品質を満たした製品を、安く大量に供給することができれば、事業として成立し、誰もが豊かになれる時代だった。そこでは工場や設備といった有形資産が競争力の中心であり、知財が技術を守るための道具として機能し、それを補完する存在であったという。

 平成の時代になると、取り組むべき課題は一気に複雑化した。ニーズが多様化し、それに応じて社会課題も一律には解決できないものとなった。製品やサービスに求められる価値は単一ではなくなり、利便性や機能性だけでなく、デザインや体験といった要素も求められるようになった。企業は市場や顧客を分析し、「選択と集中」によって経営資源をどこに投下するかを判断し、知財は競争優位を確保するための戦略的要素となっていたと分析する。

 令和の時代にわれわれが取り組む課題は、これまでの時代とは大きく異なる厄介なものになっている。経済的価値と社会的価値を同時に実現することが要請されており、正解のない問題に向き合う必要が生じているという。例えば、グローバル化による効率追求と、国内生産を重視する経済安全保障の議論はトレードオフの関係にあり、どちらか一方を選べば済む話ではない。その間で最適解を探り続けなければならない。同時に企業や組織も売上や利益といった経済的価値だけでなく、社会的価値を提供できなければ、存続できない状況になりつつある。

 このような時代の変遷の中で、知財の役割も大きく変化している。小林氏は、知財を「技術を守るための権利」や「競争相手を排除するための手段」として捉えるだけでは不十分で、社会に提供する価値を定め、どのようなルールの中でビジネスを成立させるのかを設計するための要素になっているとする。知財は社会課題の解決と切り離せない存在になりつつあるのだという。

ウェルビーイング時代の知財戦略と経営デザイン

 こうした社会的価値を示す言葉の一つにサステナビリティがある。現在、持続可能な社会の実現を目指すSDGsが国連によって定められているが、その目標である2030年はわずか数年後に迫っている。国連では2030年以降の新たな目標を定める議論が始まっており、その最有力候補として挙げられることが多いのが「SWG(Sustainable Well-being Goals)」だ。Wはウェルビーイング(Well-being)を示し、単に経済的に豊かであるということではなく、身体的な健康、精神的な満足、そして社会的に満たされた状態が重なり合って成立する。小林氏は、環境負荷を減らすだけでなく、自然にとってプラスになる「ネイチャーポジティブ」や、単なるリサイクルではなく循環そのものを設計する発想など、これからの社会が直面する課題は、従来よりもはるかに難度が高いと指摘した。そして、これからの知財は機能の良さや利便性だけではなく、ウェルビーイングにどう影響するかを抜きには語れないとした。

 「これからの知財は機能が良いとか便利だとか、それだけではもう差別化ができず、人がどれだけ幸せになるのか、そこまで考えないと価値になりません。しかしウェルビーイングは指標化がすごく難しい。でも難しいからこそ、グローバルで目標を掲げて、みんなで考え続けるしかない」(小林氏)

ウェルビーイングに対する企業の動き

学生からの質問:ウェルビーイングはすごく大事だと思うのですが、企業がウェルビーイングを追求することは利益と反する部分があると考えます。現状、どのくらいウェルビーイングを追求する動きがあるのかと、それに対しどう評価されていますか?

小林氏:いま、どの会社の統合報告書などを見ても、我々の会社はSDGsの17のアジェンダのうち、これとこれとこれに力を入れていますというように書かれています。ではウェルビーイングという考え方をどれくらい取り入れているかというと、それほど明示されていません。しかし、単純に体が健康なだけでは人間って実は幸せじゃないよねということはもうわかってきているので、その先にあるものをどう考えて、どう向かっているのかを考えている企業は多いです。しかし、ウェルビーイングという視点で考えている企業はまだ十分でないと思います。

いろいろな技術や解決方法ができても、機能以外でお客さんを満足させること、社会課題を解決させることのどこに価値観を置くか。内面的な感情、心情、情緒的な部分に重きを置かざるを得ない。それは人の体と心と、それから社会、その要素が揃わないと達成できないので、その価値観を変えていくことが重要です。

例えばガンが治ったら幸せだけど、ではどのくらい幸せなのか。病気が治って生き長らえたけれど、社会的には活躍できませんというような状態であったら、それは本当にその人にとって幸せなのか。奥深い哲学的な部分まで入ってしまいます。

研究者の方々には課題を解決という部分だけでなく、それをどう社会実装するのか、社会実装をした後に人々がどう受け止めて、どう社会が変わっていくのかというところまで、想定してもらいたいし、そうすることで研究者の活躍の場が変わって広がるのかなと思っています。

 「経営デザインシート」は価値を生み出す仕組みとして経営をとらえ、将来のありたい姿と、そこに至るまでの戦略を可視化するための枠組みだ。企業戦略を決定していく上で、その考え方を整理するためのツールであり、小林氏自身が内閣府の検討に関わったものでもある。

経営デザインシートは企業戦略を考える上での思考補助ツール

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