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新清士の「メタバース・プレゼンス」 第127回

「Sora 2」は何がすごい? 著作権問題も含めて整理

2025年10月13日 07時00分更新

文● 新清士

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“人気キャラそっくり”著作権問題が物議

 一方で、大きな物議を醸したのが著作権問題です。

 リリース直後に、「進撃の巨人」や「ドラゴンボール」、「デスノート」などのアニメを再現した動画がSNSに多数投稿され、大きくバズりました。ドラゴンボールの孫悟空が株取引やパチンコをしていたり、ピカチュウが法廷でバトルをしたり、「スタジオジブリ最新作」と書いてある動画が共有されている状態でした。エヴァンゲリオン初号機にサム・アルトマンCEOが乗っている動画も出ていました。驚くべきことに、そのキャラクターの声優の音声や音楽も、かなり似た雰囲気を保持して再現されていました

 サービス開始直後、OpenAIは「事後的オプトアウト」を主張しました。それは、権利者が明示的に除外申請(オプトアウト)しない限り、そのIP(キャラクターや作品)が生成に使われ得るというものでした。実務的に「紛争フォーム/ブロック依頼を出せば個別対応する」方式で、包括的な一括拒否や「最初から生成不可(オプトイン)」ではありませんでした。そのために1日から3日にかけて、著名IP・過激表現の動画が拡散することになり、権利者からの反発を受けることになりました。

 一方で、専門家からは、その状態は著作権侵害に当たるのではないかとの可能性の指摘が相次ぎました。

 著作権の専門家でもある慶応大学大学院の奥邨弘司教授は、「事実関係次第だけど、①出力表現に関する著作権侵害について、開発者・提供者は主体として責任を問われ、②学習に伴う複製等についても享受目的併存のため30条の4が適用されず(略)侵害責任を問われる可能性が高いのではないかな?」とXに投稿しました。

 著作権侵害訴訟として注目され、15億ドル(2230億円)の和解で決着したアンソロピック裁判の判決に触れて「学習対象著作物と共通・類似する表現が出力される(通貫現象がある)場合については、むしろ厳しい見方を示している」と説明し、OpenAIは現状の状態のままではアメリカでも著作権侵害となる可能性が高いという指摘をしています。そして、アメリカで損害賠償を求める裁判をすれば「第二のアンソロピック和解になるんじゃないか?」(奥邨氏)とも述べています。

 著作権の専門家でもある福井健策弁護士も、ユーザーが投稿した著作権侵害投稿をあとから権利者が見つけて申請して削除する方式が、多くのプラットフォームが採用してきた仕組みであることを説明しつつ、「今回の違いは、OpenAIは自ら既存の著作物を無許諾で複製し学習している点。それがアイデアばかりか表現まで類似する出力につながる場合、日米問わず、学習自体が侵害と認められやすい」とXで述べています。

 様々な日本の専門家からは、Sora 2がサービス直後の状態のままでは、OpenAIが「オプトアウト」を主張しようとも、その状態では、日米問わず著作権侵害に当たる可能性が高いと指摘されました。仮に、権利者によって、OpenAIに対して著作権侵害訴訟をした場合には、高額賠償が認められる可能性が高いと考えられる状態だったのです。

 その後、10月4日、サム・アルトマン氏はブログを通じて、方針転換を発表しました。「キャラクター生成において、権利保有者によりきめ細かな制御権を与えます」として、より制御をすることができるように、また、「収益の一部を、ユーザーにキャラクターを生成してほしい権利者と分配することを検討しています」として、利用を認めるキャラクターについては利益を分配する仕組みを作るというものです。

 その発表直後から、フィルタリングが厳しくなり有名IPのキャラクターを直接的に生成することは難しくなりました。

筆者が10月4日にSora2で意図的にキャラクター名を記入して、生成結果を検証したもの。ピカチュウ、ドラゴンボール、ガンダムと、数日前には通っていたプロンプトが通らなくなった

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