課題は「地味さ」とマネタイズの壁
ChatGPT、GeminiやGrokを使ったゲームの弱点は、テキストだけで地味であるという点、さらには、マネタイズの方法がほとんどないという点です。
すめらぎ店さんが開発している「エターナルハンド」は、LLMとパラメーター、さらには画像生成に音声合成まで組み合わせて生成AIでのゲーム体験を形作ろうとする意欲的な内容です。すでにBOOTHにて1000円の有料販売を始めています。ゲームでは4つのモードが選べるのですが、バトルモードやストーリーモードでは、自分が作成したキャラクターや最初から用意されたキャラクターを使って、ゲームを進めることができるのですが、基本シナリオ以外は、LLM生成による展開です。画像も生成され、雰囲気を盛り上げます。出てきたシナリオに対して、こちらがどのような行動をすべきかが入力し、パラメーターの影響を受けながらゲームが進んでいくという仕組みです。
ただし、プレイにはGoogle AI StudioのAPIキーの入力が必須で、また、入力から反応が戻ってくるまでには数十秒待たされ、それがなかなかのストレスです。まだUIがこなれていないこともあり、初心者には操作もわかりにくいと感じられます。またオンライン機能を使うには、2ヵ月目以降には月500円ほどかかるため継続のハードルは高そうに思えます。
LLMゲームはそれほど本格的なゲームはまだ登場していないのが実情です。ビジネスモデルの確立が難しいためです。現状はゲームユーザーのプレイ環境にローカルLLMまで組み込むことは現実的ではありません。そのため、クラウドサービスのLLMを呼び出せるように外部APIを使うのが普通です。しかし、それがSteamといったゲームプラットフォームにLLMゲームを登場させることを難しくしています。
Steamは公式ドキュメントで「あらゆるゲーム内購入はSteam Wallet(マイクロトランザクションAPI)を使用」と定め、外部決済へ誘導する設計は原則NGとしています。そのため外部API利用料を「別の月額(外部)で必須化する構造」は審査と衝突しやすいと理解するのが安全と考えられています。つまり、何かのLLMを月額課金で利用しているユーザーがその個人のAPIキーを使ってゲームをプレイすることを必須とすることが認められにくいということです。やるなら、Steamの継続課金、または、Steam内課金で構成する必要があります。
ゲーム会社側でAIの推論コストを負担することが、シンプルな仕組みにできるのですが、定額販売の買い切り型のゲームでは、プレイ時間が長くなるほどAI利用による推論コストが利益を圧迫し、赤字化リスクも生じます。月額でLLM利用ポイントを配布する方式も考えられますが、サービスの設計、利用枠管理や不正対策など運用ハードルがかなり上がります。
その結果、設計の可能性は広がっているものの、収益化の目処が立ちにくいため、現時点ではタイトル数は限定的でニッチにとどまる傾向があります。なお、ストア本文で外部サイトへ誘導するリンクは2024年以降さらに制限されており、表現面でも配慮が必要になっています。
Runwayが示す次世代AIゲームの姿
一方で、8月に動画生成AIサービスを提供してきた米Runwayが8月テキストアドベンチャーゲームを作れる新サービス「Runway Game Worlds」を開始しました。ゲームで使われるシナリオと画像をAIが作り、プレイできるというものです。現状の多くのLLMゲームが目標としているゲームの姿を垣間見ることができます。
サービス上にはあらかじめゲームブックのようなシナリオが用意されていて、ユーザーも自分でシナリオを作ることができます。たとえば、あらかじめ用意されているシナリオ「ガリアの嵐」では、ローマ軍に所属している主人公が、ユリウス・カエサルの遠征でともに戦い結果を出していながら、生き残ることを目指すシナリオです。もちろん、毎回展開は生成され結果が変わります。
AIがベースとなるゲームのシナリオを作っていて、それに合わせて漫画風のストーリーが展開され、一定進むと選択肢が現れるという形式になっています。それらの画像が自動生成されるのが、ゲームを楽しくします。もちろんパラメーターも存在しており、ローマ軍との戦いでは、残っている兵力が生命(Vitality)としてカウントされていきます。
そして、ゲームは「ダウンロード」を選ぶと、プレイしたゲームをビジュアルノベルとして保存して読めるようにもできます。すでにユーザー作成のシナリオも含め数十種類のゲームが登録されており、様々なゲームを楽しむことができます。
Runwayの主軸は動画ですが、計算コストが比較的安いテキストと画像を使ったサービスを提供してきたということでしょう。当然、自前でサーバーも課金システムも持っているために可能な展開とも言えます。
現状は無料で提供していますが、将来的には有償化して、生み出した物語から1本の映画のような動画も作れるようにするといった展開を考えているのではないかと思います。まだ英語でしかサービスが行われていないので、日本からは少しとっつきにくいのですが、いずれ多言語対応も進めてくることでしょう。

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