動作速度が速く省電力だが、微細化が困難なFRAM
次がFerroelectric memory、強誘電体メモリーと呼ばれるものだ。この市場、1984年に創業したRAMTRONという会社が最初に製品化。富士通にライセンス供与しFRAMという名称で発売された(ので、富士通以外のメーカーではFeRAMと呼ぶ)ほか、TIにもライセンスされて同社の製品で採用されている。
構造的にはDRAMに似ており、キャパシタに電荷を蓄えることで記憶するが、この際に強誘電体を利用するのがDRAMとの違いであり、また強誘電体を使うがゆえに電源を落としても記憶が消えない不揮発性メモリーとして動作する。
歴史が長いだけにさまざまな構造がすでに考案されているのだが、動作速度も速く、省電力で、既存のCMOSプロセスとの親和性も高いほか、不揮発性というメリットもあり、寿命も長い一方で、強誘電体を利用するがゆえに微細化が困難という欠点もある。要するにSTT-MRAMと非常に似たポジションにいるわけだ。
CiMをアナログで実装するACiMで1000TOPS/Wを目指す
以上のように今1つ適切なメモリーがない中で、なぜかSK Hynixが注目しているのがACiMである。
ベースとなるのはReRAMである。これも長い歴史を持つメモリーで、2010年ごろにはさまざまなメーカーが実用化を試みた。DRAM並みの速度で高密度化が可能、消費電力も少なく、必要なら多値化も可能な一方で、高密度化には向かないという欠点があった。そこでAnalog Computerと組みあわせよう、という話だ。
NAND Flashベースという違いはあるが、連載591回で紹介したMythicのAMPや、おそらくは連載677回で説明したAspinityのAnalogMLなどと同じ発想である。先にCiMの例を紹介したが、これをアナログで実装してしまおう、というアイディアである。
AMPやAnalogMLは高い性能/消費電力比を誇っているが、ACiMも同じように100TOPS/Wを超えて1000TOPS/Wを目指せるとしており、ただしまだこれを実現するためには課題が多いことも認めている。
結果として、今回紹介したどのメモリーも、"New Value Position"を満たすには十分とは言えない。それもあってか、最後にはヤケクソのように全部入りの提案がされているが、これ作るくらいなら先程触れたHBFを推進する方がはるかに現実的な気もする。
要するに、「必要性がある市場は存在するが、そこに適切な解を今の時点では提示できない」というのが現在のAI向けメモリー市場の現状というわけだ。

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