Backlog 20周年企画 チームワークとマネジメントを語り合う

Backlog20周年記念対談 経営者から見たチーム作りとは?

チーム作りの苦労を語ったサイボウズ青野氏とヌーラボ橋本氏の対談が本音過ぎた

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●永山亘

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離職率を下げるための定時退社や短時間勤務 こわごわやっていた

大谷:私の理解だと、サイボウズが多様性に本格的に向き合うきっかけになったのが、離職率の高さだったですよね。

青野:はい。2005年に僕が社長になったときの離職率は28%でした。だから、とにかく辞められないようにしようと思って、定時退社や短時間勤務とかの制度を導入しました。

橋本:なんか、すごく苦々しい表情ですけど(笑)。

青野:だって、当時はライブドアブームとかでIT業界が盛り上がっていた頃ですよ。その時代にIT企業に入って「残業はできないです」って、正直「うちの会社になにしに来たの?」という感じでしたから。

でも、当時はとにかく辞められないようにする必要があった。だから、定時退社や短時間勤務とかの制度を入れたんですが、そうしたらあんなに高かった離職率がすーっと下がって、「これでいいんだ」と思いました。多少、社員のわがままを聞いても組織は崩壊しないし、みんな活き活きと働いて定着してくれるんだというのが僕の成功体験ですね。

なにしろ4人に1人辞める会社だったのが、3年で離職率10%を切ったんです。だから、グローバル展開するなら、もっといろんな人を受け入れなければと思ったのが、多様性を重視する理由です。

橋本:ちょうどその施策で効果が出始めた頃に、青野さんに初めてお会いしたんです。その話をしていて、ちょっと青野さんが活き活きしていた印象あります。

青野:ドン底から抜け出したときです(笑)。

大谷:ただ、定時退社や短時間勤務って労働時間が減るわけで、社長としては怖くなかったんですか?

青野:こわごわやっていました。今でこそ人事制度的にフルリモートOKですが、最初の頃は週に1回でしたからね。副業もやるにはいろいろな条件がありました。でも、やり始めたら、けっこうやれた実績があって、少しずつ問題を解決したり、改良していった感じです。

たとえば、「100人100通りの働き方」というフレーズも、この1年くらいで問題になっていて、「僕の主張が通らない!」という意見も出てきたんです。

橋本:社員数が単純に100人以上だからじゃないですか(笑)。

大谷:まあ、本を出すとそのフレーズが一人歩きしますからね。別に社員のわがままがなんでも通るとか、社長やマネージャーが口出さないという話ではないと。

青野:そうですね。先ほど話したとおり、合理性があれば議論に乗るという話なので、「僕の給料、来年は倍にしてください」「出社はいやです」と言われても困ります。

いろいろと誤解して入ってくる方も多いので、最近は「100人100通りの働き方」は最近「100人100通りのマッチング」と言っています。要はマッチングが不成立なこともあり得るという点は、最近強調しています。

「SaaS is dead」怖い 生成AI時代の変化で「厳しさ」も体験しないと

大谷:ヌーラボも時短勤務や副業、リモートワークなど、社員満足度を高めるための組織作りをがんばっている印象あります。

橋本:そこはSaaSのサブスクリプションビジネスという形態に大いに助けられてきたというのが正直なところです。収益がストックで積み上がるモデルなので、全員が2週間休んでも、すぐに収支が大きく揺らぐわけではない。だからこそ時短勤務や副業も許容できる。逆に長期的に見てビジネスモデルに危ない兆候があると、それらが許容できなくなります。

青野:ヌーラボさんは最初からサブスクリプションモデルだったんですか?

橋本:そうですね。だから、「子供が熱を出したから、休みます」というような突発的な休みも許容できました。

青野:なるほど。僕らは最初パッケージの売り切りモデルだったんで、本当に自転車操業感がありました。今月買ってくれたお客さまは来月買ってくれない。だから、新規をずっととり続けなければいけない。確かにビジネスモデルに助けられているところありますね。

橋本:僕ら経営者の心理的安全性が全然違います。

青野:その意味では、世の中のビジネスモデルもどんどんサブスクリプションモデルに切り替えたら、柔軟な働き方がいろいろな会社で実現できるかもしれません。

大谷:先日、ウイングアーク1stさんのイベントで、日本のこの30年を数字で見るという基調講演があったのですが、基本的には人口も、GDPも、給与も全部減っていて、ネガティブな話しかないんですが、唯一労働時間だけは1990年代に比べてかなり減っているんですよね。GDPの減り方から考えると、生産性はむしろ上がっているのではないかと。

橋本:でも、将来的な展望を見ると、ぶり返しも来ると思っているので、厳しさに今から慣れていくことも必要かなと思っています。

青野:ストックビジネスは安定性がある一方で、慣れるとある意味“年金生活”っぽくなるので、そこは確かに意識が必要ですよね。

橋本:で、生成AIが出てきたじゃないですか。生成AIの普及でプライシングモデルが変化していくと、僕らのビジネスモデルが通用しなくなる可能性がある。そうなると、先ほどのような働き方が許容できなくなるんです。時短もダメ、副業もダメという厳しい人にならなければならないかも知れない。いきなりそうなるのは、僕もみんなも辛いので、今からある程度厳しくならなきゃなあとは思っています。

青野:めちゃ、共感します。

大谷:厳しくやってます?

青野:最近「SaaS is dead」と言われてますよね。怖っ(笑)。デッド言われとるわーと。AIエージェントがやってくれるから、毎月SaaSの支払い要らないじゃんと。

橋本:僕も最近は夜も寝られないです(笑)。今まで別に社員にやさしかったわけではなく、定額制のサブスクリプションモデルだったから許容できたんだよと。今後、市場が変化していくのであれば、僕らも変わっていかなければならないと覚悟しています。

青野:そうですね。ここから劇的に変わっていくでしょうね。コンピューターの歴史を見れば、オフコンがパソコンになり、クラサバがWebに、さらにクラウドになって、端末もスマホが出てきて。そのたびにプレイヤーが入れ変わってきました。残っている企業もありますが、変化について行けないところは消えていった。僕らもその変化は避けられないですよね。

橋本:Backlogも無事20周年を迎えられましたが、40周年を迎えるためには僕らも相当変わっていかないといけないと思っています。ただ、僕が厳しくなるのではなく、仕組みで変化に対応できるようにしていきたいです。

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