第17回 チームワークマネジメント実践者に聞く

現場側はボード、開発側はガントチャート 機能の使い分けで効果を最大化

見える化したから実現できた 業務と組織を整えるFUNDINNOのチームワークマネジメント

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

提供: ヌーラボ

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 未上場企業に投資できる株式投資型クラウドファンディングを提供するFUNDINNO(ファンディーノ)。2015年の創業以来、ベンチャー支援のために成長を続けてきた同社で活用されてきたのが、ヌーラボの「Backlog」だ。開発プロジェクトのみならず、広告審査のような全社員共通の業務で、Backlogはどのように使われているのか? FUNDINNO 経営戦略本部 事業開発部の小関洋人氏に聞いた。

未上場企業のベンチャーに投資できるFUNDINNO

 FUNDINNOは未上場企業を専門としたユニークな証券会社だ。メインのサービスである「FUNDINNO」は、1口10万円から急成長ベンチャーに投資できる日本初の株式投資型のクラウドファンディング。特定投資家とベンチャーをマッチングすることで1億円以上の大型資金調達を可能にする「FUNDINNO PLUS+」とあわせ、特定投資家を含む累計ユーザー数は16万人を突破し、累積投資額は2025年5月10日時点で200億円を超える。

 金融サービスの提供はあくまで手段であり、FUNDINNOが目指すのはベンチャーの支援だ。FUNDINNO 経営戦略本部 事業開発部の小関洋人氏は、「日本は、未上場企業にとって育っていく環境としてはかなり劣悪。欧米と比べると最下層と言っても過言ではない。『失われた30年』と言われる低成長の原因の1つは、ベンチャーが育たなかったこと。この課題を解決することが、弊社の使命です」と語る。

FUNDINNO 経営戦略本部 事業開発部 小関洋人氏

 創業から10年が経ち、同社のサービスは資金調達事業のみならず、未上場企業の成長を促すグロース事業にまで拡がっている。たとえば、株主管理・経営管理を実現する経営管理プラットフォームである「FUNDOOR」や人材サービス「FUNDINNO GROWTH」、未上場株式を売買できる「FUNDINNO MARKET」などだ。「個人の家計からリスクマネーを投資に回し、未上場企業に成長してもらい、リターンされた資金が再度投資に回るサイクルを構築しています」(小関氏)。

 そんなFUNDINNOの経営戦略本部 事業開発部に所属する小関氏は、8年前にシステム部のPDMとしてFUNDINNOでのキャリアをスタートさせた後、未上場企業の成長を担うFUNDOORの開発に加え、営業やマーケティングにも関わってきた。3年前に当時の経営戦略室に移り、複数のサービスを手がけるようになったFUNDINNOを部門横断で連携させる「全社のハブ」のような役割を担っている。今回は成長企業におけるBacklog活用とチームワークマネジメントの実践について聞いてみた。

現場部門と開発部門をつなぐBacklog

 FUNDINNOにBacklogが導入されたのは、小関氏がシステム部所属だった頃にさかのぼる。

 当時は、サービスを運営する現場部門から依頼事項を吸い上げるためにBacklogを使っていた。「もともと別のツールを使っていたのですが、あくまでエンジニア向けだったので、金融機関出身の方やシステム系に携わっていない方が利用するのに苦戦していました。それを解決したのがBacklogです」(小関氏)。

 Backlogは現在もシステム開発プロジェクトの管理に用いられている。以前は現場部門のメンバーが開発部門に直接依頼を送っていたが、現在は開発規模が大きくなったため、開発部門のプロダクトマネージャー(PDM)が現場部門からの依頼や要望をいったん整理している。この現場部門からの依頼に関しては、一部で課題のテンプレート機能を用いて、定型化が進められているとのこと。課題を起票するとともに、PDMがエンジニアに課題を割り当てていくという。

 開発プロジェクトでのBacklog導入のメリットは、やはりスピード感だ。開発部門のPDMが吸い上げたい情報をテンプレート化しておけば、現場のメンバーは必要な情報を入力すればよい。「簡単に言えば手戻りが発生しない」と小関氏。情報を可視化することで、目的の設定や共有がしやすくなり、結果的にスピード感が高まった。また、ナレッジがWikiに溜められるところも大きかった。現在は開発者アカウントの情報やプロダクト間での連携情報、API連携する際の仕様書など、メンバーが必要な情報が集約されている。

全員が関わる広告審査業務でBacklog活用

 また、FUNDINNO特有の使い方として、社内の広告審査でBacklogを活用している点が挙げられる。広告審査は全社員共通の業務であり、Backlogも全員で利用している。組織や所属の枠を超え、共通の目的に向かうためのチームワークマネジメントの実践例と言えるだろう。

 金融機関であるFUNDINNOでは、投資家を含めた外部のステークホルダーに情報発信する際に、誇張表現などにならないよう、社内で広告審査を行なっている。「広告」といっているが、基本的には営業資料やWebサイトなど対外的な情報発信は管理対象となるため、ほとんどの社員がこの広告審査業務に関わるわけだ。

 入社したばかりの社員からベテランまで、社員全員が関わる業務だが、広告審査におけるBacklog活用に関しては、マニュアルなしで利用できているという。実際、起票と言っても、社員は件名と担当者へのメンションと、審査が必要な内容を起票するだけだ。書類の添付が可能なほか、過去のやりとりもリンクとして登録できる。こうして広告審査業務をBacklogで運用することで、やりとりがすべてログとして残り、ユーザーもBacklogの使い方を学べるとのこと。

 こうした広告審査は一度きりではなく、定期的に発生する場合もあるため、Backlogの履歴が役に立つという。「同じ投資家さんへのお知らせや、ご案内の一部が更新された場合など、過去の課題を再利用できます。既存の資料の更新であれば、過去のやりとりのリンクを貼っておけばよいので、審査する側の負荷も減ります」(小関氏)とのことだ。

 社内のワークフローや情報共有でBacklogを利用するもう1つのメリットは、金融機関で特に重要なセキュリティだ。たとえば、広報の場合、扱うのはインサイダー情報になり得る秘匿性の高い情報の可能性がある。そんなときでもBacklogでは、プロジェクトに参加できるメンバーを限定するための権限設定が可能なため、安心感があるという。

開発部門はガントチャートで、現場部門はボード

 開発プロジェクトと広告審査。両者で共通しているのは、非エンジニアでも問題なく利用できているという点だ。Backlogのようなプロジェクト管理ツールを、なぜ社員全員が使いこなせているのか?

 小関氏は、「僕の理解だと、やはりシンプルさだと思います」と語る。登録は前述した通り、件名、担当者、審査内容の3つで、メールと変わらない。フィードバックがあったら、通知も飛ぶので、シンプルなコミュニケーションツールとして利用できる。

 また、1つのプロジェクトを時間軸で見られるガントチャートや、カンバン方式でタスクを視覚化できるボードなど、さまざまなビューで見ることができる点も現場ユーザーに親しみを感じさせているようだ。小関氏は、「私はシステムや開発系の人間なのでガントチャートの方が慣れているのですが、非エンジニアの現場メンバーがボードを使いこなしていたのは印象的でした」と語る。

 プロジェクト全体を見るディレクターやPDMはガントチャートの方が見やすいが、タスクベースで仕事をするメンバーはボードの方が使いやすいかもしれない。小関氏が慣れ親しんだのはガントチャートだが、最近は現場から提案されたボードも「あり」だと感じるようになった。「みなさんが使いやすいのであれば、標準はボードでもよいのでは?と思っています。いろいろな見え方を用意してもらったおかげでコミュニケーションが円滑になりました。これこそツールの力ですね」と語る。

 チームワークマネジメントという観点だと、まず目標設定や役割の明確化という点でBacklogが寄与しているという。「やはり自分のタスクが積み上がってくると、ツラいものがありますが、見える化ができているからこそ、正面から受け止めて対処方法を考えられます」と小関氏。また、マネジメントの観点では、メンバーのタスク量を見ながら業務量の把握に活用できているという。見える化することで、プロジェクトの負荷を調整するのに役立っているわけだ。

新規事業でこぼれるタスク、Backlogのプロジェクト資産がノウハウに

 Backlogは小関氏が担当している部署連携においても寄与している。フィンテック企業として、新しいサービスを立ち上げ、会社組織を整えていくサイクルの構築に役立っているという。

 FUNDINNOのようなスタートアップが成長を続けるためには、二の矢、三の矢に当たる新規事業が必要だ。しかし、スピード優先で事業を立ち上げると、業務オペレーションが固まらないまま進まざるを得ない。当然、オペレーションが不備なままだと、既存の組織や事業にも影響を与えてしまう。

 FUNDINNOの場合も、当初サービスはFUNDINNOだけだったが、より大きな金額を投資できるFUNDINNO PLUS+を立ち上げたとき、「この仕事は新規チームがやるのか?」「この業務は誰が担当?」といった業務が発生した。新たにサービスを立ち上げるたびに、こうした「誰もとらないボール」が出てしまう。小関氏は「きっちり作ってから走らせるのか、7割で走りながら進むのか。成長企業はだいたい後者をとりますが、その副作用として現場の混乱があります」と語る。

 スタートアップの泣き所とも言えるこの成長痛を和らげるべく、業務の棚卸しや整理を行なうのが、今の小関氏の役割。「ミッションがそもそも違うので、組織ごとにやることも違うし、抜け落ちてしまうタスクがあります。だから、組織を更新する際に私が入って、必要ならタスクを他部門に移管しますし、組織を新たに作ることもあります」と語る。小関氏自身がチームワークマネジメントで重要な目標設定、役割の明確化を実現するリーダーシップを発揮している。

 こうしたときも、Backlogにプロジェクトのやり取りが残っていれば、複製して新たな基盤として再検討すればよいので、タスクの洗い出しやメンバー調整をイチから考える必要がない。Backlogのプロジェクト資産が、まさにノウハウになっているわけだ。今後もBacklogはFUNDINNOの成長を支えるのに重要な情報基盤として活用されていくはずだ。

チームワークマネジメントの視点

ベンチャーを資金や経営、人材などさまざまな形で支援するFUNDINNO。順調な成長ぶりは本文でも紹介したが、創業10年のスタートアップだけに、過去にはさまざまな苦労もあったはずだ。

企業の成長とともにサービスは増え、部門がサイロ化し、全体の目標が見えなくなるというスタートアップの苦労話はいろいろな取材で聞いてきた。今回取材した小関氏は、そういった組織の歪みを矯正してきた立役者である。会社全体を俯瞰しつつ、組織の中に入り、困りごとや課題を解きほぐしていくチームワークマネジメントのリーダーと言える(関連サイト:チームの力を最大化し、組織の競争力を高める 「チームワークマネジメント」)。「見える化ができているからこそ、正面から受け止めて、対処方法を考えられます」はまさに金言と言える。

特に興味深かったのは、やはり全社員が利用する広告審査という業務での利用だ。メールやチャットではなく、Backlogを利用することで、さまざまな関係者が関わる審査のプロセスを円滑に行なっている。エンジニアのみならず、決してITが得意なわけではないメンバーが違和感なく利用できているのは、やはりBacklogのシンプルさが大きいと感じられた。

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