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COMPUTEX TAIPEI 2025レポート 第16回

中国への輸出規制は効果がないとNVIDIA CEOが持論を展開、ヒューマノイドロボットが次の数兆ドル産業になる

2025年05月21日 20時00分更新

文● 中山 智 編集●北村/ASCII

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世界は「AI工場」を構築する新しい産業の始まりにいる

 次に貿易摩擦、デ・グローバリゼーションの中でNVIDIAのグローバルサプライチェーン戦略、特に台湾の位置づけについて尋ねられた。ファン氏は、台湾は「成長し続ける」と断言。その理由として、世界は「AI工場」を構築する「新しい産業の始まりにいる」ことを挙げた。

 「AIインフラはインターネットインフラが惑星を覆ったように、惑星全体を覆うだろう」と述べた。このAI工場/AIインフラの構築は、「数百億ドル規模から数十兆ドル規模」になり、約10年かかると予測。台湾では多くの建物、工場が建設されており、これはAI製造のためのインフラ構築競争の結果だと説明した。

 同時に、世界の製造業はレジリエンス(回復力)と多様化が必要であり、一部は世界中に分散されると説明。米国でも製造されるが、すべてを国内で製造することは不可能であり不要だとした上で、国家安全保障上重要なものは可能な限り国内で製造し、世界中で冗長性を確保することでレジリエンスを持つべきだと述べた。

 この再均衡は、AIインフラというまったく新しいインフラが初めて構築されている「非常に良いタイミング」で起こっているとした。多くの新しいプラントがどのみち必要だからだと説明。最も重要なのは、これらの新しいプラントに必要なエネルギーを供給することだと強調。コミュニティは、産業を成長させ経済的繁栄と安全保障を実現するために、AI工場を含む産業化にはエネルギーが必要であることを認識する必要があると指摘。政府当局には、水素、原子力、太陽光、風力など、あらゆる種類のエネルギーを支援し、産業をリセットしてAIインフラへと成長させるよう求めた。

中国への輸出規制により複数億ドルの在庫評価損が発生
ただしAI市場において規制の影響はあまりない

 輸出規制について質問が続いた。ファン氏は、輸出規制によりH20は中国への出荷が禁止されたと述べ、これにより複数億ドルの在庫評価損が発生したと明かし、「多くの半導体企業の四半期収益に匹敵する大きさだ」と損失の大きさを強調した。中国市場は「非常に重要」であり、その理由はいくつかあると述べた。

 第一に世界のAI研究者の50%が中国にいること。NVIDIAは彼らにNVIDIA上で開発してほしいと願っているとし、Deep SeekやQwen1.5はNVIDIA上で構築され、世界への贈り物となった例を挙げた。

 第二に、中国市場は「非常に大きい」とし、来年のAI市場全体はおそらく「500億ドル」規模になり、これは多くのチップ企業の規模をはるかに超えると説明。この市場機会を享受しないのは「非常に残念」だと述べ、それは米国に税収をもたらし、雇用を創出し、産業を維持することにつながるからだと語った。

 政策について「腹を立てているか」と問われ、「腹は立てていない。しかし、政策は間違っていると思う」と明確に答えた。その証拠として、4年前のバイデン政権開始時、NVIDIAの中国シェアは95%近かったが、今は50%に過ぎないことを挙げた。残りは中国の技術だという。

 さらに、より低い仕様のチップを販売せざるを得ず、平均販売価格(ASP)も低下した。これによりNVIDIAは多くの収益を失ったが、「なにも変わっていない」と主張。AI研究者は中国でAI研究を続けており、NVIDIAがなければ自国技術や「次善策」を使うだけだとした。

 また、現地の企業は非常に才能があり意欲的であり、輸出規制が彼らに開発を加速させる「精神、エネルギー、政府支援」を与えたと指摘。「全体として、輸出規制は失敗だったと思う。事実はそう示唆している」と結論付けた。

 中国市場の話から、支出の冷え込みやDeep Seekの影響への懸念についての質問にファン氏は、Deep SeekがAIインフラに与えた影響が「信じられないほど」大きいと述べた。旧来のAIはワンショット(検索して答えを出す)だったが、Deep Seekは「推論モデル」であり思考が必要。速く思考するためには多くの演算が必要であり、Deep Seekが演算ニーズを「おそらく100から1000倍」増やしたと指摘。AI企業が「GPUが溶けている」(働きすぎ)と言っている理由だと説明した。

 ファン氏はより多くのGPUが必要だと強調。マイクロソフトがGB200を最初にオンライン化し、OpenAIがすでに利用していること、そしてマイクロソフトが今年中に「数十万台のGB200」を構築する計画であることを明らかにした。これは「3年前のマイクロソフトの全データセンターを合わせたより多い」量であり、AIインフラの構築は「実際にはまだ始まったばかり」だと述べた。

 これは「推論AI時代の始まり」であり、推論AIはさまざまなアプリケーションで非常に有用だとした。世界中でAIインフラが構築されており、AIインフラは電気やインターネットのように社会や産業の不可欠な一部となると語った。

 さらに中東ではトランプ大統領が「AI拡散ルールの反転」を発表したことに言及。以前の拡散ルールはAIの拡散を制限することを目的としていたが、トランプ大統領はそれが「まったく間違った目標」であると認識しているとした。米国だけがAI技術提供者ではなく、米国がリードを保つためには、拡散を最大限に加速し、世界が「アメリカの技術」上で構築するようにする必要があると述べた。

 これは「間違った政策の素晴らしい反転」であり、「ぎりぎり間に合った」が「速く進まなければならない」と強調。根本的な仮定は「米国がAIの唯一の提供者である」というものだったが、それは明らかに真実ではないと指摘した。

 AI拡散ルールの反転が続くか、トランプ政権の態度、そして中国での競争において米国政府との連携でH20のような事態を避けられるかという質問にファン氏は、拡散ルールの詳細や将来の政策はわからないとした上で、最初の拡散ルールを導いた「根本的な仮定が完全に間違っていたことが証明された」ことが重要だと述べた。

 政府の賢明な人々は国のために良いことをしようとするが、仮定が間違っていれば政策も変わらざるを得ないとし、「根本は完全に間違っていたことが証明された」ため、トランプ大統領はNVIDIAが米国外へリーチを拡大することを可能にした。トランプ大統領は「NVIDIAにできるだけ多くのGPUを世界中に販売してほしい」と公に述べた。

 これは競争が激しくなっており、米国がリードを保つためには、制限ではなくAI拡散を最大限に加速する必要があることを彼が明確に理解しているためだと説明。他の誰かが喜んで提供するだろうとした。

 AIは6Gの基盤にもなるため、将来の通信インフラにも影響があり、米国AI技術をできるだけ多くの場所に届け、開発者と連携し、エコシステムを構築し、AI革命に参加してもらう必要があると述べた。根本的な仮定とは「米国がAIの唯一の提供者である」というものだったが、それが明らかに真実ではないことが証明されたのだと改めて話していた。

 中国市場の重要性、中国での競争、上海での研究センター投資、そして米国政府との連携についてファン氏は、上海の従業員のために新しいビルをリースしようとしていることについて説明。NVIDIAは30年間中国におり、従業員は狭い環境で働いている。柔軟なリモートワークポリシーがあるが、多くの人がオフィスに戻り始めており、オフィスが手狭になったため、椅子を置くスペースのある新しいビルが必要なのだと述べた。

 これが大きなニュースになっていることに驚き、「新しい椅子を買ったようなものだ」と語った。中国での競争は「非常に激しい」と述べ、中国には活気ある技術エコシステムがあり、世界のAI研究者の50%がいて、ソフトウェアが「信じられないほど得意」だと評価した。

 スピードも速いと話しており、NVIDIAが中国にいなければ現地の企業は「喜ぶだろう」とした。輸出規制は「まったく間違った政策」であり、NVIDIAが中国に戻って市場で競争できるようにしてほしいと願っていると述べた。現在のH20は中国への出荷が禁止されており、これ以上性能劣化させて市場に有用にする方法はわからないとした。

 しかし市場にコミットしていると強調。輸出規制を遵守しつつ、市場に奉仕するために最善を尽くすのが仕事だと述べた。「かなり複雑になる」と話すものの、現時点では良いアイデアはないが考え続けると語った。

 中国のスタートアップやHuaweiなどが自社チップを開発していることについてファン氏は、多くのスタートアップやクラウドサービスプロバイダーが自社チップを開発しており、Huaweiは「世界で最も手ごわい技術企業のひとつ」だと述べた。

 AIの利点は、データセンターが大きく、携帯電話のようにひとつのワイヤーに収まる必要がないこと。チップ1つでダメなら2つ、4つと増やせる。エネルギーは多く消費するが、中国では電力のコスト効率が良いうえに土地も多い。そのため、H20の禁止は効果がないとし、彼らはスタートアップやHuaweiなどからより多くのチップを買うだけだと説明した。

 米国政府が禁止の効果がないことを認識し、NVIDIAに戻って市場を早く勝ち取らせてくれることを「本当に願っている」と改めて表明した。

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