会社員からフリーランス広報へ。そしてペン字との出会いで開いた新たな扉
自分を救ってくれたペン字を広めたい! 閉業した教室を引き継ぎ自らがオーナーに
このSNSでの〝独立宣言〟をきっかけに、なかば成り行きでフリーランス広報となった永井さん。独立にあたっての準備も勉強もゼロ。会社員として培ってきた広報の経験だけが頼みの綱だったが、順調な滑り出しを切った。
「『小さなお葬式』の広報をしていた時は、自分自身がサービスに強い愛着を持っていたからこそ広報として、心から伝えたいと思えていました。では、フリーランスの場合はどうなるのか。『さまざまな企業の案件を、同じように愛を持って担当できるのか?』と、最初は不安でした。
でもふたを開けてみたら、想像以上におもしろいサービスや商品が世にあふれていて。企業から相談を受けるたびに『こんなにいいものなのに!多くの人に知ってもらいたい!!』ということばかり。
話を聞けば聞くほどその会社やサービスを好きになってしまうし、自分のキャパを越える社数からお仕事のご相談をいただくこともあったので、最近では『これ以上、おもしろい話を私に聞かせんといて~!』という時も(笑)。自分という人間に仕事を任せてみようと考えてくださる方がいることが、本当にありがたいと感じました」
とはいえ、会社員からフリーランスへのライフシフトということで、戸惑うこともあったという。
「自分に自信がないという性格も相まって、〝自分に値段をつける〟ということの難しさに、何度もぶつかりました。実は今でも依頼されたお仕事に対して、金額提示をすることがあまり得意ではありません。思ったより高いなという反応をされるのも辛いですし、かと言って、安く見積もっても全力で取り組んでしまう性格なので、自分が疲弊してしまう。
また、当時は関西でフリーランスの広報という働き方自体が珍しかったので、『もっと簡単にできる』『すぐ結果が出る』と思われてしまうこともしばしば。だからこそ、関わる期間や得られる成果について、具体的なイメージを丁寧に伝え、必要以上に期待値が上がらないようにする工夫も求められました」
そんな永井さんだが、「せっかくフリーランスになったのだから、会社員時代にはできなかったことをやってみよう」と、ある挑戦をすることに。それがペン字習字だった。
「母がきれいな字を書いていたので、成長したら自分も大人の字を書けると思っていたのですが、そうはならず(笑)。小学生の頃、少女漫画雑誌の巻末に載っていたペン字の通信講座に心を惹かれていた記憶があって。ずっと心の片隅にあった『いつかは字を習いたい』という思いを実行に移しました」
もともと飽き性で、コツコツ続けることが得意ではないという永井さん。ペン字を習い始めたものの、最初は「どうせまた続かないんでしょ」とやや斜に構えていた。
「でも、先生から花丸をもらえるようになってきて。大人になって花丸をもらえることなんてまずないので、思っていた以上に嬉しくて。広報の仕事で落ち込んでも、社外秘のことが多いため人に相談できない中、無心で字を書くことで気持ちが整ったり、落ち着いたりするように。
いつしか、『字の練習も、仕事も、目の前のことに集中して丁寧に向き合えばいいんだ』と、思えるように。そして字にも変化が現れ、周囲から褒められることも増えてきたんです。『もう大人だし、人はそう簡単に変われない』『私なんて…』と心の奥で思っていたけれど、『大人になってからでも変われるんだ』『私にもできることがあるかもしれない』と、小さな自信が生まれました」
字だけでなく、気持ちや考え方までも変えてくれたペン字習字はいいこと尽くしで、永井さんは「おばあちゃんになってもずっと続けよう」とまで思うように。そんな矢先、教室を主宰していた書道家でもある講師が体調を崩し、突然閉業が決まる。2024年の夏のことだった。
「先生は11歳年下でしたが、勝手に〟フリーランス仲間〟のように感じていて、切磋琢磨できる大切な存在でした。閉業の知らせを聞いた日は眠れないほどショックで、ほかの教室を探す気にもなれず…」
「先生のつくる空間でのあの体験は、日本中の人が味わった方がいい」と本気で考えた永井さんは、講師を説得。顧問として関わってもらいながら、自身が教室を引き継ぐ形で起業することを決める。
「フリーランス広報の仕事は、事務所も仕入れも不要な身軽な働き方。でも、ペン字教室はテナントを借りるなど固定費も発生しますし、スクールビジネス未経験の私にとっては正直不安もありました。それでも、誰もやらないなら、資金が続く限り私がやるしかないという気持ちです。自分が広報するものが、実際にどんな反響を生むのか見られることは、広報という仕事にとってもプラスになると考えています」
当初はレンタルスペースでのプライベートレッスンから始めるつもりだったが、希望していたビルの部屋が突然空き、急遽本格始動することに。こうして2025年2月、ペン字教室「pen.」を開業させた。思い描いていた段階的なスタートが一変したため、想像もしていなかったような苦労の連続だそう。
「なにせ一人社長なので法人登記、社会保険の切り替え、予約システムの整備など、ペン字を続けたいだけのはずが、気づけば事務作業に追われることに。初めてのことばかりで、今も絶賛苦戦中です(笑)」
現在「pen.」では、前身の教室で主宰者だった書道家を顧問とし、4人の講師が在籍。そのうちの一人は、ほかでもない永井さんだ。「まだ道なかばな自分に教えられることなんてあるのか…」と不安を感じていたが、「大人になってからペン字を始めた永井さんだからこそ、伝えられることがある」と背中を押され、初心者向けの講師を務めることにした。
「いざ教えてみると、初心者のつまずきに共感できるんです。それに私自身が最近まで生徒だったからこそ、ペン字を習ったことでどんな変化があったのかも伝えやすい。実際に90分で見違えるように字が変わる方が多くて、手応えを感じています。
長年、字にコンプレックスを抱えてきた方にこそ、早く体験してほしいです。私も、『もっと早く始めておけばよかった!』と過去の自分に言いたい。今43歳なので、80歳まで生きるとして〝字で得する時間〟は40年弱しかない!って(笑)」
〝やればちゃんと成果が出る〟そんな手応えを感じられるのが、ペン字の魅力だと語る永井さん。また、日々の暮らしの中で書いた字を披露する機会も多く、まわりから褒められる場面が増えたという。
「ハードルは低いのに、リバウンドしにくいのもペン字習字の特徴。しかも、紙に練習の成果が積み重なって〝見える〟のが、忙しい現代人には特におすすめ。頭の中がごちゃごちゃしている時でも、書くことだけに集中していると自然と落ち着いてくるんですよね」
現在は、フリーランス広報とペン字教室の運営、さらに母親としての顔も持つ永井さんに、どうやってうまく両立しているのかも聞いてみた。
「普段からよく聞かれるのですが、なにも両立できていません(笑)。夫や両親にもサポートしてもらっています。それでも、理想の仕事のレベルに到達するには、まだまだ時間が足りないですね」
日々、できないことやタスクが積みあがってしまっても、自分を責めないようにする。それが永井さんなりのバランスの取り方。そんな時は、「家族を大事にするために仕事をしている」「今、大切にすべきなのは何か」という原点に立ち返るようにしているのだという。
「忙しくなると頭の中はパニックで、考え事をして電車を逆方向に乗るのは日常茶飯事。そんな時はふと、起業するには早かったのではと悩むことも。でも、それも『今やるしかなかった。今の私にできることからひとつずつやろう』と、受け止めるようにしています」
本当は教室を夜まで開きたいけど、娘の保育園のお迎えに間に合う時間までにするなど、今は〝無理のない範囲〟でやろうと決めている永井さん。しかしながら、ゆくゆくはペン字教室を全国に展開していきたいう大きな目標を掲げている。
「昔は少数だったパーソナルトレーニングジムが今では街中にあるように、〝字を習う〟ことももっと身近な存在にできたらと。字は年齢や職業に関係なく、誰でも確実に上達できるし、価値のあるもの。だからこそ、教室だけにとどまらず、企業の研修や福利厚生としても導入してもらうなど、可能性を広げていけたらと考えています」
もともとは「会社員こそが正解」と思っていたという永井さんは、自身のライフシフトを「事故的にフリーランスになったし、さらに起業するなんて思ってもいなかった」と笑う。広報として多くの経営者と話す機会がある彼女は、そこからも多くのヒントをもらっているそう。そして、それはこの先ライフシフトをしたいと考えている女性にとっても、大いに役立つものと言えそうだ。
「海外でのお仕事経験も豊富な女性社長は『日本の女性はしっかり教育を受けて、とても優秀なのに、私なんか…と自信を持てずにいる人が多い』と。ほかの経営者からは『日本人は失敗を避けたがるけど、本当は早めに失敗したほうがいい』と言われたことも。
また、とあるメディアの方には起業時、『いつか取材したいので、いっぱい失敗しておいてくださいね』と(笑)。確かに広報視点で考えても、すんなりうまくいった人より、失敗を乗り越えた人のほうがおもしろい。そんな言葉の数々に『そうか、失敗していいんだ!』と励まされ、勇気をもらいました。
以前は自分を卑下することも多かったですが、少しずつ経験を重ねたことで、雲の上の話と思っていた起業も実現できました。これから50代、60代と年齢を重ねても、挑戦できることはどんどん増えていく。そのワクワク感を持って生きていけたらすてきだと思うんです。だからこそ、今のうちに成功も失敗も、一つ一つ自分で体験しておくことが、未来の自信になるのではないでしょうか」
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