業務を変えるkintoneユーザー事例 第260回
kintone導入/定着化のカギは“3つのユーザーファースト” ―豊田プレステージホテル・早田氏
毎日の引き継ぎは紙ベース、情報保管はバラバラ… 老舗ホテルがkintoneで挑んだ業務改善
2025年05月09日 12時30分更新
「わたしがお伝えしたいことは3つです。1つめが『ユーザーの目線に立つこと』、2つめが『ユーザーにメリットを伝えること』、3つめが『ユーザーの声を聞くこと』。(kintoneで)システムを作るうえでも、システムを使っていただくうえでも、この3つが大事なポイントになると思います」
2025年4月15日にZepp Nagoyaで開催された、kintoneユーザーの事例共有イベント「kintone hive nagoya」。3組目に登壇した豊田プレステージホテルの早田結菜氏は、ユーザーのことを第一に考えた“ユーザーファースト”の姿勢で取り組んで来たkintone導入について紹介した。
老舗のビジネスホテル、「業務の引き継ぎ」と「情報の分散化」の課題に悩む
愛知県の豊田市駅そばにある豊田プレステージホテルは、1959年に宿泊業(当時は長生軒旅館)を開業して以来、60年超の歴史を持つビジネスホテルだ。
ホテル内の組織は大きく3つの部署、「レストラン」「フロント」「ハウスキーパー(客室清掃)」に分かれている。入社3年目の早田氏はフロントの担当だ。
さて、豊田プレステージホテルがkintoneを導入したきっかけは何だったのか。早田氏は、それまであった2つの業務課題を解消するためだったと説明する。「紙による業務引き継ぎ」、そして「社内の情報の分散化」という課題だ。
毎日、昼夜を問わずサービスを提供するホテルでは、交代するスタッフ間で情報を伝達する業務引き継ぎが、大切な役割を担っている。以前はこの引き継ぎをすべて“紙”ベースで行っていたため、3つの部署で「年間で1000枚以上」の紙資料を発生させていた。重要な資料だが、紙なので「保管場所に困る」「情報の検索性が悪い」「紛失しやすい」といった難点があった。
もうひとつ、一部の業務ではすでにITシステムを導入していたが、情報が統合されていないことも課題だった。フロントにある5台のパソコンを全社員で共有していたが、それぞれ使えるアプリや機能が異なり、情報も分散していた。そのため、特定のパソコンを使う“順番待ち”でタイムロスが発生したり、最新の情報がどこにあるのか分からなくなったりする問題が起きていた。
1人でkintone導入をスタートし「紙をゼロに」「情報も集約」
こうした課題を解決するために、豊田プレステージホテルではkintoneを導入することにした。導入は早田氏が1人で担当することになったが、社長の稲熊氏から「早田ならできる! 作れる!」と背中を押してもらったことが気持ちの支えになったという。
早田氏がまず作ったのは「引き継ぎアプリ」だ。これまで紙のシートで行っていた引き継ぎ業務をデジタル化するもので、レストラン/フロント/ハウスキーパーの各業務内容に合わせて、記入内容や画面表示を作成している。
ここでは「ユーザーの目線に立った」工夫も行っている。たとえば、登録から1週間以内の情報を色分けしたり、検索プラグインで目立つ位置に検索欄を配置したり、といった工夫だ。
引き継ぎアプリを作った結果、業務引き継ぎの紙書類は「ゼロ枚」に削減できた。保管場所や紛失の悩みが解消されたうえ、過去の情報も瞬時に検索できるようになった。
もうひとつの課題であった「情報の分散化」も、kintoneを使うことで簡単に解消することができた。
各部署には、引き継ぎ業務以外にも、システム化されていない細かな業務がいくつもあった。それらをkintoneでアプリ化していくことで、情報がkintoneに集約されるようになった。たとえば発注や在庫管理など、幅広い管理業務をkintoneひとつでカバーすることができ、それらの履歴がデータとして残るため、実態が「見える」ようになる効果もあった。
こうした多数のアプリをまとめるための社内ポータルも、kintoneを使って作成した。アイコンを使って画面を分かりやすくデザインしたほか、スペースを使って部署ごとのトップ画面も設け、そこにそれぞれのアプリを格納している。
“ユーザーファースト”を徹底することで社内への定着化が進む
こうして早田氏は「2つの課題」を解決できたが、導入にあたっては苦労した部分もあったという。
ひとつは「社内ユーザーの理解」だ。パソコン操作に不慣れなスタッフに対しては、まず早田氏が隣に付いて操作を実演してみせた。その結果、1カ月ほどで問題なく操作できるようになったという。さらに、ユーザーの目線に立って、アプリ側のデザインや操作方法を分かりやすく、より少ない操作でできる工夫も施した。
また、社内からの「これまでどおりのやり方では駄目か?」「慣れるのに時間がかかる」「操作が大変」といった声もあった。こうした声に対しては「このアプリを使うことでどんなメリットがあるのか」「どれだけ作業が減らせるのか」といったことを、粘り強く説明していったという。
「やはり『ユーザーにメリットを伝える』ことも大事なポイントだと思います。説明を重ねた結果、現在では各部署でkintoneを使っていただけるようになりました」
もうひとつ、「既存システムとの兼ね合い」も苦労した部分だと語る。豊田プレステージホテルでは、以前から顧客管理や清掃業務向けのシステムを導入しているほか、Excelで管理している業務もある。これらもまとめてkintone化できれば理想的かもしれないが、それを実現するハードルは高かった。
「そこで『すべてkintoneにする』という方針ではなく、『(既存システムが)できない部分をkintoneで補おう』という方針で運用しています。そのうえで『kintoneでできる部分を増やしていこう』という心持ちになることで、アプリを使ってみよう、作ってみようという方も増えてきました」
kintoneアプリの利用が普及していくにつれて、社内からは「仕事が『見える』ようになってやりやすくなった」「情報がまとまっていて使いやすい」といったポジティブな声が聞こえるようになった。さらに「こういう機能もほしい」といった改善提案も出ているという。早田氏は、しっかりと「ユーザーの声を聞くこと」も大事なポイントだと強調する。
こうして「ユーザーファースト」のkintone導入を続けてきた早田氏だが、これからもその姿勢でkintone活用を進めていくという。今後は「アクセシビリティの向上」「アプリ間のデータ連携強化」「集計やグラフの活用」を推進して、社内のユーザーがさらに使いやすく、活用メリットが得られるkintone環境を目指す方針だ。

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