生成AIアシスタント「Joule」はSAP開発者・コンサルタントもサポート
AIエージェント時代のデータ統合基盤 SAPが「Business Data Cloud」発表
2025年03月21日 08時00分更新
SAPジャパンは、2025年3月18日、ビジネスデータを統合するフルマネージドのクラウド型データ基盤「SAP Business Data Cloud」を、2025年第2四半期に一般提供開始すると発表した。
Business Data Cloudは、あらゆるビジネスデータにアクセスできるデータ活用・可視化の基盤であると共に、生成AIやAIエージェントの効果的な活用に必要なデータの整備を担う基盤でもある。
SAPジャパンのBusiness Data Cloud ソリューションアドバイザリー部 ソリューションアドバイザーエキスパートである椛田后一氏は、「AIエージェント同士が連携しながら、自律的に働くためには、複数のビジネスモジュール、複数のビジネスアプリケーション間のデータが整合性を維持して、かつAIが理解しやすい形式で揃っている必要がある」と説明する。
生成AIアシスタント「Joule」は開発・コンサルタント領域に拡大
まずは、SAPジャパンの常務執行役員 最高事業責任者である堀川嘉朗氏より、同社のビジネス戦略におけるBusiness Data Cloudの位置付けについて語られた。
同社は、2025年の戦略として「AIファースト、スイートファースト」を掲げており、AI活用の実用化を推進するソリューション群を展開している。
その代表的なソリューションが、2024年に提供開始した生成AIデジタルアシスタント「Joule」だ。Jouleは、2025年第1四半期にはABAP(SAPシステムの開発言語)開発者向けの機能を、第2四半期にはSAPコンサルタント向けの機能を追加して、SAP開発プロジェクトの短期化を促進していく予定だ。
また、会計や分析、販売、サプライチェーン、人事などの領域で、相互連携しながら自律的に業務をこなすAIエージェントも、順次登場するという。堀川氏は、「今まで、従業員が担っていた役割や業務をAIエージェントが代替していく。従業員は、Jouleを介してエージェントと対話しながら、最適なデータや情報を基に意思決定をしていくのが目指すべき姿」と強調する。
こうした“AIファーストな業務のあり方”を実現するソリューションを、スイートとして提供していくのが同社の戦略となる。具体的には、「AI」「データ」「アプリケーション」の3つの層を統合した基盤である「SAP Business Suite」を提供。その中で、AIとアプリの中間で両者をつなぐ役割を果たすのが、今回発表された「Business Data Cloud」である。
SAP Analytics Cloudにおける3つの進化ポイント
Business Data Cloudでは、企業内のビジネスデータを一元管理する“ビジネスデータファブリック”として、データ統合基盤である「SAP Datasphere」とデータ分析基盤である「SAP Analytics Cloud」が引き続き中核を担う。
Datasphereは、SAPアプリケーションのデータをビジネスコンテキストを損なうことなくモデリングして、SAP以外のデータとも統合、そして、Analytics Cloudで可視化することができる。
このデータ管理と可視化が、Business Data Cloudによって強化されたポイントが3点挙げられた。
ひとつ目のポイントは、「データプロダクト」によるデータの利活用の促進だ。データプロダクトは、SAPアプケーションのデータを受け取り、共通のデータモデルに落とし込んで、データセットやセマンティック(用語や意味)を整える。データに付属するメタデータも再利用しやすい形で保持され、データカタログでのメンテナンス作業も不要となる。
さらに整えられたデータは、「SAP Knowledge Graph」によって、データの関係性をナレッジグラフとして構築して、保持することができる。これにより、データの正確性を担保して、生成AIやAIエージェント利用時のハルシネーションを低減することができる。
なお、SAP以外のデータを扱うための「カスタムデータプロダクト」も用意される。
2つ目のポイントは、Analytics Cloudで利用できる、事前定義済みのダッシュボードテンプレートである「Insight Apps」だ。例えば、S/4HANAの会計情報を基にした運転資本ダッシュボードといった、特定業務を可視化するダッシュボードをボタンひとつで展開できる。これは上記のデータプロダクトを基に、各ダッシュボードを構成するためのデータモデルがデプロイされる仕組みとなっている。
3つ目のポイントは、Databricksとの戦略提携に基づき統合されたデータレイク「SAP Databricks」による、データマネジメントの強化だ。大量データの管理や大規模バッチ処理、AIやマシーンラーニングを活用した予測分析などが可能になる。
「今回の目玉は“データのゼロコピー”」(椛田氏)であるといい、Databricsからデータプロダクトで保持するSAPアプリケーションのデータに直接アクセスできる。これによりSAPのビジネスデータから予測モデルを構築して、Databricks上のテーブルに出力、Datasphereがゼロコピーでアクセスして、ダッシュボードに表示することなどが可能になる。
最後に、「SAP Business Warehouse(BW)」のモダナイゼーションにおけるBusiness Data Cloudの活用についても触れられた。
Business Data Cloud内には、SAP BWおよびSAP BW/4HANAが組み込まれており、オンプレミス環境の既存の資産をBusiness Data Cloudにリフトすることで、マイグレーションが可能となる。このBWのデータもAIなどに活用できるが、「あくまで過渡期での利用という考え方は変わらない」と椛田氏。「段階的にBusiness Data Cloudの新しい仕組みにシフトして、BWの環境をフェードアウトすることを推奨している」と呼び掛けた。
