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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第812回

2倍の帯域をほぼ同等の電力で実現するTSMCのHPC向け次世代SoIC IEDM 2024レポート

2025年02月24日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

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SoICは2.5DのUCIeと比較して
2~3桁高い配線密度を実現できる

 発表ではこのあとSanity Check(どこまで正常に動作しているか)の結果なども示されたが、これは割愛して最後にベンチマーク結果を説明しよう。これは実際にどの程度の性能を出せるか比較したもので、SoICは2.5DのUCIeと比較して2~3桁高い配線密度を実現できる、としている。

UCIeそのものは別に3Dもサポートされているのだが、ここで出ているStd PackageとAdvanced Packageはシリコンインターポーザー前提の2.5Dの接続のものである

 この最後の話についてだけ、もう少し解説しておきたい。もともとのUCIeはシリコンインターポーザーを前提とした2.5Dでの接続のみだったが、2024年8月にリリースされたRevision 2.0でUCIe-3Dと呼ばれるSoICタイプの接続にも対応するようになっている。

 スペックからこの3つのパッケージの仕様を抜き出してまとめたのが下表である。

の3つのパッケージの仕様
  Standard Package Advanced Package UCIe-3D
Supported speeds
(per Lane)
4,8,12,16,24,32GT/s up to 4GT/s
Bump Pitch 100μm~130μm 25μm~55μm < 10μm(Optimized)
10~25μm(Functional)
Channel reach 10mm(short)
25mm(long)
2mm 3D Vertical
BER 1e-27 (<= 8 GT/s)
1e-15 (>= 12 GT/s)
1e-27 (<= 8 GT/s)
1e-15 (>= 12 GT/s)
1e-27

 2.5Dタイプでは最大32GT/sまでの接続が可能なのに対し、UCIe-3Dは最大でも4GT/sと控えめなのは、なにしろ配線数を猛烈に増やせるからである。Standard/Advanced Packageの場合、配線はx16を基本にx32/x64あたりまでが想定されているが、UCIe-3Dは例えばx4096なども可能であり、信号速度を上げるとむしろ消費電力が上がってしまうので、信号速度は控え目にして、その分配線数を増やした方が得策である。

 そもそも上の画像を見ると、SoICの方は簡単な送受信バッファを用意しているだけで、UCIeのI/Fを使っていないのがわかるかと思う。UCIeは基本的に外部バスの延長というか、間にプロトコル変換が入る形で互換性を高めるような工夫がなされているが、UCIeのこの例は内部バスをそのまま延長して接続するような構造である。

 連載659回でAMDの3D V-Cacheの配線を説明し、これを元にした内部構造の推定もご説明したが、SoICを利用するとL3用SRAMの内部配線をそのまま延長させられる。

 これが可能なのは、3次元方向の接続なので、配線距離が1mmにも満たないからというのが大きい。そして配線距離が短いということは、信号駆動のための電力も非常に抑えられたものとなる。実際PHYといってもESD保護用のクランプと、そのあと信号を正規化するアイソレーション回路だけで済んでいる。

 ところがUCIeの場合はもっと配線距離が長くなるから、ちゃんとドライバーも必要だし、それだけ消費電力が増えることになる。UCIeを使わずに独自規格で接続してもこのあたりは変わらない。

 水平方向の接続に内部バスの信号をそのまま出すことは不可能か? というと、そうとは限らない。その実例がSapphire RapidsやGranite Rapids、そしてSierra Forestなどで、これらはいずれもCPUコア同士をつなぐリングバスを外部まで引っ張っている。

 ただ結果として例えばSapphire Rapidsは疑似的にであるが内部バスの長さが南北・東西方向ともに40mmもの長さになってしまっている。これだけの長さを引き回すと、当然信号の劣化が激しいから、これを補うためにバッファをあちこちに入れたり(これは通信のレイテンシー増加につながる)、信号の電圧を上げたり(これは消費電力増加につながる)という、好ましくない副作用を発生することになる。

 チップレットの原理的な欠点は、チップの数が増えると水平方向の配線がどんどん長くなることで、これを避ける一番スマートな方法が縦方向の積層というわけだ。TSMCが次世代SoICで900Tbps/mm2/pJ/bitという高い高密度配線を実現できたというのは、要するに3D積層すると配線長が最小に抑えられることが大きい。

 だからといってむやみやたらになんでもかんでも3D積層というわけに行かないのが目下の問題ではあるのだが、1つの方向性を明確に示したものとは言えるだろう。

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