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“全方位”でのクラウドインフラ投資と生成AI実用化支援に注力

「大企業病には陥らない」 AWSジャパン白幡新社長が所信表明

2025年02月03日 16時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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AWS re:Inventでは、生成AI実装の課題に応える新機能を発表

 AWSがクラウドインフラへの投資を加速するもうひとつの理由は、生成AI活用に対するユーザー企業からの声に応えるためだ。「生成AIの利活用はこれからが本番。これまでのPoCのフェーズから、これから本格的な生産性向上、ビジネス価値創出のフェーズへと急激に移行する」と白幡氏。

 実用化が進むにつれて、企業の抱える悩みも、より専門的に、より多様化していく。企業の悩みを解決すべく、2024年7月には、戦略策定から本番環境での活用までをパートナー企業と共に支援する「生成AI実用化推進プログラム」を開始しており、すでに100を超える企業や組織がプログラムに参加しているという。加えて、2024年12月に開催されたグローバル年次イベント「AWS re:Invent」では、生成AI実装においての課題を解決する数々のアップデートを発表した。

生成AI実用化推進プログラムの参加企業

 ここでは、AWSジャパンの常務執行役員 技術統括本部長である巨勢泰宏氏より、「適切なモデルの選択と最適化」、「あらゆるタイプのデータ活用」、「責任あるAI」、「AI エージェントの開発」という4つの課題に合わせた新機能が紹介された。

AWSジャパン 常務執行役員 技術統括本部長 巨勢泰宏氏

 まずは、「適切なモデルの選択と最適化」だ。AWSでは、生成AIアプリケーションの開発基盤として「Amazon Bedrock」を提供している。巨勢氏は、「毎日、数万社の企業が本番環境でBedrockを利用しており、この1年だけでも、利用量は約5倍に増加した。さらにSalesforceやSAPといった世界有数の独立系ソフトウェアベンダーも、生成AIアプリケーションを提供するためにBedrockを活用している」と説明する。

 Bedrockの採用が進む理由のひとつが、多種多様な基盤モデルを使い分けられることだ。随時、モデルの選択肢を拡充しており、re:Inventでは、新たに2つのLLMプロバイダーが追加。ソフトウェアエンジニアリングに特化したモデルを開発する「poolside」と高品質な動画を高速生成する「Luma AI」のモデルが加わった。Stability AIの画像生成モデル「Stable Diffusion 3.5」にも対応している。

 Amazon自身も、新たにマルチモーダルに対応したモデルとして「Amazon Nova」を提供開始。6種類のモデルが用意され、複雑な推論タスクに対応する Premier以外の5モデルはすでに一般提供が開始されている。

 加えて、Bedrockでは、基盤モデルのマーケットプレイスである「Amazon Bedrock Marketplace」の一般提供も開始しており、新興・専門プロバイダーの100を超えるモデルにアクセスできる。今話題のDeepSeekの「DeepSeek-R1」も利用でき、日本からもKARAKURI、Preferred Networks、Stockmarkがモデルを公開している。

Amazon Bedrockのモデルの選択肢を拡大

Amazon Nova の提供開始

 また、モデルの選択によってサイズやコストを決められるが、それだけでは最適化とはいえない。「重要なのはアプリケーションが生成AIに要求するコストと精度と性能にどう対処するか」(巨勢氏)であり、コストを抑えながら、性能を最適化する「モデルの蒸留」という手法も登場している。これは、大規模で高性能な基盤モデルの出力結果やプロンプトを抽出して、ユースケースに特化した小規模な基盤モデルに追加学習させることで、精度を高めていくという技術だ。

 この蒸留に必要なトレーニングの管理やモデルパラメータの重み付け、調整といった専門家が必要なプロセスを提供するマネージドサービスが、「Amazon Bedrock Model Distillation(プレビュー)」になる。この機能によって、大規模モデルと同等の精度をユースケースに特化した小規模モデルで実現でき、元モデルよりも最大5倍高速に動作させ、最大75%コストを削減することも可能だという。

 その他にも、体験向上とコスト削減のための機能として、繰り返し使用するトークンを安全にキャッシュしてコストを最大90%、レイテンシーを最大85%削減可能な「Prompt Caching(プレビュー)」、プロンプトの内容に応じて最適なモデルを選択することでコストを最大30%削減する「Intelligent Prompt Routing(プレビュー)」の機能を発表している。

Amazon Bedrock Model Distillation

 続いてはモデルの能力に加えて、生成AIの活用に欠かせない「あらゆるタイプのデータ活用」のためのアップデートだ。

 RAGの仕組みを構築できるマネージドサービス「Amazon Bedrock Knowledge Bases」においては、扱えるデータの種類を拡張した。構造化データに対して、自然言語でクエリしてデータを取得できるようになったのに加えて(SageMaker、SageMaker Lakehouse、Redshiftに対応)、グラフデータベースに対応して、より関連性の高い応答が生成できるようになっている。

 また、マルチモーダルなコンテンツを活用するために、情報資産のデータ化を自動化する「Amazon Bedrock Data Automation(プレビュー)」を追加した。非構造化データを解釈して、構造化データとして出力する機能であり、高度な文書処理やビデオ分析などの幅広いユースケースに適応可能だ。

Amazon Bedrock Knowledge Basesが扱うデータの種類を拡張

 「責任あるAI」を推進するためのアップデートでは、有害な出力や入力を回避する仕組みを提供する「Amazon Bedrock Guardrails」を強化した。新たに追加された「Automated Reasoning Check(プレビュー)」は、モデルの応答がポリシー通りに動作しているかを検証する機能であり、数学的な手法を用いて自動推論のポリシーが適用される。

Amazon Bedrock Guardrails Automated Reasoning Check

 「AIエージェントの開発」も強化した。「Amazon Bedrock multi-agent collaboration(プレビュー)」では、特定タスクを実行するエージェントから一歩進んだ、複数ステップを要する複雑なタスクに対応できるエージェントチームをコーディングなしで構築・展開・制御できる。

複数の専門エージェントが連携するエージェントチームを構築できる

 巨勢氏は、「今後も、ビジネス上に存在する“重労働”をオフロードできるテクノロジーを開発して、本来ビジネスで取り組むべき、継続的な発明に集中できるようにする。そのために、日本ユーザーの声を真摯に聞きつづけ、AWSの進化に活かしていきたい」と締めくくった。

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