このページの本文へ

ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第807回

Core Ultra 200H/U/Sをあえて組み込み向けに投入するのはあの強敵に対抗するため インテル CPUロードマップ

2025年01月20日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

NVIDIAのJetson AGX Orinに対抗するには
Core Ultra 200Hシリーズでないと太刀打ちできない

 インテルにエッジ・コンピューティング向けの選択肢がないことを端的に示したのが下の画像である。

GPU性能では2048コアのJetson AGX Orinに軍配が上がるが、CPUは最大でも2.2GHz駆動のCortex-A78AE×12なのでトータル性能では上、ということであろう

 要するにNVIDIAのJetson AGX Orinと戦おうとすると、Core Ultra 200Hシリーズでも持ち込まない限り太刀打ちできない、ということであろう。

 ただこれも微妙なところで、Jetson AGX OrinはAmpereベースのGPUコア(32SM:2048 CUDA core)が処理のメインであって、Cortex-A78AE×12はそのCUDA Coreに処理をさせたり、あるいは入出力をつかさどるのがメインという使い方になる。

 一方Core Ultra 200HはメインはCPUであり、NPUは12TOPSしかないので、AI処理はむしろGPUをメインにすることになるが、一番性能が上のCore Ultra 9 285HでもGPU TOPSは77TOPSに過ぎない。NPUとCPUまであわせれば99TOPS、というのは理論上の話で、実際にはうまく処理をそれぞれに分散させないとこの数字は出ない。というより、一番遅いユニットの処理の完了にタイミングを合わせる形になるから、実効性能は下がる。

 したがって、むしろAI処理以外の部分を高速化することで、トータルでの性能は上とアピールしたいのだろうが、これアプリケーションを組む開発側にとっては相当手間がかかる話であって、実際にAIを利用するエッジ向けアプリケーションでJetson AGX Orinをしのぐ性能を出すのは相当困難であろうと思われる。

 いや先程例に出した無人POSであればJetson AGX Orinよりも明らかにCore Ultra 200Hの方が適しているのだろうが、逆にエッジAI向け(例えばカメラを組み合わせた画像認識/画像識別による製造ライン管理や欠陥検出、監視カメラと連動した警報装置、etc...)には現状Jetson AGX Orinの方が適している。その意味ではCore Ultra 200Hは本当に「ほかに対抗すべき製品がない」というギリギリの選択だったのだろう。

 加えて言えば、「ならCore Ultra 200Hも組み込み向けSKUにすれば?」という案がおそらくは取れない。理由はCPUタイルにTSMCのN3Bを使っているためである。TSMCは別に長期供給ができないわけではなく、いまだに130nmや90nmのプロセスを提供しているし、先端プロセスでもN3AやN5A、N7Aといったプロセスは自動車向けということで長期供給が保証されている。

 N7や16FF/12FFCなども同じで、これらは半導体ベンダーから依頼があれば長期にわたりプロセスそのものが提供される。ところがN3Bは、おそらくこうしたことになっていない。そもそもインテル自身が、たまたまAppleが使うのをやめた関係で空いた枠を購入できたという理由で契約しているし、そのため長期契約にはなっていない。

 これはもともとここはIntel 20Aを使う予定で、ただしIntel 20Aだけに頼ると危険ということでTSMC N3Bも並行して契約している結果である。加えて、TSMC自身がN3Bを長期提供する予定がない。もともとほとんどの顧客はN3Eに移行してしまっている。

 したがって、インテルとそのほか向けの若干の供給が終わったら、おそらくN3EあるいはN3Pなどの提供に切り替えると予測される。仮にインテルが長期契約を望んだとしても、その場合はN3Eへの移行を促される形になると思われる。組み込み向けSKUがないのは、こういうどうしようもない理由もあってのことである。

 「Arrow Lakeの供給が終わるころにはPanther Lakeが出ているから、それに切り替えればいいのでは?」という意見も出てきそうだ。PC向けはそれでいいのだが、組み込み向けはそう簡単ではない。Arrow Lakeで構築したシステムがPanther Lakeで同じように動くことの検証は、猛烈な手間と追加コストになる。というか、時には仕様が変わって動かなくなったりするなど、使い方が変わったりするケースもあるため、油断ができない。

 検証だけで済めばいいのだが、動かなくなったりすると大変で、その分を別のシステムで補ったりしないといけなくなる。こういうことが現実に起こり得る(インテルでも過去の製品で発生している)から、顧客は組み込み向けSKUを求めるのであって、それをわかっていながら非組み込み向けSKUの製品を提供せざるを得ないあたり、本当に追い詰められているのだろう。

カテゴリートップへ

この連載の記事

ASCII倶楽部

注目ニュース

  • 角川アスキー総合研究所

プレミアム実機レビュー

ピックアップ

デジタル用語辞典

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン