このページの本文へ

前へ 1 2 3 4 5 6 7 次へ

最新パーツ性能チェック 第448回

Ryzen 9000シリーズの成長を見守る

TDP 105W動作にするとRyzen 7 9700X/Ryzen 5 9600Xはどの程度化ける? レッドゾーン寸前を攻める絶妙な設定だが、ゲームでの効果は期待薄

2024年09月03日 13時00分更新

文● 加藤勝明(KTU) 編集●北村/ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 Ryzen 9000シリーズのローンチは決して順風満帆と言えるものではなかった。当初7月31日発売と予告したものの初期ロット品の一部に問題があったとして発売日が延期。まず8月10日に「Ryzen 7 9700X」および「Ryzen 5 9600X」が解禁され、8月23日に「Ryzen 9 9950X」と「Ryzen 9 9900X」という2段階を経て発売された。

 新Ryzenの性能は前世代を上回ってきたものの、なにもかもがすごい! と評価できるものではなかったことは確かだ。特にTDPを65Wに絞ったRyzen 7 9700XおよびRyzen 5 9600Xは、前世代と大きく変わらなかった部分も散見された。だがTDPを絞ったことで空冷クーラーでもCPUが十分冷えるという扱いやすさ、さらに消費電力も小さいという特徴もみられた。

 筆者としてはRyzen 7 9700XおよびRyzen 5 9600Xこそが、Zen 5アーキテクチャーの真髄を味わえる製品であると考えている(3D V-Cacheがないのは残念ではあるが)。

 だが市場はどうもベンチマーク、特に「CINEBENCH 2024」のようなシンプルなマルチスレッド性能の上昇を望んでいる層も少なくないらしい。その声に応えるように、8月中盤頃から「AGESA 1.2.0.1a Patch Aにおいて、Ryzen 7 9700XおよびRyzen 5 9600XのTDPを105Wにする」という“噂”がX(旧Twitter)に流れた

 この噂を裏付けるかのように8月末、MSIがAGESA 1.2.0.1準拠のβBIOSでいち早く実装した。「105Wモード」という設定項目をBIOSで有効にすることでRyzen 7 9700XおよびRyzen 5 9600XがTDP 105Wで動作するという。

MSI「MEG X670E ACE」向けに8月29日付けで配布されたバージョンはAGESA 1.2.0.1準拠であり、これを導入するとTDP 105Wモードを有効にする項目が追加される(赤線部)

 RyzenはもとよりPBO(Precision Boost Overdrive 2)を利用してTDPをあげることが可能な設計であり、MSIの実装もこれを利用していることは想像に難くない。筆者としてはTDPを65Wに絞っていても前世代の105Wと同等以上の戦いができるRyzen 7 9700XおよびRyzen 5 9600Xの良さをスポイルしてしまうような実装ではないかと思うわけだが、性能を出したい人の心理も十分理解できる。

 前置きが長くなったが、今回は筆者の手元にある検証環境(ASRock「X670E Taichi」)において、Ryzen 7 9700XおよびRyzen 5 9600XをTDP 105Wとして運用した場合、いったいどの程度パフォーマンスが伸びるのか? 簡単ではあるが検証していきたい。

TDP 105W設定にするには?

 AGESA 1.2.0.1準拠のBIOSがない状況(つまりAGESA 1.2.0.0A Patch A)でRyzen 7 9700X/ Ryzen 5 9600XのTDPを105Wに設定するには2通りの方法がある。手軽さを重視するなら「Ryzen Master」を利用するのが良いが、BIOS設定からPBOのパラメーターを直接変更する手も使える。筆者は余計なツールは一切入れたくない派であるため、BIOS設定を利用することにした。

 PBOの設定は「PPT」「TDC」「EDC」という3種類のパラメーターを変更することでCPUが使えるPower Limitを加減できる(インテルで言うPL1/ PL2などに相当するものだ)。PPTは「ソケットが受け取れる電力(W)」、TDCは「熱設計上許容できる電流(A)」、EDCは電気的設計上許容できる電流(A)」を意味し、定格より高くすればそれだけクロックのブーストが長続きするようになる。RyzenではTDPによりPPT/ TDC/ EDCの設定値がある程度決まっている。

RyzenのTDPと、PPT/ TDC/ EDCの設定値の関係。Ryzen 9000シリーズにおけるTDP 105W時の設定値は前例がないため、前世代の値を流用した。また、TDP 170W設定におけるPPTはRyzen 9 9950Xでは200Wだが、7950Xでは230Wとなる

 PPTはTDPの1.35倍と覚えておけばいいだろう。TDCやEDCもブーストの挙動を左右するパラメーターではあるが、あまり重要な要素ではない。ちなみにTDP 170W設定だけPPTの倍率が1.17倍になっているが、これはRyzen 9 9950XのPPTが例外的に低く(200W)設定されているためだ。同じTDP 170WのRyzen 9 7950Xでは230W(これだと1.35倍)になっている。

X670E TaichiにはまだAGESA 1.2.0.1準拠のBIOSが来ていないため、PBOを利用してTDP 105W動作をシミュレートする。ちなみに単位はmW/ mAなので142Wなら142000と入力する必要がある。142mWでも動作するが超もっさり動作になるので注意(これはこれですごい)

検証環境は?

 今回はRyzen 7 9700XおよびRyzen 5 9600XのTDP設定を65W(デフォルト)・105W・120W設定にした場合にパフォーマンスがどう変化するかを検証する。PPT/ TDC/ EDCの設定値は以下の通りとなる。また比較対照としてTDP 105W設定のRyzen 7 7700XおよびRyzen 5 7600Xを準備した。

  • TDP 65W:PPT 88W/ TDC 75A/ EDC 150A
  • TDP 105W:PPT 142W/ TDC 110A/ EDC170A
  • TDP 120W:PPT162W/ TDC 120A/ EDC 180A

 検証環境はRyzen 9000シリーズのレビュー記事(1回目・2回目)と共通だが、チップセットドライバーが検証用β版から正式版(6.07.2.037)に変わっている。その影響が出ているのか、特にゲームのフレームレートにおいて前回の検証と大きく異なっている部分がある。ゲーム側のアップデートも影響している可能性もあるが、具体的にどこで差がついたかという点についてはまだ詰め切れてない点はお詫びしたい。また、検証の実施時期の問題から、分岐予測改善のコードが含まれるとされる「KB5041587」は未導入である。

 今回の検証環境もSecure BootやResizable BAR、メモリー整合性やHDRといった機能は一通り有効とした。GPUドライバーはRadeon Software 24.7.1である。

テスト環境
CPU AMD「Ryzen 7 9700X」 (8コア/16スレッド、最大5.5GHz)
AMD「Ryzen 5 9600X」 (6コア/12スレッド、最大5.4GHz)
AMD「Ryzen 7 7700X」 (8コア/16スレッド、最大5.4GHz)
AMD「Ryzen 5 7600X」 (6コア/12スレッド、最大5.3GHz)
CPUクーラー NZXT「Kraken Elite 360」 (簡易水冷、360mmラジエーター)
マザーボード ASRock X670E Taichi (AMD X670E、ATX、BIOS 3.06)
メモリー Micron CP2K16G56C46U5 (16GB×2、DDR5-5200/ DDR5-5600)
ビデオカード AMD Radeon RX 7900 XTX リファレンスカード
ストレージ Micron「CT2000T700SSD3」 (NVMe M.2 SSD 2TB、PCI Express Gen5)
電源ユニット Super Flower「LEADEX PLATINUM SE 1000W-BK」 (1000W、80PLUS Platinum)
OS Microsoft「Windows 11 Pro」 (23H2)

前へ 1 2 3 4 5 6 7 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事