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自治体やエンタープライズのkintone案件の課題を洗い出す

あのシステムダウンは避けられなかった? トヨクモが自治体kintoneの反省会を実施

2024年01月16日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真提供●トヨクモ

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 kintone関連サービスを手がけるトヨクモは自治体とエンタープライズでのkintone利用に関するセミナー「多くの住民/顧客と情報共有することで広がる自治体/エンタープライズDX」を開催した。ここでは自治体の利用にフォーカスを当て、自治体案件を拡大されたサイボウズと、システムダウンの憂き目に遭った神奈川県の登壇と後半の座談会をレポートする。

コロナ禍前後で採用自治体は十倍に 絶好調の自治体kintone案件

 今回トヨクモが手がけたセミナーは、kintoneの利用が増えてきた自治体とエンタープライズにフォーカス。登壇したサイボウズ社長の青野慶久氏は、自治体とエンタープライズ向けの取り組みについて説明した。

 コロナ禍以前、サイボウズは自治体のビジネス自体をほとんどしてこなかったという。大手ベンダーがほとんどで参入障壁が高いというのが実態だが、実際はkintoneで役立てることがいっぱいあると考えていた。「自治体に行くと、ニッチな業務がいっぱいあり、パッケージがありえなかった。公園で壊れた遊技を申請する業務用のパッケージなんて、絶対ない。年に数回の業務なのでスクラッチもない。でも、呼ばれないので、放っておいた(笑)」と青野氏は語る。そのため、2019年の段階では自治体での導入は30程度。しかし、今や採用自治体はその十倍近くに拡大しているという。

自治体のデジタル化に存在する壁

 こうしたニッチな業務にはノーコードで開発できるkintoneが向いている。kintone自体はデータベース、コミュニケーション、プロセス管理の機能を持つシンプルなサービスだが、APIで拡張サービズを組み合わせることで、さまざまな業務に対応できる。オンライン申請や情報公開であればトヨクモのFormBridgeやkViewer、帳票出力であればPrintCreator、メール配信であればkMailerなどだ。

 さらに自治体に向けてはkintoneも安価に提供されている。「『kintoneアカデミックガバメントライセンス』を活用いただければ、なんと最大4割引でご購入いただける。私たちも売れると思ってないので(笑)」(青野氏)はアピール。また、自治体の統一プラットフォームとしてkintoneを活用することで、部門ごとの垣根や情報のサイロ化を排除するという展開も推進している。kintoneアカデミックガバメントライセンスに加え、2022年4月に全職員導入ライセンスが導入され、さらなる低価格化も実現されているという。

 活用事例としては、「来なくていい市役所」を実現すべくオンラインフォームやLINEを活用している市川市、伴走パートナーとコミュニティの活用で職員自らが400以上のアプリを作った神戸市、作業時間5万時間、システムコスト10億円を目指して全庁導入を進めている北九州市などが披露された。

 追加で紹介されたのは、行政職員限定のユーザーコミュニティ「ガブキン」だ。自治体の職員や省庁職員であれば誰でも参加でき、現在は500団体/2000名を超える職員が参加。ノウハウを教える「ガブキン道場」や作った自治体アプリをテンプレートとして共有する「自治体kintoneずかん」、ガブキンYouTubeチャンネルなどの施策につながっている。「これが企業だとノウハウを教えたがらないのでなかなかうまくいかない。自治体はパブリックマインドがあるので、うまくいく」と青野氏は指摘する。

 エンタープライズの事例を紹介した青野氏は、最後に「ノーコードでリープフロッグ(カエル跳び)を!」をまとめる。「アメリカは転職が多いので、業務自体を理解していないことも多く、kintoneでアプリを作るのは大変。でも日本は長期雇用が多く、現場の業務に詳しいので、ノーコードツールが向いている。特に自治体の現場にkintoneを渡すと、どんどんアプリを作り、どんどん便利になっていく」と青野氏はアピール。デジタル敗戦国と言われる日本だが、ノーコードツールを使えば、DX先進国にカエル跳びすることができると語り、自治体との連携を呼びかけた。

うまくいった事例、課題のあった事例 神奈川県のコロナ対応

 続いて登壇したのは、神奈川県 健康医療局 医療危機対策本部室 主査の上村大地氏。コロナウイルス対応の事例を披露しつつ、課題に対してkintoneやトヨクモへのリクエストを行なった。

 1つ目は、飲食店や施設などがどのような感染対策を行なっているかを出力する「感染防止対策取組書・LINEコロナお知らせシステム」の事例。これは2020年の3月から利用開始し、5類になったつい先日まで使われ続けてきたという意味では「うまくいった」事例。kintoneにトヨクモのプラグイン(kViewer、FormBridge、PrintCreator、kMailer)を組み合わせることで、5日間という短期間で完成。「なにがよかったかというと、事業者自らが取り組み内容の登録や修正作業、発行作業までできること。僕らは手がかからなかった」と上村氏は語る。

 2つ目は課題を感じた「抗原検査キットの配布事業」の事例だ。ここではWebフォームに入力した人にクーポンを発行し、窓口でこのクーポンと抗原検査キットを交換できるようにした。ところが在庫のロジスティック周りを考慮し、1日あたりの受付件数に上限を設けたところ、申請フォームを分間500に拡大したもののアクセスが集中してしまった。そのため、受付開始時間には「アクセスが集中しております」、ようやく見られたら「本日の配布申請受付は終了しました」と表示されてしまった。Xでは「神奈川県、配布する気あるのか!」という県民の声も書かれたが、結果として20万キットは配布したという。

神奈川県のコロナウイルス対応について披露した上村氏

 また、上村氏曰く、国や自治体の課題として「役所のExcelは表がやたら多い」を挙げる。「医者の男性で当直が可能で県内の医局に派遣可能な人」を調査・照会する場合は、Excelのクロス表で回答させることが多いのだが、これをフォーム化するためにはすべて設問ごとに情報を付与させなければならない。しかも、神奈川県の場合は対象の医療機関が6000以上あったため、集計がとても大変だったという。

 最後、kintoneとトヨクモ製品にはまった人の要望として、上村氏は「分間アクセス制限が500じゃ全然足りない」「アクセス条件を超えても、回答上限までは待合室あればなあ(これは12月のリリースで実装済み)」「FormBridgeのAPIリクエスト上限がなんとかなればなあ」「FormBridgeで表を表現できるとなあ」「LGWAN接続サービスがもっと安くなればなあ」などを挙げた。

 さらに神奈川県のコロナウイルス対応を支援したワークログの山本純平氏も登壇。同氏は2020年3月の新型コロナウイルス感染症対策本部の立ち上げ初期から神奈川県庁のコロナウイルス対策に関わっており、前述した「感染防止対策取組書・LINEコロナお知らせシステム」や「抗原検査キットの配布事業」などを手がけてきた。

 山本氏は、アクセス過多に陥った抗原検査キットの配布について、「事前に何度もkintoneでやるのか確認したが、当時はあの方法しかなかった」と結果をある程度予想しながらの実施だったことを吐露する。その上で、サイボウズやトヨクモに対して、上村氏の「アクセス数のキャパシティ強化」に加え、「予約機能の充実」「アクセス過多を前提とした運用支援」「無料トライアルの延長」などをリクエスト。「自治体は予算要求のハードルが高い。1円でもかかると、予算要求が必要になる」とあわせて指摘した。

「カスタマイズが入ると対応してくれない」の声に対しては?

 続いて、登壇したサイボウズ青野氏、神奈川県の上村氏、ワークログの山本氏に加え、トヨクモ代表取締役社長の山本裕次氏、トヨクモクラウドコネクト社長の小川昌宏氏の5人が登壇し、座談会を行なった(関連記事:自治体kintone案件での反省から生まれた新会社トヨクモクラウドコネクト)。

 まずアクセス集中の課題について、トヨクモの山本氏は、「とにかく事前に知りたい。事前に知った上で、対策やボトルネックを打てるので」とコメント。とはいえ、人数も多いので、個別対応に限界があるため、新会社トヨクモクラウドコネクトを設立して対応するという。小川氏は、「新会社設立のために自治体を回らせてもらったが、新しい取り組みについては、ご期待を感じた」と語る。

自治体の期待を感じるというトヨクモクラウドコネクト社長 小川昌宏氏(一番右)

 神奈川県の上村氏は、「職員もシステムは苦手と言いつつ、しきい値やアクセス数についての感覚はある程度持っていたはず。その上で、システムってベンダー側が動かすものという前提を持っていたので『落ちちゃうんだ』と感じた。これが反省」と語る。サイボウズの青野氏は、「ついにここまで要求が上がってきたかという認識。現場でライトに使えるツールというレベルだったのが、あれもできるんじゃないの? これもできるんじゃないの?と、だんだん要求が上がってきた」と語る。

 青野氏は「おもちゃのよう」と言われた黎明期パソコンが、今やすっかりハイスペックになってきた歴史を振り返り、ノーコードツールもその道をたどっていくと指摘する。「成長のスピードは速いと思う。なにしろ(クラウドの場合)システムをわれわれ側があずかっているので、僕たち側でリソースを追加できる。今からワクワクしている」と語る。

 続いて、トヨクモの対応についてワークログの山本氏は、トヨクモのカスタマーサクセス対応を高く評価しつつ、「唯一気になるのが、カスタマイズが入ると対象外という点」だと指摘した。「基本機能に関する対応は速いし、丁寧ですが、ちょっとカスタマイズが入ると、個別対応はしてくれない印象」と山本氏は語る。

 これに対してトヨクモの山本氏は、「言い訳ばかりで申し訳ないですけど、いろいろな要望をいただき、1年200近くの改善を実現してきた。この点に関してはご理解いただきたい」とコメント。中小企業向けだったkintoneが、自治体やエンタープライズで利用されるようになり、顧客の要望を聞いてできることがドンドン増えてきたのも事実。今後もトヨクモクラウドコネクトでノウハウを溜めていくことで、回答できる内容は幅広くなると期待を示した。

 トヨクモクラウドコネクトの小川氏は、「今までベンダーとしてできなかったつなぎあわせのサポートを提供する。SaaSサプライヤーのハブ役としていろんな役割を担えると思っている」とコメントする。これに対して、ワークログの山本氏も、「世の中、相談できないサービス事業者はけっこう多い。相談できる窓口を設けてもらえるだけで、こちら側で対策できることはあるかなと思う」とコメントした。セミナーでは自治体のみに限らず、エンタープライズ対応の講演や座談会も行なわれた。

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