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倹約的なアーキテクトとは? AmazonボーガスCTOが今一番気になるコストとAIを語る
2023年12月07日 09時30分更新
新しいAIがあるから、古いAIが要らないわけではない
コストについて深掘りした前半に続き、後半もまたもやマトリックスを模した動画でスタート。AIに対して過度な期待を寄せる予言者(オラクル)に対して、ボーガス氏はひたすら現実味のある回答を返す。そして、オラクルは「テクノロジーを予測するのは難しいわね。将来はSFじゃないんだから」とため息をつく。AIアシスタント「Amazon Q」をリリースしたばかりのAWSのCTOボーガス氏がAIに否定的なわけではなく、単に現実的なだけだ。
ボーガス氏はAIについて歴史を振り返る。「アリストテレスは心が人間を動かすと思っていたが、プラトンは脳の中の記号だと考えた。実際、プラトンの国家論を読むと、その都市国家ではロボットが仕事をしていたのだ」と指摘する。しかし、予測にもかかわらず、その後25世紀はなにも起こらず、20世紀にようやくコンピューターが生まれる。「脳にある記号を模して、人間と同じことができるでは?」と多くの研究者が考え、今のコンピューターの基盤を構築したアラン・チューリングも「マシンは考えるのか?」をテーマとしたという。その後、人工知能として生まれたのが、いわゆる「エキスパートシステム」になる。エキスパートシステムは人間の意思決定をエミュレートし、専門家のように推論できるコンピューターで、若きボーガス氏も設計に携わっていたという。
そして、何度か目のAIブームの後、ディープラーニングの登場やアルゴリズムの改善、コンピューティングの進化がAIの可能性を開き、自然言語処理の分野において機械学習モデルのTransformerとLLMの台頭により、生成AIの時代が幕開けとなる。ここまではよく知られているAIの歴史だが、ボーガス氏は「今日はその話をしたいわけではなく、一歩前の話、昔ながらのAIの話をしたい」と語る。
ボーガス氏が披露したのは、いわば生成AI以前のAI事例になる。「新しいAIがあるから、古いAIが言わないわけではない。お客さまの多くを見ていると、素晴らしいシステムを昔ながらのAIで作っています。すべてを大規模言語モデルでやらなければいけないわけではない」とボーガス氏は語る。
たとえば、米の種子バンクを運営しているフィリピンの国際米研究所(IRRI:International Rice Research Institute)は利用可能な種子をAIで選別し、cergenxは新生児の脳損傷を迅速に知るための測定をAIで行なっている。また、Precision AIはドローンで雑草の配布状況をAIで把握し、農薬散布を最適化している。
さらにアフリカの地図データをオープン化しているDigital Earthは、森林伐採や違法採掘などの検知でAIを活用している。「デジタルデータがしっかりしていなければ、AIはきちんと働かない。では、大きなわらの束から針をいかに検出するか? それには磁石を使う。その磁石が機械学習だ。われわれは機械学習によって、わらの中から意味を取り出し、ソリューションを構築するのだ」とボーガス氏は語る。
児童の性的虐待コンテンツを検知するSaferが示す「善いAI」
ボーガス氏が紹介したのは、おもに社会課題の解決に向けた善いAIの事例だ。児童の性的虐待を防ぐためのソリューションについてThornのHead of Data Scienceであるレベッカ・ポートノフ氏が登壇する。
Thornの「Safer」はSNSやコンテンツサービスから児童虐待の証拠につながるコンテンツ(CSAM:Child Sexual Abuse Material)を検出する。CSAMファイルは、2022年には北米で8800万以上見つかっているという。ポートノフ氏は、児童虐待の証拠コンテンツが発見され、警察に通知され、虐待者が逮捕されるまでの実話を披露。「私たちのテクノロジーは子どもたちの悪夢を止める力を持っている」(ポートノフ氏)と語る。
Saferはハッシングとマッチング、クラス分類器を用いて性的虐待につながるコンテンツを検出する。機械学習を活用すべく、データをトレーニングし、モデルをユーザーに展開し、データセットを整備している。また、プライバシー保護やThorn内での処理の透明性については人が関与することで、精度を高めているという。
ポートノフ氏は、「私たちが作っているモノは未来に重要な意味を持っているものです。でも、インパクトをもたらすためには、技術だけでは十分ではありません。コンテンツプラットフォーマー、法執行機関、政府、遺族、ここにいるみんなの協力が必要なんです」と語り、Marketplaceで展開されているAPIベースのCSAM検知サービスである「Safer Essential」を紹介した。
ボーガス氏は、「これがテクノロジーのパワー。私たちの持っている力です」と聴衆に対して、行動することの重要さをアピールする。「テクノロジーというのは善の力にもなる」と語るボーガス氏は、自らの行動について語り始める。