11月上旬、岸田首相の生成AIを使って作成されたフェイクニュース動画が問題になりました。
5日、日本テレビは自社のニュース番組のロゴが使われてはまずいということで強めに注意を呼びかけましたが、6日、松野博一官房長官は「罪になる場合もあるのでくれぐれも慎んでほしい」と記者会見時に、やや抑制的な物言いをしました。もちろん、フェイクニュースを流すことは、生成AIに関係なく、現行法で刑事罰にも当たる可能性のある行為です。
その後、14日に、YouTubeからAI生成動画に関するガイドラインが出ましたが、そこでも公人のパロディは必ずしも規制対象にするわけではないという方針が出されていました。これはどちらかというと、来年に大統領選を控えたアメリカでフェイク動画拡散の可能性が高まってくるため、事前対策をしているという側面があると思います。
生成AIの登場でフェイクの作成が容易になったとも言われはじめており、どのように対峙していくのかは社会的な課題になりつつあります。
フェイクなどのリスクを軽減する運用がAIの国際指針に
生成AI規制について、大きなスケールの話としては、広島AIプロセスの動きがあります。5月に開かれたサミット後、行動指針が取りまとめられることになっていましたが、10月30日に「G7首脳声明」として発表され、合わせて、AI開発者を対象にした「広島プロセス国際指針」が公表されました。
このなかでは、「リスクベースのアプローチ」を取るとされており、AIの急激な発展によるリスクをいかに軽減するかに力点が置かれた内容になっています。市場投入前にリスクや脆弱性を確かめるとか、電子透かしを含めてAIが使われているかどうかを明示するとか。
一方で、アメリカ政府がよく言っていることですが、気候変動などの世界的な課題に対処するためのAIシステム開発を優先しなさいとか、国際的なAIの技術規格の開発を推進するべきと言った内容になっています。ただし、指針の実践は「(国や地域によって)独自のアプローチをとることができる」としており、各国に実践内容は任せられている内容です。
そして公表に合わせて、アメリカのジョー・バイデン大統領により大統領令「AIの安心、安全で信頼できる開発と利用に関する大統領令」が発表されました。
広島プロセスの指針も反映されているように思えますが、新たにびっくりするようなものが発表されたということではありませんでした。
大統領令の冒頭では、その意図が「リスク管理」と「産業育成」であることが明確化されています。8項目に分けられた主要な構成要素では、「安全性とセキュリティーの新基準」「米国民のプライバシー保護」など、これまで主張されてきた安全性の観点が強調されているように見えます。一方で「イノベーションと競争の促進」「外国における米国のリーダーシップの促進」といった促進の側面も強調されています。
新しいポイントとしては「政府によるAIの責任ある効果的な利用の保証」が項目としてあげられ、「政府機関に納入されるAIについては事前に中身のチェックを課した」という点です。どの程度踏み込んで確認するかは、今後の注目点になってきます。
昨年よりAI関連の規制法案の提出が模索されていますが、アメリカの下院は野党共和党が過半数を占める、いわゆる「ねじれ」状態で、成立の目処が経っていません。大統領令は法律ほど強い義務は課せませんが、政府機関への納入物のコントロールを通じ、AI開発企業に影響力を行使しようということのようです。
ただ、過去に発表されてきた「15社の大手企業が自発的にコミットメントした活動を含む」内容も踏襲するという文言もあり、OpenAIやマイクロソフト、グーグルなどのAI分野を牽引する米国企業と内容については調整済みであると考えていいでしょう。全体としては、民間に露骨に介入するというスタンスではなく、国家レベルの危険性の問題を除き、民間の方針に任せるというこれまでの方針を継続するころに落ち着いたという印象です。
その一方、トップダウンで大きなルールを作り全体をコントロールしていこうとする欧州連合(EU)の考え方とするどく対立していることが顕著になってきました。
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