このページの本文へ

一気通貫での柔軟なサプライチェーン最適化を目指しPSIモデリングを採用

複雑なサプライチェーン計画を独自の数理技術で最適化、キヤノンITS「SCPlanet」発売

2023年11月20日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)は2023年11月17日、サプライチェーン計画ソリューション「SCPlanet」の提供開始を発表した。生産計画、物流計画のライブラリ群で構成されるフレームワークで、多数の制約条件を加味したサプライチェーン計画の最適化を、同社独自の数理技術を用いた自動化で支援する。

 また同日に開催された2023年の事業説明会では、同社社長の金澤 明氏が、今年スタートした中期経営計画の基本戦略やその実現に向けた取り組み、事業モデルの転換を掲げる長期事業ビジョン「VISION 2025」の進捗について報告した。

サプライチェーン計画ソリューション「SCPlanet(エスシープラネット)」の概要

キヤノンITソリューションズ 代表取締役社長の金澤 明氏。2025年目標に向けた事業変革と事業成長の進捗などを説明した

最適なサプライチェーン計画を自動立案する「SCPlanet」を発売

 今回発売されたSCPlanetは、PSI(入庫/出庫/在庫)計画を中心としたサプライチェーン計画を最適化するためのソリューション。多段階/多拠点の生産/物流工程におけるPSIの各状況を把握し、各拠点/各工程における生産と補充のタイミングを自動的に決定できるという。

 具体的な製品形態は、パッケージ製品ではなくライブラリ群で構成されたフレームワークであり、企業の既存ERP/SCMとインテグレーションするかたちで導入される。同フレームワークで稼働する、幹線輸送(一次輸送)計画と輸配送(二次輸送)計画の支援機能もオプションとして提供する。

SCPlanetの導入イメージ。サプライチェーン計画を最適化するソリューションとして、他の業務システムと連携するかたちで導入される

 事業説明会で説明を行った同社 執行役員 製造ソリューション事業部長の岩男公秀氏は、「VUCA(不確実性)の時代」を迎えたなかで、製造/物流領域においては現在「サプライチェーンの最適化」と「強靱化(レジリエンス)」が強く求められていると説明する。「先が見えないときだからこそ、需要の波動や不測事態に対応できる柔軟さが必要になっている」(岩男氏)。

 しかしながら現状は、拠点や工程ごとに分断された「計画業務のサイロ化」、複雑な計画業務のスキルを持つ「計画担当の属人化/職人化と過負荷」、そしてメンテナンスできないほど複雑なマクロや計算式が組み込まれた「Excelベースでの計画」といった課題があり、理想にはほど遠いという。

現状のサプライチェーン計画が抱える課題

 そこで今回、キヤノンITSではSCPlanetを提供開始した。

 「多段階、多工程、多階層の複雑なサプライチェーン計画において、さまざまな制約や条件がありながらも、サプライチェーン全体を一気通貫で瞬時に連鎖して、すべてのPSI情報を更新する。連鎖するPSIの仕組みだからこそ、従来なしえなかった突発的な変更にもしなやかに修正、反映できる、革新的な計画業務を実現する」(岩男氏)

 基本的な動作原理は、複雑な多段階の生産工程と物流工程のPSIを連携させたPSIネットワークを仮想空間に構築することで、下流で発生するデマンドに応じたPSI情報を、上流にさかのぼって決定するというものだ。デマンドの変化が発生した場合、それに連動して各段階のPSI情報も瞬時に更新される。

 「たとえば、この図(下右図)のような製造と物流を行っている場合、SCPlanetはこの業務の流れをSKU(在庫管理の最小単位)と工程の連鎖構造としてモデリングし、合わせて各工程で行う意思決定内容を定義する。このようにPSIネットワークをモデル化することで、意思決定相互の関連と、最適化を行うポイントおよびその内容が明らかになり、全体の最適化が可能になる」(岩男氏)

SCPlanetの動作原理(左)と、製造/物流業務のモデリングの例(右)

 SCPlanetをパッケージ製品ではなくフレームワークとして提供する理由について岩男氏は、顧客の既存システムと柔軟に連携ができて業務にフィットすること、顧客固有の業務形態や制約条件にもすべて対応できることを挙げた。「計画業務システムを長年提供してきた立場から、意思決定を適切に支援できる使い勝手と、柔軟な導入形態や構成を取ることがポイントだと考えている」(岩男氏)。

 なお、キヤノンITSでは数年前からSCPlanetの開発を進めてきており、今回の発表前からSCPlanetを導入/利用している企業も「多数ある」(岩男氏)という。今回の説明会では4社における導入事例と利用シーンを紹介した。

SCPlanetの導入実績と利用シーン

 SCPlanetの提供価格は個別見積もり。ターゲット顧客層は、製造業および流通業の、年商500億円以上の企業としている。また、SCPlanetは基幹業務トータルソリューションの「AvantStage」ファミリーに追加される。キヤノンITSでは、AvantStageを軸としたビジネス全体で、2025年に100億円以上を売り上げることを目標としている。

堅調に推移する「3つの事業モデル」への変革

 同社社長の金澤氏は、2025年までの中期経営計画の基本戦略や、VISION 2025の進捗状況などを説明した。

 キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)グループでは、中期経営計画(2022~2025年)において、ITソリューション事業を2022年の売上2414億円から、2025年に3000億円規模に成長させる目標を打ち出している。キヤノンITSは、そのITソリューション事業の成長を牽引する役割を担う存在だ。

2025年のITソリューション事業の売上目標(キヤノンMJグループ全体、およびキヤノンITS単体)

 2020年には、キヤノンITSとして“2025年にありたい姿”を示すVISION 2025を策定した。ここでは従来の「システムインテグレーションモデル」だけでなく、「サービス提供モデル」「ビジネス共創モデル」も加えた3つの事業モデルを展開する将来像を描き、現在はその実現に向けてリソースのシフトや先行投資を進めている。

 今年スタートした2023~2025年の同社中期経営計画では、顧客課題を共に解決し、顧客のビジネスゴールを目指すという基本戦略のもと、3つの事業モデルごとに提供価値を定めた。

 「サービス提供モデルでは、付加価値が高く使いやすいICTサービスを幅広いお客様に提供する。システムインテグレーションモデルでは、課題解決型SIを起点として、お客様のITライフサイクルをフルサポートする。ビジネス共創モデルでは、共想共創活動の実績積み上げを通じて進化する、多様なサービスによる価値提供を図る」(金澤氏)

VISION 2025で3つの事業モデルを展開する将来像を描き、そこに向けた変革に着手している

 またVISION 2025では、キヤノンITSの強みと得意領域を生かせる7つの重点事業領域として「スマートSCM」「エンジニアリングDX」「車載(CASE)」「金融CX」「アジャイル開発プラットフォーム」「クラウドセキュリティ」「データセンター」を定め、これらの事業領域で「2025年売上の25%以上を担う」ことを目標としている。今回発表されたSCPlanetは、このうちのスマートSCM事業に含まれるソリューションだ。

 なお2023年の進捗として、サービス提供モデルの売上見通しは計画比+5%、システムインテグレーションモデルは同 計画比+4%になったことを明らかにした。またビジネス共創モデルでは、累積案件数が2021年比で約6倍になったと紹介した。

 「2025年の経営目標として、全社売上は2021年比で1.5倍を目標としている。その中で、システムインテグレーションモデルの売上は1.3倍、サービス提供モデルは2倍への拡大をもくろんでいる。各事業モデルは順調にトップラインを伸ばしており、2023年は当初計画を上回る進捗となる見込みだ。引き続き人材育成や事業強化、外部連携強化に取り組み、着実に歩みを進めていく」(金澤氏)

2025年の重要経営目標と現在の進捗状況

カテゴリートップへ

  • 角川アスキー総合研究所
  • アスキーカード