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「産業革命」時代の到来にはクラウドが必須要件に

2024年に日本企業が押さえるべきクラウドトレンド ― ガートナージャパン発表

2023年11月16日 07時00分更新

文● ASCII

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 ガートナージャパンは、2023年11月15日、2024年に日本企業が押さえておくべきクラウドコンピューティングのトレンドを発表した。

日本企業が押さえるべきクラウドコンピューティングのトレンド

 ガートナージャパンは、業務にデジタルを活用するというレベルを大きく超えた「デジタルを前提とする新しい産業」すなわち「産業革命」の時代が到来し始めているとし、そこではクラウドが必須要件になるという。

 ガートナージャパンのディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリストの亦賀忠明氏は、「すべての企業や組織は、時代の変化やクラウド・コンピューティングの進化に対応し、『クラウドは使えるのか』『クラウドはコストが下がるのか』といった『基本の確認』の継続から脱却し、次のステージに向けてリテラシーを加速度的に高める必要があります。こうした企業は、クラウドの先行企業と比べると既にかなりの周回遅れになっています」と提唱する。

 ガートナージャパンの挙げたクラウドコンピューティング11のトレンドは、以下となる。

2026年問題

 クラウドコンピューティングというキーワードが、2006年に登場し、2023年においても「クラウドはまだ早い」と議論するユーザーが相当数存在する。

 亦賀氏は、「産業革命クラスの変化が到来している中、その変化に対応できない企業は、クラウドが誕生して20年になる2026年には、ますます時代に取り残され、企業としての競争力の低下、企業自体の存続の危機につながる可能性があります」と述べる。

クラウドの正しい理解

 ガートナーでは、クラウドコンピューティングを「スケーラブルかつ弾力性のあるITによる能力を、インターネット技術を利用し、サービスとして企業外もしくは企業内の顧客に提供するコンピューティング・スタイル」と定義している。企業は、この定義を理解し、時代とクラウドに適したITの導入・運用スタイルに変えていく必要がある。

 企業がクラウドによる真のメリットを得るには、クラウドを正しく理解し、SIに丸投げせずに「自分で運転」できるエンジニアを自社に増やす必要がある。

コスト最適化

 クラウドインテグレーションは、従来型の手組みによる要件ファーストなSIとは異なり、ベンダー作った標準に業務を合わせる「Fit to Standard」のアプローチを原則とし、要件定義は最低限にすることが前提となる。

 クラウドインテグレーションにおいては、SIに丸投げせずに、自分でコスト最適化に取り組む必要があり、2026年までに、クラウドを「自分で運転」し始めている企業の30%が、クラウドコストをオンプレミス時代の10分の1にまで抑制するとガートナーはみている。

ハイブリッドクラウド/Newオンプレミス/オンプレ回帰

 ガートナーの2023年4月調査では、SaaSの35%、PaaSとプライベートクラウドの25%に続き、IaaSの導入率割合も24%となり、着実にクラウドは浸透している。また、同調査では、外部クラウドサービスへの投資意欲が引き続き高い一方で、オンプレミスへの投資意欲も回復傾向にあった。

 亦賀氏は「すべてが外部クラウドになるということは、もともとありませんし、クラウドを止めてオンプレミスに戻ったといういわゆる『オンプレ回帰』という現象が見られているわけでもありません。オンプレミスか、クラウドか、を問うのは過去の話になりつつあります。重要なことは、『オンプレ対クラウド』の議論ではなく、企業として時代の変化に対応できるようなスタイル・チェンジができるかどうかです」と述べる。

 ガートナーは従来型のシンプルなスタックから構成されるオンプレミスではなく、クラウドネイティブの要素を取り入れた新しいオンプレミスを「Newオンプレミス」と呼んでいる。

マルチクラウド

 現在、マルチクラウドは計画的マルチクラウド、自然発生的マルチクラウド、発展的マルチクラウド、先端的マルチクラウド、戦略的マルチクラウド、分散マルチクラウドの6つのタイプに分類できる。

 マルチクラウドは、クラウドプロバイダーによるロックインのリスクを低減し、特定のユースケースに最適な機能を提供するほか、俊敏性、スケーラビリティ、および弾力性というクラウドのコアメリットに加えて、サービスの復元力と移行の機会をもたらす。

サービスファクトリ

 サービスファクトリは、クラウドネイティブを中心とする多様なテクノロジーや方法論を包括し、アプリケーションやインフラをサービスとして提供するための「サービスデリバリ」のフレームワークである。テクノロジーや方法論には、クラウドネイティブやDevOps、継続的インテグレーション/継続的デリバリ(CI/CD)、コードとしてのインフラストラクチャ(IaC)、サイト・リライアビリティ・エンジニアリング(SRE)、可観測性などが含まれる。

 企業は、サービスファクトリを新たなビジネスの基盤として捉え、自動化を積極的に進めることで、ビジネスを段階的にスケールできるようになる。

生成AI

 現在、多くの企業が生成AIを積極的に試行・実験し始めている。大規模AIスーパーコンピュータの開発や大規模言語モデル(LLM)開発用途、自社データへの生成AI機能の組み込みなど、クラウドコンピューティングにおける取り組みも進化している。

 亦賀氏は、「AIとの共生時代が当たり前のものとなりつつあります。このような中、ハイパースケーラーによる生成AI競争はサービス・ファクトリへの生成AIの組み込みやAIエージェント、分散クラウド、空間コンピューティングに向けて加速していくでしょう」と述べる。

ハイパースケーラーのトレンド

 AWS、Microsoft Azure、Google Cloudなどのハイパースケーラーは、さまざまなイノベーションを行っており、取り組みを加速させている。一方、ハイパースケーラーによってその取り組みや姿勢には差がある。企業は、ハイパースケーラー各社の戦略や取り組みの違いなどを、引き続き注目すべきである。

ソブリンクラウド

 国内外のデータ保護やプライバシー関連規制の強化、地政学的リスクの高まり、セキュリティリスクの急増、経済安全保障や産業政策を背景に、外国が所有・運営するクラウドサービスにホストされるデータ、インフラ、運用のソブランティ(主権)に対する懸念が高まっている。

 データレジデンシ(データの所在)要件とクラウド運営の自律性を満たした管轄区域内で提供されるソブリンクラウドは、ハイパースケーラー各社も取り組みを強化していおり、今後も各社の取り組みや各国政府の規制の強化などの動向を注視していく必要がある。

クラウド人材・組織

 2030年に向けてテクノロジーを駆使できる企業とそうでない企業の二極化が進み、企業が進化するには、生成AIなどを駆使できる実行力を獲得するための、テクノロジー人材が重要になる。

 企業はテクノロジーとの向き合い方を見直し、個人や組織としてのスキル、マインドセット、スタイルを変革させるとともに、人間中心の観点から従業員を大事にし、彼らが元気に活躍できる環境を整える必要がある。

クラウド戦略

 クラウド戦略の推進には、クラウドを使いこなせるスキル、マインドセット、スタイルを高めた人材が、テクノロジーを駆使して、ビジネスアーキテクチャの構築や次世代サービスファクトリを実践し、ビジネスをスケールさせることが重要になる。これをユーザー企業が実践するためには、テクノロジの観点だけでなく、人材への投資を含めたロードマップの策定が必要となる。

 亦賀氏は、「日本企業はいつまでもクラウドについての同じ議論をしている場合ではありません。2024年はクラウド戦略のスコープとフォーカスを再設定し、2030年以降を見据えて、テクノロジを駆使したさまざまな取り組みを推進させる必要があります」と述べる。

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