ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第742回
Ryzen Threadripper 7000シリーズのターゲットはAMDの熱狂的なファン AMD CPUロードマップ
2023年10月23日 12時00分更新
Ryzen Threadripper 7000 HEDTのターゲットは
AMDの熱狂的なファンと最大限の拡張性が欲しい人
ここで疑問になるのは、Ryzen Threadripper 7000 HEDTのターゲットユーザーである。実はこの点に関しては明確なメッセージがいまだにAMDから出されていない。実際下の画像にあるRyzen Threadripper 7980Xのベンチマークデータはワークステーション向けのものであって、HEDT向けではない。

Ryzen Threadripper Pro 5995WXとの比較。DDR4-3200×8chとDDR5-5200×4chでは、メモリー帯域は204.8GB/秒 vs 166.4GB/秒で2割弱の低下で済んでおり、一方CPU性能はIPCと動作周波数向上の両方の効果で大きく上がっている結果を考えれば妥当ではある

Xeon X9-3495Xとの比較。5889ドルのCPUよりも高い性能、という点を強調したいのだろうが、ワークロードが違う気がする
ではどんなユーザーがターゲットになるのか? 少なくとも3Dゲーミング向けとは言い難い。マルチスレッド性能では確かにRyzen 9 7950Xを上回るのは間違いないが、ゲーミングではシングルスレッド性能の方が効果的だし、さらに言えば3D V-Cacheが大きな効果を発揮するわけで、どう考えてもオーバーキルに過ぎる。
ローエンドのRyzen Threadripper 7960Xですら、定価ベースでRyzen 7 7800X3D(449ドル)の3倍以上(実売価格ではさらに差が付く)であり、しかも性能的にはRyzen 7 7800X3Dの方が上であろうと推定されることを考えると、おそらく用途は異なる。個人ベースで動画の編集(Vtuberの方向け)や写真の現像をされる方には間違いなく有用であるだろう。
このあたりを突っ込んだところ、「AMDの熱狂的なファン向け」というよくわからない回答以外に「Ryzen Threadripperは最大限の拡張性が欲しい人向け」という返事が返ってきたのはまぁ評価できる。
筆者みたいに7枚のディスプレーを接続するためにGPUを2枚、他にRAID 1を4組ぶら下げてる関係でSATAが最低8ポート、あと(オンボードGbEが壊れたので)GbEを2枚装着する、なんてユーザーには確かにAM5マザーボードでは「スロットが足りない」という感じになりがちである。そういうユーザー向けと思えば88レーンのPCIeも理解できるというものだ。
ただよほどのワークロードでもない限り普段はCPUコアが遊びがちになる。連載740回の話に戻るのだが、現状DirectMLはGPUを、OpenVINOはNPUを利用するパターンがほとんどである。ただ例えばOpenVINOはCPUでも利用できるし、DirectMLも適切なUMDドライバーを提供できればCPUで処理することも可能なはずである。
そこで、「64コアのRyzen Threadripper 7000 HEDTであっても、VNNIが搭載されているのでこれを使うことでAI/機械学習まわりの処理はかなり高速にCPUで実施できると思うのだが、そのあたりの対応は?」突っ込んで聞いてみた。
AMDによれば、なんとすでにDirectML用のCPUドライバーは完成してマイクロソフトのWHQLを取得しているし、OpenVINOですら問題なく動いているのだという。ただしアプリケーションがCPUを使うように指定してくれないと動かないので、あとはアプリケーションの対応待ちだ、という話であった。
このあたりの対応が進むと、Ryzen Threadripper 7000 HEDTの有用性がさらに高まりそうに思う。ソフトウェアベンダーの対応を期待したいところだ。
11月21日から出荷開始
なお、先にRyzen Threadripper 7000 HEDTの価格は示したが、Ryzen Threadripper Pro 7000 WXシリーズの方はまだ価格が公開されていない。どちらも11月21日から出荷開始とされているので、そのタイミングで公開されるのかもしれない。
ただThreadripper ProはリテールではなくOEMメーカーからシステムの形で提供されるのが最初なので、価格は公開されないままの可能性はある(リテール販売に関してはまだ決まっていない、とのことだった)。

この連載の記事
-
第813回
PC
Granite Rapid-DことXeon 6 SoCを12製品発表、HCCとXCCの2種類が存在する インテル CPUロードマップ -
第812回
PC
2倍の帯域をほぼ同等の電力で実現するTSMCのHPC向け次世代SoIC IEDM 2024レポート -
第811回
PC
Panther Lakeを2025年後半、Nova Lakeを2026年に投入 インテル CPUロードマップ -
第810回
PC
2nmプロセスのN2がTSMCで今年量産開始 IEDM 2024レポート -
第809回
PC
銅配線をルテニウム配線に変えると抵抗を25%削減できる IEDM 2024レポート -
第808回
PC
酸化ハフニウム(HfO2)でフィンをカバーすると性能が改善、TMD半導体の実現に近づく IEDM 2024レポート -
第807回
PC
Core Ultra 200H/U/Sをあえて組み込み向けに投入するのはあの強敵に対抗するため インテル CPUロードマップ -
第806回
PC
トランジスタ最先端! RibbonFETに最適なゲート長とフィン厚が判明 IEDM 2024レポート -
第805回
PC
1万5000以上のチップレットを数分で構築する新技法SLTは従来比で100倍以上早い! IEDM 2024レポート -
第804回
PC
AI向けシステムの課題は電力とメモリーの膨大な消費量 IEDM 2024レポート -
第803回
PC
トランジスタの当面の目標は電圧を0.3V未満に抑えつつ動作効率を5倍以上に引き上げること IEDM 2024レポート - この連載の一覧へ