まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第86回
【第2回】アニメ『PLUTO』丸山正雄プロデューサー(スタジオM2)インタビュー
「『PLUTO』は手塚さんへの最後のご奉公」――彼の“クレイジーさ”が日本アニメを作った
2023年04月30日 15時00分更新
丸山流が凝縮された拘り
―― 地上最大のロボットがベースということで、先ほど庵野さんのお名前も出ましたが、たとえば『シン・エヴァンゲリオン劇場版』であれだけのスケールのものが描かれたことで、表現という意味でもハードルは上がった感があります。
丸山 じつは制作途中に、ぼくと浦沢さんが折り合わなかった点があります。ぼくはこの作品をどうやって売っていこうかと考えた末、登場ロボットのデザインを、庵野さんと一緒にやっているような、日本でロボットアニメをここまで育てた人たちにお願いしようと思って、勝手に発注しちゃったんです。
でも浦沢さんは「ダメだ」と。この話は手塚さんの世界を浦沢流にやっているから、ロボットに関節はないんだ、と。……鉄人28号にはありませんが、最近のロボットには関節がありますよね。
―― そうだったのですか!? ちょっと見てみたかった気もします。
丸山 浦沢さんはそこを意識して描いているので、全部ダメだと。有名なメカデザイナーに描いてもらったものは全部キャンセルになり、「ごめんなさい、ダメでした」と、頭を下げて回ることになりました。
考えてみれば、作中でもロボットか人間かを判別するセンサーが登場したり、登場人物がアトムを見て、これはホントにロボットなのかと驚いたりする、そんな話ですから。
「すみません、浅はかでした」と謝りましたね。しんどかったことの1つです。
―― もしかすると、一周回っていわゆるレトロなほうが受けるかもしれませんね。
丸山 あえて格好良くしてないんです。機能としてのロボットを意識しているので、ロボットアニメファンの期待に応えることはしていません。デジタルのフルアニメーションでロボットを全部描いちゃおうかなと思ったこともありましたが、むしろチープでも、精巧じゃなくても良いじゃないか、と最後は腹をくくりました。
―― 最後にASCII.jpの読者向けにメッセージなどあればお願いします。
丸山 こんなことやる人、あんまりいないだろうと。あとは真木さんに語ってもらえればと思います。ぼくが話すと、どうしても欠陥とか、見どころがいくつかある=すべてではない、という言い方になってしまいます。全部良いって言ってしまうと、それはぼくにとっては嘘になってしまうからね。
強いて言えば、4巻は浦沢さんがまずすごい展開を用意した――つまり手塚治虫とガッチリ組み合ったところなので、我々もがんばって映像化しています。
あとは、多少の欠点を超えて面白さをどこまで追求できたか、光栄にも手塚と浦沢の想いを引き継がせてもらったぼくらが、彼らの作品の凄さにどこまで迫れているか、ぜひ見てもらえればと思います。
配信開始は2023年を予定していますが、納品はもっと前なんです。全世界向けの字幕を入れる必要があるので。だから、ほぼ完成が見える段階まで来ています。限界はありますが、ギリギリまで頑張っていきたいなと。
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